システム技術の最近のブログ記事


 Universal Robots社のURロボットは世界で最も売れている協働型ロボットである。人気のポイントは従来型の産業用ロボットと異なり、人と接触しても安全性が高いために、ロボットを安全柵の中に入れなくても使えることである。

 URロボットは、前回解説したRethink Robotics社のSawyerロボットのように、アームを手で軽く動かすことはむつかしそうだが、大まかには動かせるので、残りの細かい位置・姿勢の設定だけをTeaching Pendantでやればよい。

 今回のテーマはUR ロボットのアカデミーのWebサイトで学ぶことができる。
 
 独特なロボット言語体系を持つが、命令言語を直接打ち込むのではない。ノートパッド型のティーチングペンダントで命令ボタンなどを選択しながら、アームを動かして設定したい位置姿勢などを記憶させ、プログラムを完成させる。文字入力にはウェート時間や負荷質量などがある。UR社ではストレートフォワードなプログラミング方法だと宣伝している。理解しやすいと思う。

 プログラミングは下図1のようなempty(空の)プログラムから始まる。   

              図1teaching2-1.jpg

 次に、Moveボタンを押すと、Move命令と仮の移動目標位置がWaypointとして表示される(図2)。WaypointがMove命令と同行ではなく、一段下にインデントされて配置されのが特徴である。ロボットアームを手で動かすか、またはティーチングペンダントを使って最初のWaypointまで動かしてOKボタンを押すと、仮のWaypointが実際のWaypoint_1に変更される。同じMove命令(Movej,Movel,Movep,Movec)が続く場合は、Move命令は省略してWaypoint(Waypoint_1,Waypoint_2,...)だけが並ぶのが特徴である(図3)。

             図2

panel2_2.jpg

 同様にして、最後の点までを記憶させてゆく(図3)。

             図3


UR_Robot_Panel_2_5.jpg

 次に、Waypoint_2で品物を把持させたければ、Waypoint_2に移動した後にハンドを閉じる命令

  Set TO[0]=On

 を設定して、ハンドを閉じ品物を掴む。把持すればハンドに品物の質量が負荷されるので、Set命令の設定テーブルの中で

   Set the total payload to 1.6 kg

 として指定し、負荷質重を外力(外乱)と間違えないようにする(図4)。

             図4

panel3.jpg

 次に、ハンドが品物を掴むまでにかかる時間を Wait命令で

   Wait 1.0 second 

として、Waypoint_2で確実に品物を把持してから、MoveLでWaypoint_3(図5)へ移動するようにする。

             図5

teaching6.jpg

 

 

 協働ロボットの多くは、人がzero gravity状態のロボットアームを手で案内してアームに取り付けたツール(ハンド)の位置姿勢や動作などを教示する(Teach by demonstration)。触れるという特徴を生かしている。触れられないロボットでは使えない方法である。 少々、教示位置がずれてもアームがコンプライアントなので相手に倣って位置決めできる。これだけで従来の位置制御型ロボットよりも大幅にティーチングが簡単になった。また、アームが人に衝突しても安全が確保されるので、安全柵の必要がなくなり、設置スペースが少なくて済む。結果的に、ロボット導入費用も下がる。


