2015年11月アーカイブ

 産業用ロボットのもう一つの進化のベクトルである、"ソフトウェアの進化"について触れよう。
 一般に産業用ロボットは単体では仕事はできず、例えば組み立て作業では部品供給装置、部品固定治具、部品排出装置、ハンドツールなどを動かすアクチュエータ類、スイッチ類、センサ類、PLCなどのFA機器が必要になる。ロボットとこれら機器が協調して初めて仕事ができる。
 ここで必要になるのは、ロボットやFA機器をネットワークで繋いで、必要なアプリケーションを実行してくれる統合システムであり、アプリケーションはパソコンの中に用意する。
 ここで、アプリケーションとは、例えばロボットやFA機器への動作指令、生産管理、工程管理、稼働監視、不具合解析・回復などのプログラムである。
 ロボットセルやラインなどを立ち上げる際には、下図の左のようにいろいろなアプリケーションに必要なFA機器との通信ソフトウェアを書く必要があるが、それぞれの機器の通信仕様がメーカなどによってまちまちで、従来はこれらの通信ソフトウェアを用意するのが負担でり、エラーの原因となることが多かった。そこで、これを下図の右のように統一するために、ロボットミドルウェアが日本ロボット工業会によって検討、開発されてきた。

 ミドルウェアの役割は、ロボット、センサー、PLCなどのFA機器に対して、機器のメーカや機種によらず統一的なアクセス手段とデータ表現方法を、パソコンのアプリケーションソフトに提供する通信インターフェースである。
 約15年ほど前から、このようなロボットシステムの統一的なインターフェースORiN(Open Robot/Resource interface for the Network)がミドルウェアとして検討、開発されていることは、当Webサイトでも2006年6月23日に記載してある。ここ15年ほどの間に仕様検討やインプリメンテーションが行われ、さらに実ラインでの検証・改良が行われてきた。その結果、2011年12月にはISO規格として登録された。



ORiN.png
         ORiN協議会のORiNのWebサイトから引用


 現在は、デンソーウェーブ社のロボットコントローラRC-8に同梱されて発売(2011年)され、いろいろな用途で利用されている。生産工場以外の場所でも多岐に利用されている(注1)。いろいろなモジュールソフトウェア(生産管理などの汎用アプリケーション・ソフトウェア、個々の機器接続のためのプロバイダー・ソフトウェア)の開発、登録が進み、利用可能になったことから、これらの使い廻し(再利用)により、現場スタッフの作業工数が従来の自動化に対して大幅に低下した(下図)。ORiNによってソフトウェアの蓄積、再利用ができるようになったことは、産業用ロボットの進化の中でも大きな事件と言えるのではないか。

 代表的なロボット利用の製造ライン(注2)では、アプリケーション5種類、ネットワーク5種類、ロボット54台、PC9台、PLC69台、操作盤22台、状態量のサンプリングアイテムが7500ほどにもなり、ORiNのようなロボットソフトウェアシステムの開発によって、はじめて安定した運用が可能になったとのことである。ORiNはオープンソースであるから、今後も多くの利用者が(スマホのアプリのように)有用なアプリケーションソフトウェアやプロバイダソフトウェアを追加することで、ロボットの能力がどんどん増してゆくことが期待できる。

 (注1)ORiNを基盤とするスマートサイバー治療室の開発(東京女子医科大学 岡本 淳 氏)


(注2)デンソーにおけるORiN活用例(2003年7月31日、ORiNミーティング2003 )


ORiN効果.png       デンソーテクニカルレビュー Vol.10 No.1 2005 から引用


 ORiN2は2014年現在で1500ライセンス、9000システムが出荷されている。 最近、注目されているIoT(Internet of Things)にも容易に適用できるシステムとして、今後の展開に期待が持てる。

 

 今までこのブログで、ここ数年の産業用ロボット進化として注目してきたのは、いわゆるco-robotと言われる"人と共存できる産業用ロボット"の出現であった。今まで、ロボット化が進んでいなかったSME(Small and Mediam sized manufacturing)用のロボットとして、広く導入が進んでゆくだろう。

 実際に工場で使われている例を見てみると、Universal RobotのURシリーズも、Rethink RoboticsのSawyerも、NC工作機械へのマシンテンディング、二つのコンベア間の部品の搬送、パッケージングなど、単一のロボットでの作業がほとんどで、人一人に代わって狭いスペースで仕事をしている。複数台で協調して組み立て作業をしている例はWeb上では発表されていない。KUKA社のiiwaもそのような例は発表されていない。高加減速度や高位置精度(±0.02mm)が要求される組み立て作業のへの応用は、UR5やSawyerやiiwaのようなロボットには向かないようだ。

 可搬重量が500gと小さいが、YuMiは実用的な加減速度と精度(±0.02mm)を持っている。人と共存するロボットを標榜するなら、YuMiの制御方式などをもっと研究する必要がある。

 YuMiの例を見れば、現状の産業用の小型多関節ロボットのような可搬重量が数kgでも、数m/secの高速、高加減速度、高精度(±0.02~0.03mm)で、かつ低価格なco-robotは実現できるのではないか?まだまだ、研究の余地があると思われる。

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