2006年6月アーカイブ

 現在の産業用ロボットでは難しい組立て作業の例としてしばしば挙げられるのは、変形しやすく正確に掴みにくい対象物の扱いである。たとえば、ワイヤーハーネスとかゴムパイプなどがある。このために、ロボットにはやわらかいものを掴めるハンドだとか、それらの部品の変形を認識・計測できる視覚機能をの開発が必要だという結論になりがちである。このような前提に立つと、それらの機能ができるまでは機械組み立ての自動化は困難になってしまう(注1)。
 実際の現場では現在の産業用ロボットで自動化できる作業と困難な作業を切り分けて、自動化できない作業はまとめて人間の作業者が組み立てるライン構成にする。つまり、ロボット化組立てラインと作業者用組立てラインとを適切に分離することでロボット化を進めている。 ロボットが組み立てる部分、人が組み立てる部分などをそれぞれが組み立て易いように考慮して製品設計することが成功のキーになる。

 注1:力覚や3次元視覚を持ち、色々な形状を持つ部品を正確に把持できるロボットは現状では高価格で、作業速度が遅く、かつ信頼性に欠けることが問題である。組立て作業のような作業付加価値が低く、数秒単位のすばやい作業を要求される現場ではなかなかペイできない設備となってしまう。しかし、作業速度が比較的遅くてもよい作業などには、ファナックなどで導入が始まっている。

ORiN

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 しかし、当面は現在の利用可能な技術を使ってコンピュータ化できるところを徹底的にコンピュータ化してゆくことになる。ロボット工業会が中心になって開発したORiN(Open Robot/Resource interface for the Network)システムもその一つであろう。ORiNは一種のインターフェースと思われる。複数メーカ製のロボット、センサ、加工機、PLCなどが混在した大規模、複雑な生産ラインのプログラミング、デバッギング、モニタリングを、統一したプログラミング環境下で行おうとするものであろう。ラインのライフサイクルにわたって、既有の設備やプログラムを再利用して、ラインの短期立ち上げ(=生産準備期間の短縮)も可能になる。 ORiNと3次元CGを利用したロボット/生産ライン・シミュレータなどと組み合わせれば、新設設備の準備期間の時間短縮にも効果がありそうだ。
 ORiNはあくまでも設備指向プログラミングのシステムであり、プログラミングの全自動化を目指したものではないことはもちろんである。

図:ORiNの考え方(デンソーテクニカルレビューV0l.10 No.1 2005から引用させていただきました) ORiNとは「FA機器を対象にしたソフトウェアインターフェース技術」であり、ロボットやPLCなどの機器を抽象化し統一的・透過的なアクセス手段を与える。ネットワークに接続されたWindows PC上で動作する。

 ロボットによる組み立て作業手順が、Archimedesのようなソフトで自動生成されたとしても、そのままで組立て作業が成功することは難しいだろう。実際の部品、ツール、冶工具などの寸法とCAD図面寸法との間に誤差があるからである。そこで、実際には組み付けを成功させるために、たとえば

 1)組みつけ方を工夫する:
 たとえば嵌め合い動作が成功しやすい姿勢や移動軌跡に変更する。人間が穴に棒を挿入する場合には、棒を斜めに穴に差し込んでから押し込みながらまっすぐに戻すような手順をとる。これをロボット動作にも応用する。
 2)ツールまたはアームの制御を工夫する:
 ツールを使う良く知られた例としては
RCC(Remote Center Compliance)デバイスを使って、精密嵌め合いを可能にする。ただし、RCCは実際の現場であまり使われていないのではないか。それよりも、作業ごとに個別のコンプライアンス機構を用意する場合が多いのではないか。その他には、コンプライアンスツールを使わないで、ロボットアーム自体をフローティング(=接触外力によってアームが逃げる)させる方法がある。アーム駆動モータ電流の上限値を(静止時の)現在の電流値に制限することで、精度はあまり高くは無いが、比較的簡単に実現できる。これはスカラ型ロボットなどで水平回転方向の軸の位置サーボに適用されることが多い。
 3)力覚センサや視覚センサを利用する:
 センサを使って寸法誤差を補正する動作をさせる。

 これらは組立てをする際のスキル動作というべきものであり、組立ての手順計画(Archimedesなど)にスキルソフトウエアを適切に組み合わせるソフトウエアが完成しないと、組立て計画手順発生ソフトウェアだけでは、生産準備の短縮化は完成しない。ここまでやった実例はまだないと思われる。