 一方、位置姿勢だけでなく手先に発生させる任意方向への力やトルク、剛性(コンプライアンス)なども制御するので、プログラミングが困難になりやすい。例えば、ワークを持つとワークの重量とロボットへの外力とがロボットには区別がつかない。また、アームがコンプライアントのためアーム位置がずれる。これらを防ぐためにワークの把持と解放に合わせて、アームに負荷荷重を教えてやらなくてはならない。
 Rethink Robotics社の協働ロボットSawyerは全ての関節にトルクセンサを内蔵し、二次元視覚センサを手先に内蔵する7関節のロボットである。
 Sawyerのユニークな教示システムIntera5について以下で紹介しよう。詳しくは[Rethink Robotics Training Intera Basics Course 1]のビデオトレーニングをWebで参照してほしい。
 SawyerロボットのIntera 5の教示システム
 Intera5は基本的には、下図に示すように、機能を示すアイコンをツリー状に並べて作業プログラムを構成する。産業用ロボットの使われ方は殆どがシーケンス作業であるので、このシーケンスツリー表現方式が合理的ではある。各アイコンの機能を表1、表2に示した。アイコンツリー上での実行の順序は左から右へ、上から下への順で行われる。ロボットの現在の位置姿勢や動きは、シーケンスツリーの右側のCAD画像で表示される(実ロボットの動きが同時に表示される)。
 図1はpick & placeのプログラム例である。pick & place程度のプログラムであれば、アームをzero gravity制御(フローティング)にしてアームを手で動かしてpick & placeをさせるだけで、プログラムツリーが自動的に生成される(Rethink Robotics社のビデオ参照のこと.)。後でのプログラム修正は、搬送部品の質量設定くらいか?
 ツリー上のいずれかのアイコンをダブルクリックすると、そのアイコンの設定条件が表示される。アイコンの名前や設定条件の変更や、新しいアイコンの追加や削除も、アーム上のスイッチやダイヤルか、またはパソコンから容易にできる(Actionボタン群やServiceボタン群から適当なアイコンをツリーの必要場所にdrag & doropする)。実行中のアイコンは緑色に変わるので、シーケンスを目で追いやすく、デバッグがやりやすい。編集中のアイコンは茶色で表示される。
               図1
intera5-pick&place2.jpg
                 表1
Intera5_Actionand Logic.jpg
                 表2
Intera5_Service and Error.jpg
               図2
 テーブルに置かれた部品をカメラで見て掴み、所定の場所に搬送するプログラム。図1のPick sequenceアイコンの後にカメラを位置決めするMove Toアイコンとビジョンで計測するVision sequenceアイコンを追加するだけでよいので、簡単である。
Intera5_Viz.pick.jpg
              図3
  メモリ部品を掴んで電子基板に組み付ける作業。メモリ部品を運んで組み付け位置に接触させて、更に一定の力で押し付けて組みつける作業。
 ピッキングのシーケンスは簡単化のために非表示(+印=省略)になっている。Place sequenceアイコン の次にContactポイントへのAproachとPlaceアイコンに続いてContact mode への切り替えアイコン、Contact検出のアイコンやWaitのアイコンが追加されている。
Intera_force.application.jpg
細かい作業の設定がすべて明示されるので、慣れれば解りやすいかもしれない。
 
 

 ドイツのスタートアップ企業のKBee社が7軸の協働ロボットを発表した。特徴はKUKA社の7軸協働ロボットiiWaに似ているが、価格が120万円と安く、iiWaの約1/8であることだ。iiWaは特に価格が高かったので、FRANKA EMIKAの低価格は驚きである。

640_FRANKA_EMIKA-495x400.jpg

  どのようにして低価格化したのか? 一つには、iiWaを参考にしているため開発費が安く済んだことが大きいだろう。FRANKA EMIKAはiiWaの原型であるLWR(Light Weight Robot)を開発したDLR(German Aerospace Center)の出身のメンバーが創業した会社である。

 二つには各ジョイントがモジュール化(モータ、減速機、エンコーダ、トルクセンサが一体化)され、組み立ての80%がロボットでできるようにしたこと。

 今一つは、インクレメンタルエンコーダを使っているのではないか? ビデオの中で、ゼロイングのような動作が見られる。Universal Robots社も最初はインクレメンタルエンコーダで発売し、後にアブソリュートエンコーダに変更した例もある。 その他、動作指示はすべてノートパソコンから行い、ティーチング・ペンダントを使わないことで価格を下げている。

Franka EmikaとKUKA iiWaとの性能比較

 

単位

FRANKA EMIKA

KUKA iiWa

ロボット質量

kg

15.8

22

可搬質量

kg

3

7

自由度

軸数

7

7

リーチ

mm

800

800

位置再現精度

±mm

0.1

0.1

最高速度

m/sec

2.5

      1

 
動作のビデオを見る限り、スムースで精度の高い動きをしている。ただ、協働ロボットの問題点として、「加減速度が小さい」ことはどうしてもある。これは作業速度を遅くするが、安全性とのトレードオフで、やむを得ない。

ユニークな プログラミング方法
 最大の特徴は、スマートフォン世代に使いやすそうな、「アプリケーション(単位作業)を表すアイコンを並べて仕事をプログラム(構成)する」やりかたであろう。下図に於いて、アプリケーションのアイコン群が画面下にまとめられていて、作業構成に必要なアプリケーションのアイコンを指でドラッグして上部のプログラムライン上にドロップする(ビデオ1参照)。作業の意図が一目瞭然なので作りやすく、かつ理解しやすいと思われる。アプリケーションはクラウドに蓄積されていて、ダウンロードして使う。
 
