2015年9月アーカイブ

 驚いたことに、Googleのロボット・チームのリーダであり、さらにFoxconnとGoogleの共同開発の推進者の、肝心のRubin氏が、2014年10月にGoogleを辞めてしまった。シリコンバレーであたらしい仕事(ハードウェアの開発も含む)を立ち上げるインキュベーターの役割をしたいらしい。

 Googleのロボットチームの次のリーダはカーネギーメロン大学のKuffner教授で、ロボット運動学の分野での専門家であり、Googleのロボットプロジェクトは問題ないと思われる。(追記、注1参照)

 そこで、Foxconnとの共同開発の仕事は、Rubin氏が新しくインキュベータとしての仕事としてやるようだ(出典:The Wall Streat Journal 2015 ,April 6 "Android Creator Andy Rubin Launching Playground Global")。

 Foxconn以外にもGoogleやHP(ヒューレット・パッカード)その他の会社も新しい組織への出資者となる。

 これは、私(このWebページの編集者)の意見になるが、Rubin氏は新しい仕事「賢く安全なロボットの開発」を機動力ある小さな組織で、クラウドなどの技術を取り入れて、ロボットオペレーティングシステム(ROS)、ロボットハードウェアも含めて速く立ち上げたいのだと思う。バックには、このような産業用ロボットの必要に迫られているFoxconnという巨大ユーザがいる。完成品はFoxconnが大量に使う(30万台のオーダ)し、成功すればユーザはFoxconnに限らない。HPはグローバルに製品を販売することになる(Rubin氏の言葉)。

 技術者のRubin氏は21世紀でまたとない技術開発のチャンスに取り組めると考えているのだと思う。

 注1:2016.01 Kuffner氏はその後、2016年1月にシリコンバレーに設立された"トヨタリサーチインスティテュートInc."に転籍してしまった。代わりにノキア出身のハンス・ピータ・ブロンドモ氏がロボット部門のリーダとして雇われた。

 注2:2017.06.13 アンディ・ルービンの野心はロボットでなく、次世代スマホであった。Essential Products会社を立ち上げて 、オープンプラットフォームの開発と配布を通して、これからオンラインに繋がろうとしている数十億台の電話、時計、電球、オーヴントースターを動かそうとしている。

 Foxconnはここ数年、内製のロボットであるFoxbots 10,000台をiPhone6sの生産ラインに投入しようと努力してきたが、単純な繰り返し作業はできても、少し難度の高い作業が出来ずに自動化が進まず困っている。

 そこで、2014年4月の時点で、FoxconnのCEOのGou氏はTaipi(台湾)で、Googleのロボット関連プロジェクトを率いるAndy Rubin氏(Android OSの育ての親)と「賢く安全な産業用ロボット開発」で共同することで話し合い、合意したようだ(出典;International Buisiness Times,February 11,2014 "Google Robots Could Automate Manufacturing At Foxconn, Andy Rubin In Talks")。

 Gou氏は工場の自動化レベルを高めることで、EMSの中でも雇用者一人当たりの売り上げが最も低い状態を変えたいと期待していた。また、Gou氏は自分の会社を自動車や医療産業のように、利潤の大きい産業に変えてゆきたいと思っている。

 Rubin氏はGoogleで多分野にわたるロボット関係の会社を吸収していたが、最初に実用化する分野として、スマートフォンの組み立てのような産業分野を選び、スマートフォン用OS(Andoroid)を開発して成功したように、ロボット用のOSを開発して、ロボット分野でリーダシップを握りたいと考えていた。

 これに対して、Gou氏は自分の会社の生産ラインを、Googleが開発するロボットの最適な試験場として使うことが出来ると述べた。工場労働者をロボットに置き換えることは、これからの技術業界の中でも大きなことであり、マイクロソフトやアマゾンも産業用ロボットの場で次の発展を狙っている。

 GoogleとFoxconnの二つの巨大企業が産業用ロボットでの共同開発を進めることになると、他のロボットメーカーにとっては相当の脅威になるのではないか?Googleの人工知能の研究能力やコンピュータOSの開発能力があれば、産業用ロボットの知能化(賢い産業用ロボット)にあたらしい展開が起こると思われる。

 これとは別にFoxconnはアメリカで研究開発に関して投資する対象を探している。いままでもペンシルベニアの研究機関に40億円を投資している。また、最新の生産、自動化技術を学ばせるために、社員をMITに送っている。やる気十分である。

 日本は産業用ロボットを利用する分野で、現場と密着した開発を進めてきて、この分野では現在では世界トップクラスといってよいと思うが、今後は知能化産業用ロボットの分野を積極的、しかもスピーディーに攻めないと、Google Foxconnコンビにやられてしまうかもしれない。スマートフォンなどの電子機器の生産ラインの全ロボット化などは、日本が最初に成功してほしいものである。

 スイスのABB社が長期間かけて開発してきた、小型双腕ロボットYuMiは、まさにスマートフォンなどの電子機器の組み立てを目指したロボットである。だから、Foxconnが取り組んでいるiPhone6sの組み立てラインは、まさに使ってもらいたい絶好のラインであるはずである。
 FoxconnとABB社は2011年ころから、YuMiに関して接触を続けている(出典;Complete Report,Nov 6,2011: Foxconn moves one step closer to build "Intelligent Robot Kingdom"-A Complete Report )。YuMiは2011年ころはFRIDAと呼ばれていたが、当時すでに、FRIDAは色々なワークステーション(ABBの現場)で作業テストをしており、Foxconnでも色々な作業で使って評価がなされたはずである。その後、実際のラインでどの程度使われているかに関しては、情報がない。使っていないのではないか?