 Archimedesと同様な成果を目指した研究内容の論文例が他にも見つかった。

 1.A System for Automatic Planning,Evaluation and Execution of Assembly Sequences for Industrial Robots(U. Thomas ,他、University of Braunschweig,200X年)

 2.3次元CADデータ駆動型自律組立ロボットセルシステム(小島 他、リコー生産技術研究所、1998年)

 これらがその後、画期的な成果を挙げているという様子も見られないので、まだまだ実験室段階の成果と思われる。実際のラインで成果を出すには、まだまだ未解決な問題が多いと思われるが、企業は実用化に向けて熱心に取り組むべきと思う。現状では日本は欧米のレベルから相当に遅れているのではないか?このようなソフトウエアシステムの開発に関しては日本はまったく弱い。また欧米製のソフトウエアを使う羽目になるのかもしれない。小生の心配は杞憂で、日本の企業が既にしっかり取り組んでいることを願うのみ。

 組み立てたい製品のCADデータから組み立て用ロボットの動作を発生させるシステムがあれば、ロボット組立てセルを短期間で立ち上げられる可能性が出てくる。
 製品のCADデータから組立て順序を自動生成する研究開発について米国の事情を調べてみた。米国では「Archimedes
(アルキメデス)」というAutomated Assembly Abalysis ソフトウェアの開発が進んでいるようだ。1995年頃に米国のサンディア国立研究所(場所:アルバカーキ)が機械部品の組立て手順を自動生成するソフトウェアArchimedes 2 の論文を発表しているのは知っていた。それから10年以上の継続的研究の結果、相当使えるレベルにまで来ているようだ。現在はArchimedes 4 か? 電子制御箱などの組立て手順の解析結果がアニメーションで紹介されている。
 Archimedesは無数に存在する組立て順序の中から、ユーザが与える制約条件を満足する組立て順序を提案する。フレキシブル治具を使ってワークを固定する方法も提案できる。さらにハンド、ツール、治具の形状、組立てステーションの形状などを考慮に入れてロボットの動作を計算させることができる。
 ただし、Archimedesのようなシステムが実際に効果を発揮できるためには、前提条件として、部品や生産設備、ツールなどがCADのサーフェスモデル(またはソリッドモデル)で用意されること、およびCADデータから作られた実要素部品の寸法が所定の精度内に管理されていること、が必要である。
 そのような生産準備基盤を確立するのは容易なことではない。しかし、得られる効果を考えれば、優先して開発に取り組むべきテーマであると思う。

 参考:サンディア国立研究所にはISRC(Intelligent Systems & Robotics Center)があり、そこで研究が行われている。米国では国立研究所が中心になって研究開発を実施し、途中から民間企業と共同開発を進め、民間企業から商品として発売されるという例は多いようだ。

 これまで述べたように、組立て作業記述による生産ライン(またはセル)の制御の自動プログラミングは研究が進展しておらず、できるようになっていない。相変わらず人がプログラムを作成するしかない。この作業を生産ラインシミュレータやロボットシミュレータなどを使って支援するというのが現在のレベルであり、このレベルでは生産準備時間を家電製品や一部の自動車部品などに要求されているレベルにまで短くすることは絶望的である。
 
 生産準備の仕事を簡単化して列挙すると(実務の経験がないので筆者の想像である)、
 1)生産条件の決定(製品の種類、生産量、生産コスト、生産準備時間など)
 2)生産ラインの工程設計
 3)設備設計と設備製作
 4)設備の設置
 5)設備の制御準備(ロボット、PLCなどのプログラミングなど)
 6)試運転とデバッギング
 7)生産の立ち上げ

 これらのうちでロボットなどの作業プログラミングに関連するものは、2)、3)、5)であろう。これらをコンピュータ支援のもとで手作業で行うことになる。
 コンピュータ支援は
生産ラインシミュレータロボットオフラインシミュレータを利用して行う。ロボットオフラインシミュレータを利用するには、製品(部品)や設備の3D-CADモデル(ソリッドモデル)が準備されていることが前提条件となる。部品間の接触や衝突を検出するために部品のソリッドモデルが必要なためである。現実にはこれらが準備されていない場合の方が普通で、そのような設計インフラをまず作ってゆく必要がある。このようなインフラがあって初めてコンピュータによる生産準備支援システムが有用になる。
 

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