FRANKA-DESK_swoosh1.jpg
 アプリケーションのアイコンを並べ終わったら、今度はロボットアームを手で案内しながら、一連の作業を実際にやって見せる(demonstrate)。 この時、必要ならば個々の作業を代表するアプリケーションのアイコンを開いて、詳細を設定してゆく(一連の作業の説明サイトビデオ1ビデオ2も参照)。これですべてのティーチング作業が終了するとのことである(追記2018.07.09参照)。確かに直感的で、ティーチングしやすいと思われる。
 一つのアプリケーションのアイコンがどのくらいの作業を含んでいるかを観られるビデオがあったので、ここに参照しておく。一つのアプリケーションのアイコンから数ステップの動作が作られている。アプリケーションは位置データなどが入っていないプログラムであり、demonstrationまたはtrainのフェーズで実データを入れてゆく
 開発者が主張している「従来のロボットには無かった新しい機能」として、別のプログラムで作られたアプリケーションが新しいプログラムで使える点である。このようなアプリはクラウドからダウンロードして使う。
 ロボットのiPhone化を目指しているとのこと。
 人との協働を実現するために、ロボットには何が求められるのか。「理想的なロボットは、『iPhone』のように誰もが直感的に使えて、誰もがプログラミングできるもの」――。そう語るのは、開発関係者のドイツのハノーバー大学自動制御研究所所長であるSami Haddadin氏だ。
 これからのロボット・プログラミングで、代表的な一つモデルになると思われる。具体的には次回に、ユニバーサルロボット社やRethink Robotics社の同様な試みと比較して考察する。

 追記2018.07.09
 Franka Emikaの動作のプログラミング方法はユニークで2017年度のGerman Innovation Awardを受賞している。受賞内容の記述の中から自己学習型(Learn by watching)プログラミングに関する説明を下記に引用(英文)する。
 The system is extremely easy to operate and requires no previous programming knowledge since the robots learn by 'watching'. One only need demonstrate the activities the robot is to perform. The machine learns the activity and can also use the acquired knowledge for other challenges -- a skill conventional industrial robots do not have. To make programming as simple as possible, the nominees have also developed an innovative programming and operating concept. With it, tasks and sequences of motion can be broken down visually into small program modules, so-called robot apps. They make using robots as easy as using a smart phone -- and opens up a wide range of new potential applications from which even small and medium-sized businesses stand to profit.

 DBJ(日本政策投資銀行)の今月のトピックスNo.238-1(2015年8月21日)の内容(PDFファイル)がWebに載っていた。その中に下の左側の写真(2015ハノーバメッセ)が掲載されていた。ボッシュの工場で働く協調型のロボットで台座が可動式になっている。ロボットを必要な時に、必要な場所に移動し、安全柵なしで設置できる。同じロボットの写真が2015年12月30日の朝日新聞朝刊の経済欄にも載っており、"ロボットのセンサが横の働き手の動きを感知しながら共同作業をする。人とのスピードが落ちればロボットもそれに合わせる。"との説明がしてあった。

ボッシュ工場.jpg

iiwa-thumb-302x251-285[1].png

 

 このロボットは、ドイツの航空宇宙研究所とKUKAが10年以上をかけて開発を続けてきて、現在でもIndustry4.0の看板ロボットとしてよく引用される、人と協調できるロボットiiwa(Light Weight Robot、右の写真)ではない。初めて見るロボットである。

 以前にこのブログ(2015年7月25日)でも紹介したように、iiwaは高性能ではあるが高価(約1000万円)すぎる。そのため、上図左に示す低価格な協調ロボットを新たに開発をしたのではないか?
 ファナックがやったように、同サイズの位置制御型ロボットを改造して、各ジョイントにトルクセンサを装着させ、腕をソフトなカバーで覆っているようだ。

 iiwaが今後どのように使われてゆくか?興味深い。その高性能さを生かして、特別な用途向けに利用してゆくか、あるいは、設計を見直して低価格化するか?

