産業用ロボットには、数mの動作領域内で、数10kgのペイロード持って、高加減速度(1G)で発進、停止する動作を長時間(数万時間)繰り返しても高い停止位置精度(1mm以内)を維持することが要求される。最高速度は毎秒1から2mに達する。
こような要求性能は40年前の普通の技術レベルでは達成は不可能であった。ユニメートの技術者はそれをデジタル技術などの新技術で克服し、産業用ロボットを実用化した。
現在のように、高出力電気サーボ用の高電流スイッチングトランジスタも低価格なコンピュータも無かった状況下で、彼らが当時採用したシステムの構造は、
1)デジタル電子制御回路を採用(最初は真空管が使われた)
2)位置センサには、アブソリュートデジタルエンコーダを採用(Engelbergerらが自ら開発した)
3)位置データ、制御データの記憶にはドラムメモリを使用
4)電気油圧サーボ系を採用し、サーボ弁には非線形な流量特性を持たせた。
産業用ロボットの生命線である停止位置の再現精度の高さは、上記1)、2)、3)のデジタル技術と4)の技術を組み合わせて初めて可能になった。つまりデジタル制御技術が産業ロボット実現のキーであったといえる。デジタル技術は当時出現しつつあった数値制御工作機械(NC工作機械)の技術を参考にしたと思われる。
またロボット必須機能である、「2点間を最短時間で移動する」性能を実現するために油圧サーボ弁に検討が加えられた。すなわち、通常のように入力信号に対して比例した流量を流すのではなく、その二乗に比例する流量を流すよう工夫した(注1)。これにより一定の減速度で減速でき、急減速でも振動を発生しないようにできた。さらに弁には入力信号がゼロの近傍で出力流量が無い部分(=不感帯)が設け、位置決め完了後に位置のドリフトが起きないように工夫した。つまり加速、定速移動、減速後、目標位置の数ビット前でクリーピング(低速移動)に移行し、一致したら不感帯部分で流量をシャットダウン(ON-OFF制御)して停止する。これらがデジタル電子回路で制御され、高い位置精度を実現できた。
注1:入力信号の二乗に比例する流量特性を持つサーボ弁とは
流量を制御するサーボ弁のスリーブのオリフィス形状が比例型サーボ弁のように矩形(サーボ偏差に比例してオリフィスの面積が増加する)ではなく、末広がりの三角形状(サーボ偏差の二乗に比例してオリフィスの面積=流量=速度が変化する)になっている。また、スリーブのオリフィスには不感帯が作られており、サーボ偏差(注2)が一定値以下になるとオリフィスを完全ブロックするので位置がドリフト(時間とともにずれてゆく)することは無くなる。
注2:サーボ偏差とは
サーボ偏差≒位置偏差=目標位置-現在位置