 一つ気になるのはYuMiは作業者と協調して作業をするように設計されている点である。だから、完全ロボット化を狙うFoxconn のCEOであるGOU氏には、大量に使う気がないかもしれない。

 それよりも、YuMiを何十万台もiPhone6sの生産ラインで使うとなると、生産システムを構成する上で、大きなブラックボックスが出来ることになり、Gou氏はそれを避けたいのかもしれない。やはり、重要な要素である生産ロボットは自分で作りたいに違いない。

 Foxconn は昨年くらいから10,000台の産業用ロボット(内製ロボットのFoxbots)をiPhone6sの生産ラインに導入中である。その目的は作業員の作業環境の改善や、一層の生産増強である。しかし、Foxbotsは製造ラインの最終ステージの作業者の仕事をロボットで置き換えることが、まだ出来ておらず、全ロボット化の作業は遅れている。
 Foxbotsは単純な繰り返し作業は容易にこなすが、作業者が持っている知的な認識能力を持っていないので、品質の制御やラインの最終ステージでの美的品質を保証する作業の能力は、作業者に遠く及ばない。しかし、知的認識の技術の進歩は早いので、遠くない将来にロボット化が可能になるだろう。

  したがって、しばらくは、製造ラインの中で、ロボット化が困難なステージには作業者が残り、完全自動化できているステージと混在したライン構成で進める、というのが現場の担当者の見解である。(出典;Neowin, Sep 10, 2015 :"Foxconn can't fully automate its factories yet,says humans are still important")。

 上記は、ロボット化を進める上で当然予想される結果であり、日本でも、たとえば富士通周辺機器(株)ではタブレット組み付けの自動化をこのような進め方で行っている。ロボットでは難しい工程や人間による官能評価が必要な最終組立工程には作業者が入り、完全自動化はまだ出来ていない。如何に全自動化に近づけるか?が今後の競争点となる。

 それ以外に重要なポイントは、生産管理上の問題であり、ラインに流す製品の変種変量生産に如何に対応したラインを作るかである。スマートフォンのような変種変量生産をロボット化するには、相当な努力と工夫が必要になるはずである。

 FoxconnのCEOのGOU氏が希望する、100万台のロボット導入は、その意気には敬服するが、そんなに簡単にロボット化が出来るわけがない。相当な時間が必要であろう。しかし、彼には大量生産の現場を持っている強みがあり、継続的な努力は新しい技術を生むはずである。GOU氏は新しいロボット関連技術を生み出す、良い環境の中におかれていると考えられる。日本もロボット技術で遅れをとらないためにも、電子、電気機械の国内ラインのロボット化に真剣に取り組まないと、中国に負けてしまうことにもなりかねない。ポイントはセンシング技術である。


 Foxconn(台湾)は世界最大のiPhoneのEMS(エレクトロニクス機器の製造受託サービス会社)であり、その最大の工場は中国にある。iPhoneの製造には、20万人を超える作業者が100本の生産ラインで1日24時間(3交代?)働いている。高騰する賃金のために利益が少なくなっており、会社のCEOのGOU氏は、3年後に生産ラインの70%を自動化する必要があると述べている(出典:Voice of America,2015.03.09)。Foxconnは10年ほど前からFoxbotというロボットの開発を始め、近年は米国ペンシルベニアに研究拠点を設けた。(生産技術やスマートフォンの研究にとどまらず、将来の無人運転自動車の研究も見据えているようだ)

 自動化を進める上での困難は、如何に生産変動のある多種のスマートフォンなどの電子・電機製品を安価に生産するかという点である。下の写真は現在すでにロボット化されているスマートフォン製造の工程のものと思われる(出典:Wn.com,Building work starts on first all-robot manufacturing plant in China's Dongguanのビデオから)。ロータリーテーブルの周りに4台の6軸垂直多間接型の小型ロボットが配置されている。ロボットの動きも大変にきびきびしている。ロボットの形態は三菱電機の小型ロボットに似ているが、内製ロボットだろうか?注目すべきは人がロボットの隣り近くで仕事をしている点であり、安全柵がない。人との衝突時の安全が考慮されたロボットと思われる。もし内製ロボットならば、ロボット技術の面でも相当のレベルに達していることになる。

Foxbotcell20150505South China Morning Post 2015-05-05.png

 20万人の作業者(3交代)のうちの70%といえば、4.7万台のロボットライン(100ラインとすれば、1ラインあたり470台)ということになり、このようなラインを構築するには高い技術が必要になろう。ロボット技術も相当進歩するであろう。

 Foxconnはロボットを(可能ならば?)すべて内製化して、技術の流出を防ぐ方針だから技術は外に漏れずに中にとどまる。このような大規模なロボットラインを持たない日本企業は技術面で差をつけられるであろう。電子機器、家電製品のほとんどを中国のEMSに頼っている日本は、何か対策を考えないとロボット後進国になってしまうだろう。

 このような生産自動化ラインが完成すれば、工場の立地点は中国に限らず、米国でも良いわけで、Foxconnが米国にスマートフォンの製造工場を作ることは大いにありうる話である。オバマ大統領が推進する生産工場を中国から国内に呼び戻す政策にも貢献する。米国ペンシルベニアに研究所を設置した意図も、その辺を考えてのことだろう。

 日本は中国のEMSに委託している電子・電機製品の多種混流生産ラインを日本に戻して、低価格で製品を作れるロボット化ラインの準備を早急に始めなければならないだろう。

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