 12月2~5日に東京ビッグサイトで2015国際ロボット展示会が開催された。最終日(5日、土曜日)にでかけて、産業用ロボットから、サービスロボットの現状を広く見ることができた。

 1.関心があったのは、

 1)人と協働動作できるロボットco-robot(海外製)
  ABB社のYuMi、KUKA社のiiwaシリーズ、Rethink Robotics社のSawyer、Universal Robots社のURシリーズなど

 2)人と協働動作できるロボットco-robot(国内製)
   デンソーウェーブ(Cobotta)、カワダロボティックス(Nextage)、ファナック(CRシリーズ(4,7kg))、安川電機(HC-10)、川崎重工(DUARO)など

 3)ビンピッキング(ファナックをはじめ複数社)、オフラインシミュレータ(ロボットメーカ、他数社)、ORiN(デンソーウェーブ、ORiN協議会)などのソフトウェア

 4)災害対応ヒューマノイドロボットの実演
産業技術総合研究所(HRP-2改)、東京大学(Jaxson)、千葉工業大学など(HYDRA)

 5)サービスロボット、その他
トヨタ自動車(HSR)、パナソニック(HOSPI)



 2.それぞれのロボット詳細について
   各ロボットに関しては、過去にもWeb上に動画や写真で説明があったので、このWebサイト(ロボットあれこれ)でも今までいろいろ取り上げてきた。それぞれの動きについては予測はしていたが、今回、実際に触ってみたものについて予測との一致度合などを補足説明する。

 1)co-robot(海外製)のダイレクトティーチング特性など

 (1)ABB社のYuMi
 想像していた通り、ダイレクトティーチングでは、腕は軽くスムースに動かせた。腕を押すのをやめると、ブレーキストップのような感覚で急に止まるのが特徴。ロボットの姿勢から各軸にかかる自重による負荷トルクを計算して、バランスをとっているようだ。アームにはマグネシウム合金が使われており、軽量化に重点が置かれた設計になっている。

(2)KUKA社のiiwa
手で押す操作に非常に滑らかに反応して動く。始動から停止まで、サーボでバランスを制御している(コンプライアンス制御)。押すのをやめると、YuMiのように急に止まるのではなく、スピードが次第に落ちて止まる。アームにはカーボンファイバーが使われており、軽量化を重視した設計になっている。

 (3)Rethink Robotics社のSawyer
   KUKAのiiwaに近いが、滑らかさでは劣る。ばねが各軸に入っているためか、押すとまずばねが縮んでからサーボが動き出すので、少しぎくしゃくした始動になりやすい。停止はスムースに止まる。 

 (4)Universal Robot社のUR5型
   予想通り、ダイレクトティーチングには海外製の4種のロボットの中では一番力が必要である。これではきめ細かいティーチングをすることは、ほとんど不可能ではないか? 2015年には日本で約100台のUR型が売れたとのこと。販売先は中小企業かと思ったら、日本の場合、大企業が多いとのことで、予想外だった。



 2)co-robot(国内製)のダイレクトティーチング特性など

 (1)デンソーウェーブ Cobotta
 直接アームに触れる機会がなかった。今回初めて一般公開された。アームの大きさから類推するとダイレクトティーチングの操作性はYuMiと同レベルではないか?YuMiは7軸であるがCobottaは6軸の点が異なる。YuMiと似た双腕型も展示されていた。双腕型は腰部に回転と曲げの自由度がある点がYuMiとは異なる。Cobottaの写真とビデオを参照しておく。Cobottaはまだ開発の途中らしく、サーボに細かい振動が乗っていた。

 オープンプラットフォームを採用している点が特徴で、誰もがロボットアプリケーションを開発できるとのことである。デモでは音楽に同期してロボットアームがダンスをしていたが、このようなアプリケーションを書ける点が、従来の産業用ロボットにはなかった特徴となっている。ROSのミドルウェアなども使えるようになるのだろう。ユーザから新しいアプリケーションが発明されてくる可能性も十分に期待できる。ロボット機能が新しい展開を始めるかもしれない。面白い試みと思った。川崎重工も同社の7軸ロボット(MS005N)の制御インターフェース(オープンAS)を公開し、MUJINのPick Worksをインストールしてビンピッキングのデモをしていた。同様の試みである。注目してゆきたい。

コボッタ単腕・双腕.jpg

Response.15 (自動車) (11月21日ホームページから引用)








 (2)川田工業 Nextage
   直接アームに触れる機会がなかった。7軸すべてが80w以下のco-robotである。思ったより小さい印象だった。2014年6月現在で150台以上が売れているとのこと(web週刊ダイヤモンド2014年6月14日号)。

Nextage.jpg















 (3)ファナック CRシリーズ
   小型協働ロボットとして、今回の見本市で初めて公開された。全軸トルクセンサを装備し、ジョイントトルク制御を行っている。スムースに反応ができる。アームはソフトカバーでおおわれており、衝突時の衝撃を和らげている。可搬加重4kg(CR-4iA),7kg(CR-7iA、CR-7iA/L)の計3種類がある。構造はiiwaのように軽量化されておらず、従来型と同じ設計(リーチ550、911mm、自重20kg,27kg))のようである。

