2015年8月アーカイブ

 スイスのABB社製のYuMiロボットは小物組みつけ用(500g~1kg)の双腕型ロボットである。

ABBYuMi.jpg

YuMiの仕様
    

 

単位

 

質量

kg

38

可搬重量(短腕)

g

500

自由度

7

リーチ

mm

559

位置再現精度

±mm

0.02

最高速度

m/sec

1.5

安全基準

IP30

 



 ABB社はYuMiをスマートフォンの組み付け用などに使いたかったらしいが、双腕14自由度を平面組付けが多いように見えるスマートフォンなどに使うのは、非合理的かもしれない。
 片腕7自由度は障害物を避けるのには都合がよいので、カメラやその他、小型の家電製品など立体的な対象を組み付ける場合には、有効に使えると思う。また、双腕ならば治具なしで組み立てられる場合もある。

 だから、Foxconnがスマートフォンの組み立てにYuMiを使うだろうか?Faxconn社もロボットを自主開発している。しかし、3年後にiPhoneの製造ラインの70%を自動化するというGou CEOの希望を達成するには、YuMiを使う場合もあるかもしれない。

一方、価格は$40,000(500万円)であり、単腕アーム2本と考えれば1本当たり$20,000(250万円)となるが、単腕2本をそれぞれ別のプログラムで動かすことも出来るとしても、少し高い。 

 双腕とすることについては、過去色々な意見があり、実際に色々な双腕ロボットが発売されているが、あまり売れてはいないようである。

baxter-corobot.jpg

sawyer-cobot.jpg

 米国Rethink Robotics社も双腕型のCo-robotのBaxterを販売したが、現場からの声の大部分が単腕ロボットで十分間に合うというものだったので、Baxterの後継co-robotとして単腕型のSawyerを開発中である。

 双腕への反対意見は、両腕が必要な場合には、「単腕を2台使ったほうが合理的」というものである。
 ABB社は、まず自社の生産ラインでのYuMiの適用の成功例をユーザに見せる必要があろう。

 参考ビデオ

 1.YuMiによる組み立ての例1


 2.YuMiによる組み立ての例2


 3.YuMiによる組み立ての例3

    この映像を見ると、現在まだ人手に頼っている縫製作業の自動化がYuMiで

    できるのではないかと、想像される。


 4.YuMiの設計思想、仕様など



 

 いままで観てきた安全なco-robotや、柵で囲む必要のある従来型の高速組み付けロボットなどは今後どのようにスマートフォンやタブレットに代表される電子機器の自動化に関係してゆくだろうか?

 ポイントは変種変量の混流生産である(注1)。iPhoneなどのスマートフォンやiPadなどの電子機器は発売時には生産量が多いが、短期間(数ヶ月~1年)で生産量が落ちてゆく。また、複数種類の製品が同じラインで生産される。

 このような生産ラインをロボット化しようとすると、ことはそう簡単ではない。Foxconnもロボット化を試みているが、まだ一部にとどまっている。

 変種変量の混流生産のロボット化には例がある。iPhoneのような電子機器ではないが、デンソーが、カーエヤコンの組み付けラインをロボットによって約70%自動化した例がある。50種類の仕様の違うカーエヤコンを同じ生産ラインで、1ロット6台ぐらいで切り替えて生産している(月産、約45万台)。生産量の増加、減少には、関連するロボット台数(=セル台数)を増減して調整する循環型生産方式で対応している(写真、上、出典 日経テクノロジーonline 2012/03/21)。

カーエアコン組み立て用セルの例.jpg


 電子機器の組みつけにロボットなどを利用して自動化率約47%を実現した例として、富士通周辺機(株)のWindows搭載タブレットの組み付けラインがある。ヒートパイプ、ファン、スピーカー、バイブレータなどの組み付けや、タッチパネルの試験をロボットにやらせている。今後、更に自動化率を上げて67%まで持ってゆく予定とのこと(写真、下、出典 PC Watch 2014/07/9)。100%ロボット化に成功すれば中国での生産に頼ることはなくなるはず。

 上記の二つの例ではco-robotを使ってはいない。だから、このような従来型のロボットを使ってもiPhone6や6plusの自動化もある程度できると思われる。

  しかし、ロボットを柵で囲わなくても良い扱いやすいラインをco-robotを使って実現できれば、世界の賞賛をえられるだろう。iPhoneは小型のロボットで扱えるので、co-robot化は容易かもしれない。

 Foxconnは生産ラインの内容を外部に漏らさないように秘密にしているので、ロボット開発も自動化ラインの構成も自力でやるつもりであろう。はたして、生産ラインを中国に残したまま生産を続けられるように、自力で自動化をタイムリーに進めることが出来るかどうか?co-robotの採用に挑戦してはどうか?



