Baxterは他のco-robotと比べて、大きな特徴が二つある。一つ目は、各ジョイントにトルクセンサに加えて金属ばねが挿入されていることである。他のco-robotのジョイントには金属バネは使われておらず、トルクセンサか、トルクを推定するアルゴリズムが準備されているか、または何も用意されておらずにモータ出力を80W以下に制限しただけのものもある。
二つ目はアームケーシングやカバーがプラスチックス製であり、さらにギヤトレーンにプラスチックスや焼結合金製のギヤが採用されていることである。他のco-robotの場合、ほとんどがハーモニック減速機を採用している。
これらの特徴的な構造を採用したために、優れた特性と望ましくない特性がそれぞれ発生してくる。優れた特性とは、まずバネの挿入に関しては衝突時の本質安全を確保できる点であろう。他のco-robotが採用しているトルクセンサによる衝突時の安全停止はトルク制御系が故障した場合には役に立たない。
二つ目の特徴に関しては、製造価格が大幅に低下できることであろう。Baxterは双腕にもかかわらず、単腕のco-robotよりも価格が安い。ハーモニック減速機を使わないことで価格を下げることができる上に、歯車の材料をプラスチックスや焼結合金に変えることによって1/5以下にできた。さらに、ベアリングやモータに廉価品を採用することで価格を更に下げることに成功している。
一方、望ましくない特性も出てくる。
まず、ジョイントに金属バネを入れることで、アームの加減速時にアームの振動が発生し、位置決めの精度が悪くなるし、振動を発生させないように動かすと動作時間が長くなる。次に歯車材料にプラスチックスや焼結合金を使ったり、ベアリングやモータに廉価版を使うことで、ロストモーションが発生し停止時に振動が出やすくなる。これをソフトウェア(学習機能など)のバ-ジョンアップで修正してゆくのが設計方針であるらしいが、不十分に思える。
実際に、Baxterの動作例をビデオで観察すると、動作が少し振動的であり動作も遅い。しかし、Brooksは、従来の産業用ロボットのように機械系の高精度な特性で仕事をするのではなく、Baxterは人がやるように目で見て掴んだり、手で相手に倣ったりして、人と同じ速度で仕事をするので、機械系の精度不足は問題にならないと主張している。
筆者の考えを述べると、Baxterは現状のままでは生き残りは難しく思える。本質安全であること、価格が安いこと、使いやすいこと(Lead through Teachingなど)は魅力的だが、双腕を有効に生かす応用例が少なく、大部分が単腕でも出来る作業のプレゼンテーションである。また、動作速度が遅い点や精度の悪さにより、一部の作業にしか利用できない。ソフトウェアだけでの改善は難しいと思われる。それに加え機械寿命(useful life)が6,500時間とUniversal Robotの1/5と短い。これらが他のco-robotとの競争の際に、致命傷になると思われる。
Rethink Robotics社はBaxterの利用者からの要望(位置精度や作業速度をもっと高めてほしい)を基に、Baxterのコンセプトを考え直し、新しい単腕小型ロボットSawyerを発表した(2015年)。アームのケーシングはアルミ製となり、減速機にハーモニック減速機を採用した点と、手先のカメラシステムをもっと高精度にした点が大きく異なる。 ジョイントに金属バネを挿入して、コンプライアントな接触を目指す点はBaxterと同じ。Sawyerの目指す作業はエレクトロニクス関連に絞っているようだ。しかし、実際の作業例のビデオがまだ発表されてないので、ジョイントに挿入した金属バネが作業特性を悪くしていないかは、判断できない。