ファナック小型協調ロボット.jpg


日刊工業新聞 ニュース/ロボット〈2015.12.02から引用)












(4)安川電機 Motoman HC-10
全軸トルクセンサを装備し、ジョイントトルク制御を行っている。スムースに反応ができる。構造はiiwaのように軽量化されておらず、従来型と同じ設計のようだ。

安川電機青色ロボットのコピー.jpg

W.マイナビニュース(2015.11.30から引用)














(5)川崎重工 DUARO
  直接アームに触れる機会がなかった。スカラ型双腕ロボット。



3.ソフトウェア関連について

  1)ビンピッキングビジョンのデモが数多く見られた。

  研究の歴史は古いが、ビン状態の部品を識別する技術が相当高まっていることが分かった。ファナックとPFNがファナックのブースで、(株)3次元メディアの3次元ロボットビジョンシステムが安川、川重、三菱、MUJINのブースで、キャノンのマシンビジョンシステムが川重、安川、デンソーウェーブのブースで、それぞれデモを行っていた。

  キャノンと3次元メディアのビジョンシステムは「パターン投影による3次元距離画像計測と濃淡画像解析を併用した方法で、部品のCADデータを必要とする。異なるビン状態の対象物を5パターン見せることで準備が完了」する。 キャノンの例では認識時間は2.5秒程(下図、ビジョンシステムの処理)とのことである。

キャノンビジョン処理のコピー.jpg

  一方、PFN(Preferred Networks社)の方法は、現在注目が高まっているディープラーニング使っている。この方法はCADデータなどを必要としない。「実際にロボットで部品を取らせてみて失敗と成功の画像例をそれぞれニューラルネットワークに学習させてゆく。5000回の学習の後では、ピッキングの成功率は90%程度」になる。認識に要する時間はキャノンの例と同程度と思われる。ただし、この方法の問題点は、学習に要する時間が数時間~数十時間と長い点である。まだ研究途上で実用までにはまだまだ時間を要すると思われる。

2)オフラインティーチングシステム

  現在では、ロボットメーカーはティーチング時間を短縮するために、オフラインティーチングシステム(3次元ソリッドモデル)を用意している。しかし多くは、画面上でウェイポイント(waypoint)を指示する必要がある。

  一方、(株)MUJINのティーチングシステム"Pick Worker"はウェイポイントを自動発生し、ロボットの特異点や障害物回避ができる軌跡発生を自動でおこなう。ビン状態の部品箱の位置と部品整列箱の位置を教えるだけで、3次元画像処理システムからの信号を受けて部品をピックし、整列箱の整列することができる。このように、ロボットの知能化が進むにつれて、特定の作業全体をアプリケーションとして販売できるようになる。"Pick Worker"だけでなく、いろいろの作業がアプリとして販売され、ロボットがスマホのように簡単に機能追加できるようになってゆくのだろう。


3)ORiNの利用状況について

   ロボット向けのシステム構築支援ソフトウェアであるORiNがどのように利用されているか興味があったので気に留めながら見学した。その結果、表に出してPRしていたのは、メーカーとしてはデンソーウェーブのブースだけであった。その他にORiN協議会が1ブースを使ってPR活動をしていた。これから見ると、ORiNはまだ、他のロボットメーカには広く使われているとは言い難いようだ。広まらないのはロボットメーカが十分にその価値を認識していないからであろう。ORiNが従来方法に対して圧倒的にシステムの準備時間を短縮できることを、いろいろな具体例で示すことができれば、ユーザは競って使うはずである。

 産業用ロボットのもう一つの進化のベクトルである、"ソフトウェアの進化"について触れよう。
 一般に産業用ロボットは単体では仕事はできず、例えば組み立て作業では部品供給装置、部品固定治具、部品排出装置、ハンドツールなどを動かすアクチュエータ類、スイッチ類、センサ類、PLCなどのFA機器が必要になる。ロボットとこれら機器が協調して初めて仕事ができる。
 ここで必要になるのは、ロボットやFA機器をネットワークで繋いで、必要なアプリケーションを実行してくれる統合システムであり、アプリケーションはパソコンの中に用意する。
 ここで、アプリケーションとは、例えばロボットやFA機器への動作指令、生産管理、工程管理、稼働監視、不具合解析・回復などのプログラムである。
 ロボットセルやラインなどを立ち上げる際には、下図の左のようにいろいろなアプリケーションに必要なFA機器との通信ソフトウェアを書く必要があるが、それぞれの機器の通信仕様がメーカなどによってまちまちで、従来はこれらの通信ソフトウェアを用意するのが負担でり、エラーの原因となることが多かった。そこで、これを下図の右のように統一するために、ロボットミドルウェアが日本ロボット工業会によって検討、開発されてきた。