タブレットへヒートパイプを組み付け.jpg



 注1:1980年代には多くの水平多関節型(スカラ型)ロボットを並べた家電製品の組付けラインが導入されたことがあった(例:ソニーの家電組み立てライン)が、結局は、それらの大部分が撤去されてしまった。理由は家電製品の短命化が進んだために、製品の切り替えにロボットラインが対応できなくなったことである。短期にかつ低コストで新製品の組み立てに対応できた作業者を中心とした「セル型生産システム」に取って代わられてしまった。

 まず現在のスマートフォンの製造ラインの現状を見てゆこう(写真はiPhone4sの組み付けライン、ラインの長さは148m、出典、iPhone Hacks,2012/05/26)。

 代表的な例として、iPhone6,6plusの場合はどのようであろうか?世界最大のiPhoneのEMS(エレクトロニクス機器の製造受託サービス会社)は台湾のFoxconnであり、その最大の工場は中国にある。

 iPhone6や6plusの販売開始時には24時間で400万台を超える注文があった。これに対応するために、Foxconnは1日当たり、iPhone6,6plusあわせて54万台を生産していると報告されている。20万人を超える作業者が100本の生産ラインで1日24時間(3交代?)働いているらしい。またiPhone1台当たり600人(注1)の人手が必要らしい。(出典 WSJ.D/Tech,2014/09/17,Foxconn Struggles....)

foxconn iphone4 assmbly line.jpg


 生産状況を以上の数字から概算すると、

  1ライン1シフトあたりの作業者の数は 200,000人/100ライン/3シフト=666人/ライン(注1:ほぼ600人)
  1ラインで8時間(1シフト)当たりの生産台数は 54*10000万台/100ライン/3シフト=1800台/1ライン/1シフト
   1台あたりの生産時間(タクトタイム)は  60*60*8/1800=16秒/タクト

 つまり、一つのラインで16秒ごとに1台のiPhone6,6plusが生産されることになる。1ライン600人ということは、組み立ての前工程と後工程に必要な人数を差し引いた残りの人員が、1つの組立工程を数人で分担して、一人あたりには16秒の数倍の時間で仕事をこなしているものと思われる。

 いずれにしても、このような単純作業を長時間することになり、労働賃金を上げても労働者がなかなか集まらなくなっているのが現状らしい。さらに労働者の賃上(現状は年率約10%で上昇している)の結果、中国でのiPhoneの生産は利益が少なくなっている。このため、Foxconnの経営者(Terry Gou CEO)は作業者をロボットに置き換えることを計画し、実際に、Foxcbotというロボットを開発し試験的に使ってみたようだ(写真、下、出典;INSIHGT CHINA クローズアップ2011/08/18)。


Foxconn robot.jpg

 しかし、人間の作業は単純とはいえ相当知的な作業をしているのでロボット化はなかなか難しく、2011年の段階では「特定のキーをたたく作業を繰り返す」など、単純な作業に限って使われていたが、その後、ロボットの数を増やし続けているようだ。Terry Gou CEOは来年に30万台、3年以内に100万台のロボットを導入したいと話している(出典、INSIGHT CHINA 特集 2015/08/20)。

 スマートフォンやタブレットなどの電子機器の生産ラインは多種変量生産の典型的なラインであり、工程の数や作業内容は時間とともに大きく変化する。このような多種変量ラインに、来年に30万台、3年以内に100万台などという数のロボットの導入は到底不可能だろう。

 一方、ロボット化など生産の自動化が進まなければ、将来的には賃金の低い東南アジアへ生産の移管を考えなければいけないといわれているので、Terry Gou CEOはそれだけ切羽詰った状態に置かれているのであろう。


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