残念ながら日本の話ではない。ドイツ、米国での開発の結果である。
NASAとGMが5本指のハンドを持った関節トルク制御方式の7自由度アーム(Robonaut2)を開発し、双腕として構成し、上半身ヒューマノイドを作った。レンジファインダーによる視覚と組み合わせて、機械組み立て作業の研究を行っているようだ。ロボット単体の開発にとどめず、作業の研究を始めていることに敬意を表したい。これこそが求められていることだ。
このアームは15年以上前からNASAがRobotics Research社に開発をさせていたものが原型になっている(下の写真参照、15年前に完成している)。アーム自体はほとんど15年前のもの(2008年8月21日のブログで紹介した)と変わっていないのではないか?
ただし、5本指ハンドに関しては今回始めて知った。数kgのものまで把持できるようだから、相当頑丈に作ってあるようだ。非常にコンパクトに作ってある。ハンドの研究は学会では古くから行われているが、5本指を実用化しようという試みは新しい。機械組み立てには5本指ハンドが必要という判断があったものと思われる。
数年前から、GMが加わって開発を加速しているようだ。GMは自動車の組み立てに使いたいようだ。NASAは宇宙空間での作業に使いたいのだろう。
関節トルク制御方式のロボット開発は、以前にこのブログでも紹介したように、ドイツの航空宇宙研究所でも開発(Light Weight Robotのビデオ参照)され、現在はKUKA社が用途研究中である。2011年までにユーザに200台くらい配って作業研究をしてもらう計画だそうだ。
Robonaut2は価格的に現状ではとても生産ラインで使えるようなものではないが、長期的に研究して実用化に持ってゆこうという息の長さが感じられる。GMが加わっているから相当早くテスト使用が始まるかもしれない。
日本はホームロボットとか2足歩行型ヒューマノイドの研究にシフトしたため、このような機械組み立てのような作業の実用化研究が遅れているのではないか?
また、日本では関節トルク制御型のアームの研究はされていないようだ。価格が高くなりすぎて実用的ではないという理由である。関節角度制御方式でも手先に6軸力トルクセンサをつければ、同様の性能を得ることができるという判断があるらしい(実際には性能的には相当劣る)。日本では関節トルク制御方式は関節トルク検出機構がコストアップにつながるとの見解を引きずって、いつまでもロボット構造の変革ができていない(注1)。しかし、実際にはそれほど複雑な構造にはならないし、ロボットの新しい使い方を可能にする変革だから、いつまでも躊躇を続けていれば日本の産業用ロボット技術は世界から遅れをとるに違いない。
注1:関節トルクセンサ方式でなくて、モータ電流から関節トルクを推定して関節トルクを制御する方式が東芝から発表され、東芝機械のロボットに実装した例(下の写真参照、TV800)がある。センサなどを搭載する必要がなく、ソフトウェアで推定するので、アームはコストアップなしに作れるのが特徴である。実作業のビデオが発表されており、それを見る限り嵌め合い作業などは作業速度が遅い(嵌め合い作業のビデオ参照)ように感じた。このレベルの速度で現場の要求にこたえることができるか?今後市場の評価を受けることになる。