いよいよ今年の11月にPS3の発売が開始される。今日の朝日新聞朝刊でソニー・コンピュータエンターテインメント社の久多良木社長がPS3について語っていた。PS3は「ソニーグループどころか全産業界の命運を握っている。コンピュータ産業と家電産業、ゲーム産業はほとんど融合すると思う。PS3はそうした時代に家庭内で多様な機能を満たすコンピュータシステムとして、大きな可能性がある」そうだ。PS3はソニーが新開発したCellコンピュータで駆動されている。Cellコンピュータはマルチメディア時代の情報処理システムが必然的にリアルタイム分散処理になることを見越して開発されたマルチプロセッサによるリアルタイム並行処理システムと思われる。
似たような狙い(?)で1980年代に旧インモス社(英国)で開発されたトランスピュータ(分散処理型コンピュータ、専用言語はOccam)がある。複数のプロセッサを高速通信回線で結んで、それらの並列処理でトータルとしての処理速度を高めようという狙いだったと記憶している。大いに期待されたが、そのうちに姿を消してしまった。その後の汎用マイクロプロセッサの演算速度の向上や価格低下が著しく、トランスピュータがそれらに追いつけなかったためと思われる。
今回もまた、汎用のマイクロプロセッサの演算速度の向上の限界が予測される中で、ソニーが開発に踏み切ったわけである。今回はゲーム機という具体的な用途を明確した中での開発であり、ソニーでなければ出せないような高額な開発費を投入した中でのデビューである点がトランスピュータの場合と異なっている。SP3にもマイクロソフト社製のXboxという強敵がいる。Xboxは汎用コンピュータを使ったアーキテクチャでSP3に挑戦している。果たして、SP3という新しいアーキテクチャがマルチメディア処理用の主流として認知されるだろうか?それともPS3用の専用として留まるのか?
筆者の希望としては、非常に重要な技術開発であるだけに、ソニーだけに任せずに、多くの企業・研究所が競争して取り組んでほしいと思う。いや取り組んでいるに違いない。
たとえば、独立行政法人 産業技術研究所 デジタルヒューマン研究センターではヒューマノイドロボットのための実時間分散処理システムの高性能化に取り組んでいる。あたらしい実時間・並列処理アーキテクチャ基づくRMTP(Responsive Multi-Threaded Processor)にも注目したい。