2015年5月アーカイブ

 Baxterは他のco-robotと比べて、大きな特徴が二つある。一つ目は、各ジョイントにトルクセンサに加えて金属ばねが挿入されていることである。他のco-robotのジョイントには金属バネは使われておらず、トルクセンサか、トルクを推定するアルゴリズムが準備されているか、または何も用意されておらずにモータ出力を80W以下に制限しただけのものもある。

 二つ目はアームケーシングやカバーがプラスチックス製であり、さらにギヤトレーンにプラスチックスや焼結合金製のギヤが採用されていることである。他のco-robotの場合、ほとんどがハーモニック減速機を採用している。

 これらの特徴的な構造を採用したために、優れた特性と望ましくない特性がそれぞれ発生してくる。優れた特性とは、まずバネの挿入に関しては衝突時の本質安全を確保できる点であろう。他のco-robotが採用しているトルクセンサによる衝突時の安全停止はトルク制御系が故障した場合には役に立たない。

 二つ目の特徴に関しては、製造価格が大幅に低下できることであろう。Baxterは双腕にもかかわらず、単腕のco-robotよりも価格が安い。ハーモニック減速機を使わないことで価格を下げることができる上に、歯車の材料をプラスチックスや焼結合金に変えることによって1/5以下にできた。さらに、ベアリングやモータに廉価品を採用することで価格を更に下げることに成功している。
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 一方、望ましくない特性も出てくる。
 まず、ジョイントに金属バネを入れることで、アームの加減速時にアームの振動が発生し、位置決めの精度が悪くなるし、振動を発生させないように動かすと動作時間が長くなる。次に歯車材料にプラスチックスや焼結合金を使ったり、ベアリングやモータに廉価版を使うことで、ロストモーションが発生し停止時に振動が出やすくなる。これをソフトウェア(学習機能など)のバ-ジョンアップで修正してゆくのが設計方針であるらしいが、不十分に思える。

 実際に、Baxterの動作例をビデオで観察すると、動作が少し振動的であり動作も遅い。しかし、Brooksは、従来の産業用ロボットのように機械系の高精度な特性で仕事をするのではなく、Baxterは人がやるように目で見て掴んだり、手で相手に倣ったりして、人と同じ速度で仕事をするので、機械系の精度不足は問題にならないと主張している。

 筆者の考えを述べると、Baxterは現状のままでは生き残りは難しく思える。本質安全であること、価格が安いこと、使いやすいこと(Lead through Teachingなど)は魅力的だが、双腕を有効に生かす応用例が少なく、大部分が単腕でも出来る作業のプレゼンテーションである。また、動作速度が遅い点や精度の悪さにより、一部の作業にしか利用できない。ソフトウェアだけでの改善は難しいと思われる。それに加え機械寿命(useful life)が6,500時間とUniversal Robotの1/5と短い。これらが他のco-robotとの競争の際に、致命傷になると思われる。

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 Rethink Robotics社はBaxterの利用者からの要望(位置精度や作業速度をもっと高めてほしい)を基に、Baxterのコンセプトを考え直し、新しい単腕小型ロボットSawyerを発表した(2015年)。アームのケーシングはアルミ製となり、減速機にハーモニック減速機を採用した点と、手先のカメラシステムをもっと高精度にした点が大きく異なる。 ジョイントに金属バネを挿入して、コンプライアントな接触を目指す点はBaxterと同じ。Sawyerの目指す作業はエレクトロニクス関連に絞っているようだ。しかし、実際の作業例のビデオがまだ発表されてないので、ジョイントに挿入した金属バネが作業特性を悪くしていないかは、判断できない。

 co-robot型の産業用ロボットの研究の歴史は古く、一番古いのはドイツKUKA社のLWR(最新名はLBR iiwa)で、発表されたのが2004年頃。各ジョイントにトルクセンサを内臓。 2012年に欧州で発売開始、2015年には日本でも発売。トルクセンサにより衝突時の安全停止やアームを人手で移動させて教示できる。

 ABB社の双腕ロボットYuMi2006年ごろから研究を開始し、2015年発売開始。ジョイントにトルクセンサは内蔵していないが、モータ電流を制御してco-robotの特性を実現している。アーム(可搬質量500g)が小型であり、腕が柔らかいパッドで覆われているため、衝突の衝撃は小さく、手でアームを移動させて教示できる。

 次に古いのは米国Rethink Robotics社のBaxter(双腕)で、研究着手が2008年と思われる。発売は2012年。各ジョイントにバネとトルクセンサを内臓。トルクセンサにより衝突時の安全停止やアームを人手で移動させて教示できる。

 次に古いのはUniversal Robots社のUR5で、発売されたのが2009年(会社設立は2005年)。ジョイントのトルク推定方式?(センサなし)。衝突時の安全停止が可能。トルクセンサがないためにアームを持って移動させながら教示点(waypoint)を教えるのは、トルクセンサありのロボットと比べると相当ぎこちない(力が要る)。

 川田工業のNextage(双腕)の発表も2009年。ジョイントトルクセンサなし、全モータ80w以下。

 以下の4体は2015年前後に発表されたもの。

安川電機の人間協調型双腕ロボットは~2015年発表。全モータ80W以下。

 Rethink Robotics社のSawyer(単腕)は2015年発売。各ジョイントにばねとトルクセンサ内臓。

 GOMTEC社のRoberta(単腕)は~2015年に発売したが同年ABB社が吸収。手先に力センサ装着?

 ファナックの協調ロボットは2015年発表。各ジョイントにトルクセンサ内臓し、アームを柔らかいカバーで覆って、人と接触時の衝撃を緩和している

以下にそれぞれの写真を掲載する。出典はそれぞれの会社のホームページ。



iiwa.png

LBR iiWa ビデオ(2種)

可搬質量7~14kg
自重23.9~29.9kg
自由度(7)、繰り返し精度 ±0.1mm

TCPの最高速度 約1m/sec

価格$50,000~$100、000(560万円~1120万円強)



Universal robot ur5.png

UR ビデオ(3種)

リーチ 500mm~1300mm
可搬質量3~10kg
自重11~28kg
自由度(6)、繰り返し精度 ±0.1mm

            TCPの最高速度1m/sec、
            価格$23,000~45,000(250~500万円)



nexstage.jpg

Nextage ビデオ
可搬質量1.5kg(片腕)
自由度(片腕6、首2、腰1)
速度13~300deg/sec
価格700万円







215-Baxter.jpg

Baxster ビデオ
可搬質量2.2kg(片腕)、質量75kg

自由度(片腕7、首1)

最高速度1.0m/sec

位置精度 N/A

価格$22,000(240万円)


249-yaskawa.jpg

MotomanBMDA3 ビデオ
可搬質量3kg(片腕)、質量60kg

自由度(片腕7、腰1)


231-Sawyer.jpg



Sawyer ビデオ

リーチ 1230mm
可搬質量4kg、質量19kg

自由度(7)、位置精度 ±0.1mm

典型的なツール速度 1.5m/sec

価格$29,000(320万円)




234-Gomtec.png

Gomtec社のRoberta ビデオ(3種)
可搬質量4~12kg、質量14,5~30,5kg

自由度6、価格$30,000~35,000(330~390万円)

Gomtec社はABB社が買収











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YuMi ビデオ
可搬質量0.5kg(片腕)、質量38kg

自由度(片腕7)、精度 ± 0.02mm

価格$40,000(440万円)


237-Funac.jpg

CR-35iA ビデオ

可搬質量35kg、質量990kg
自由度6、繰り返し位置精度0.08mm

安全監視時速度250mm/sec(最高速度750mm/sec)

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