サイボーグ研究の最近のブログ記事

 ロボット技術を進化させるために、目標機能を設定して、性能の高さを競うというのは、第1回Amazon Picking Challenge で見たように有効な方法であり、来年には第2回が予想され、性能の大幅なアップが期待される。

 同様なRobotic競技会には、米国Darpa(米国防総省高等研究計画局)主催のGrand Challenge(→Urban Challenge、当Webの2008.4.28参照)が有名である。 無人走行自動車のUrban Challengeは2004年から行われ、数回の実施を経て、「無人走行自動車のためのハードウェアやソフトウェアの基本技術」の開発を終了した。現在は個々のメーカが市販自動車の実用化を目指してしのぎを削っている。


 また、2足歩行ロボットの開発を目標とするDarpa Robotic Challengeが2012~2015におこなわれ、世界各国の研究者がロボット開発に参加し、ロボットの完成度を高めてきた。現状ではまだまだ安定歩行、速度の面で未完成と思っていたが、最近、Google傘下のBoston Dynamics社が完成度の高い2足歩行のビデオを発表(日刊工業新聞、ニューススイッチ参照)し、驚いている。競技会で得られた知見を取り入れて再開発したものと思われ、Robotics競技会の有効性を思い知らせられた。

Atlas.jpg

 このような中、日本でも産業用ロボットの進化をメーカが単独で開発するのではなく、広く大学やベンチャーなどの研究能力を活用しようとする動きが始まっている。産業用ロボットの現状の能力は、すでに数十年前から変わっておらず、さらに進化が求められている。 先回のブログで紹介したAmazon Picking Challengeは、作業内容を明確にした作業実現コンテストであり、その過程で開発項目が明確になり、新しいソフトウェアやキーデバイスの開発が進むと期待できる。

 デンソーウェーブや川崎重工はロボットアームのサーボ部分に、ROS経由で、直接アクセスできるロボットアームを販売する予定とのことである(下写真)。研究者はROSの下で開発されているソフトウェアを自由に組み合わせたり、新しく追加したりして、ロボットの新しい能力を実現しやすくなる。

 日本もAmazonやDarpaのように、Challengeテーマを設定し、ロボット機能の開発をスピードアップさせる試みをやってはどうか?

双腕cobotta.jpg

デンソーウェーブ製 双腕型Cobotta

 C3131028-2[1].jpg

川崎重工業製 7軸ロボット

ロボットスーツ

| コメント(0)

 筑波大学の山海教授のグループが開発したロボットスーツが話題を呼んでいる。この度、大和ハウスが量産を引き受けることになったそうである。住宅での介護用機器として期待しているのであろう。確かに、最近発表されているロボット技術・製品の中では一番そのコンセプトに説得力があるような気がする。今後の技術開発で得られる性能向上を考えると夢が広がってくる。
 テレビで山海教授が話しておられる内容を聞いた範囲でしか私はこのロボットスーツの制御方式を理解していないが、なかなか興味深い。要するに、筋電信号処理と二足歩行ロボット技術とを巧みに融合させたものだろうか?制御の不完全な部分はスーツを着ているのが人間だからうまく調整補完してくれる。人の知能と機械系を融合させたシステムであり、現状では一番賢い知能ロボットの実現方法といえよう。それにしても、筋電を使ってこれほどまでにスムースな動きが出来るものかと感心した。大いに期待したい。
 TVなどの報道だけではどの程度の性能を持ち、スーツを着る人間がどの程度訓練しなければならないのかが詳しくはわからない。人を抱き上げて移動する場合を想定すると、機械系が破壊したり制御が出来なくなった時、運ばれている人間の安全、更にはスーツを着ている人間の安全保証も気になるところである。

 NHKハイビジョンでヒューマンロボットインターフェースの番組を見た。
立花隆(作家)さんの調査記録であり、ERATOの川人(学習動態脳プロジェクトリーダ)さんや筑波大学の山海教授(パワースーツ開発研究)が出席していた。
内容のレベルが高い番組だった。

 驚いたのは米国ではDARPAが兆円オーダの資金を兵隊ロボットの研究につぎ込んでいるということだった。プレディターに代表されるような兵隊ロボットの開発については知っていたが、ねずみの脳に浸襲型の電極を埋め込んでその行動を指令する驚くべき研究についは初めて知った。
 浸襲型電極を脳に埋め込んだねずみを迷路にいれ、人間が電波で右、左と移動方向を指令すると、そちらの方向へ進んでゆき、迷路を脱出できるのだ。カメラを取り付ければ、ねずみに戦場で斥候の役をやらせられるという。

写真:電極に繋がるコントローラを担いだ「ねずみ」の写真がそれである。NHKスペシャル補遺サイト(http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp/sci/project/nhksp/)から引用させていただいた。

 動物虐待のそしりは免れないが、斥候で人間の兵隊が死ぬ可能性が高いことを考えればやむをえないと開発者は言っている。脳に電極を埋め込んでその行動を支配できるということは相当に脳の研究が進んでいることを物語っている。まさにサイボーグであり、それがこのような形にまで現実化していると思うと、恐ろしくもある。悪人が人間に適用したらどんな恐ろしいことが起こるか?
 やってよい研究なのか、技術アセスメントを早急にやるべきであろう。

 川人さんは自分は人間に装着した非浸襲型センサを使って外部の機械ロボットを制御するという方向で研究開発を進めると言っていた。非浸襲ならば外部の人間からは人間(生物)が制御されることは無い。人間が動作を考えることで脳波または筋電を発生させて、これを使って外部のロボットを制御することはできる。

 立花隆さんは日本の産業用ロボットが世界一だということと、エンターテインメント型ロボットへトヨタ、ホンダが入れ込んでいることを述べて、米国のやり方と比較していた。
 筆者は別の論文で、「現在二足歩行ができたから人に役に立つロボットができたと思うのは早計で、そのような知能ロボットで作業ができるにはまだまだ数十年は必要だ」と述べたが、ロボット先進国のロボット研究者もそれを数十年も待っていることはせず、別の道を突き進んでいることがわかった。つまり人間または生物の知能と、ロボット機械とを電気信号で結合(インターフェース)するサイボーグ化の方向だ。知的パターン認識、総合判断(人類はその原理をまだ解明していない)は生物に任せ、兵器機能は機械に任せるという、役割分担の方向だ。

 サイボーグロボット研究の過程を踏みつつ、純人工の知能アルゴリズムが理解されてゆくことはあると思うが、しかし、イラクで頻発している自爆テロをねずみや犬にやらせることを米軍が計画しているとしたら(そんなことはしないと思うが)、それこそ生命の軽視で、人類の滅亡につながる行為であるとして非難の声を上げねばなるまい。

 

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうちサイボーグ研究カテゴリに属しているものが含まれています。

次のカテゴリはホームロボットです。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。