まず現在のスマートフォンの製造ラインの現状を見てゆこう(写真はiPhone4sの組み付けライン、ラインの長さは148m、出典、iPhone Hacks,2012/05/26)。
代表的な例として、iPhone6,6plusの場合はどのようであろうか?世界最大のiPhoneのEMS(エレクトロニクス機器の製造受託サービス会社)は台湾のFoxconnであり、その最大の工場は中国にある。
iPhone6や6plusの販売開始時には24時間で400万台を超える注文があった。これに対応するために、Foxconnは1日当たり、iPhone6,6plusあわせて54万台を生産していると報告されている。20万人を超える作業者が100本の生産ラインで1日24時間(3交代?)働いているらしい。またiPhone1台当たり600人(注1)の人手が必要らしい。(出典 WSJ.D/Tech,2014/09/17,Foxconn Struggles....)
生産状況を以上の数字から概算すると、
1ライン1シフトあたりの作業者の数は 200,000人/100ライン/3シフト=666人/ライン(注1:ほぼ600人)
1ラインで8時間(1シフト)当たりの生産台数は 54*10000万台/100ライン/3シフト=1800台/1ライン/1シフト
1台あたりの生産時間(タクトタイム)は 60*60*8/1800=16秒/タクト
つまり、一つのラインで16秒ごとに1台のiPhone6,6plusが生産されることになる。1ライン600人ということは、組み立ての前工程と後工程に必要な人数を差し引いた残りの人員が、1つの組立工程を数人で分担して、一人あたりには16秒の数倍の時間で仕事をこなしているものと思われる。
いずれにしても、このような単純作業を長時間することになり、労働賃金を上げても労働者がなかなか集まらなくなっているのが現状らしい。さらに労働者の賃上(現状は年率約10%で上昇している)の結果、中国でのiPhoneの生産は利益が少なくなっている。このため、Foxconnの経営者(Terry Gou CEO)は作業者をロボットに置き換えることを計画し、実際に、Foxcbotというロボットを開発し試験的に使ってみたようだ(写真、下、出典;INSIHGT CHINA クローズアップ2011/08/18)。
しかし、人間の作業は単純とはいえ相当知的な作業をしているのでロボット化はなかなか難しく、2011年の段階では「特定のキーをたたく作業を繰り返す」など、単純な作業に限って使われていたが、その後、ロボットの数を増やし続けているようだ。Terry Gou CEOは来年に30万台、3年以内に100万台のロボットを導入したいと話している(出典、INSIGHT CHINA 特集 2015/08/20)。
スマートフォンやタブレットなどの電子機器の生産ラインは多種変量生産の典型的なラインであり、工程の数や作業内容は時間とともに大きく変化する。このような多種変量ラインに、来年に30万台、3年以内に100万台などという数のロボットの導入は到底不可能だろう。
一方、ロボット化など生産の自動化が進まなければ、将来的には賃金の低い東南アジアへ生産の移管を考えなければいけないといわれているので、Terry Gou CEOはそれだけ切羽詰った状態に置かれているのであろう。