 ミドルウェアの役割は、ロボット、センサー、PLCなどのFA機器に対して、機器のメーカや機種によらず統一的なアクセス手段とデータ表現方法を、パソコンのアプリケーションソフトに提供する通信インターフェースである。
 約15年ほど前から、このようなロボットシステムの統一的なインターフェースORiN(Open Robot/Resource interface for the Network)がミドルウェアとして検討、開発されていることは、当Webサイトでも2006年6月23日に記載してある。ここ15年ほどの間に仕様検討やインプリメンテーションが行われ、さらに実ラインでの検証・改良が行われてきた。その結果、2011年12月にはISO規格として登録された。



ORiN.png
         ORiN協議会のORiNのWebサイトから引用


 現在は、デンソーウェーブ社のロボットコントローラRC-8に同梱されて発売(2011年)され、いろいろな用途で利用されている。生産工場以外の場所でも多岐に利用されている(注1)。いろいろなモジュールソフトウェア(生産管理などの汎用アプリケーション・ソフトウェア、個々の機器接続のためのプロバイダー・ソフトウェア)の開発、登録が進み、利用可能になったことから、これらの使い廻し(再利用)により、現場スタッフの作業工数が従来の自動化に対して大幅に低下した(下図)。ORiNによってソフトウェアの蓄積、再利用ができるようになったことは、産業用ロボットの進化の中でも大きな事件と言えるのではないか。

 代表的なロボット利用の製造ライン(注2)では、アプリケーション5種類、ネットワーク5種類、ロボット54台、PC9台、PLC69台、操作盤22台、状態量のサンプリングアイテムが7500ほどにもなり、ORiNのようなロボットソフトウェアシステムの開発によって、はじめて安定した運用が可能になったとのことである。ORiNはオープンソースであるから、今後も多くの利用者が(スマホのアプリのように)有用なアプリケーションソフトウェアやプロバイダソフトウェアを追加することで、ロボットの能力がどんどん増してゆくことが期待できる。

 (注1)ORiNを基盤とするスマートサイバー治療室の開発(東京女子医科大学 岡本 淳 氏)


(注2)デンソーにおけるORiN活用例(2003年7月31日、ORiNミーティング2003 )


ORiN効果.png       デンソーテクニカルレビュー Vol.10 No.1 2005 から引用


 ORiN2は2014年現在で1500ライセンス、9000システムが出荷されている。 最近、注目されているIoT(Internet of Things)にも容易に適用できるシステムとして、今後の展開に期待が持てる。

 

 Foxconnはここ数年、内製のロボットであるFoxbots 10,000台をiPhone6sの生産ラインに投入しようと努力してきたが、単純な繰り返し作業はできても、少し難度の高い作業が出来ずに自動化が進まず困っている。

 そこで、2014年4月の時点で、FoxconnのCEOのGou氏はTaipi(台湾)で、Googleのロボット関連プロジェクトを率いるAndy Rubin氏(Android OSの育ての親)と「賢く安全な産業用ロボット開発」で共同することで話し合い、合意したようだ(出典;International Buisiness Times,February 11,2014 "Google Robots Could Automate Manufacturing At Foxconn, Andy Rubin In Talks")。

 Gou氏は工場の自動化レベルを高めることで、EMSの中でも雇用者一人当たりの売り上げが最も低い状態を変えたいと期待していた。また、Gou氏は自分の会社を自動車や医療産業のように、利潤の大きい産業に変えてゆきたいと思っている。

 Rubin氏はGoogleで多分野にわたるロボット関係の会社を吸収していたが、最初に実用化する分野として、スマートフォンの組み立てのような産業分野を選び、スマートフォン用OS(Andoroid)を開発して成功したように、ロボット用のOSを開発して、ロボット分野でリーダシップを握りたいと考えていた。

 これに対して、Gou氏は自分の会社の生産ラインを、Googleが開発するロボットの最適な試験場として使うことが出来ると述べた。工場労働者をロボットに置き換えることは、これからの技術業界の中でも大きなことであり、マイクロソフトやアマゾンも産業用ロボットの場で次の発展を狙っている。

 GoogleとFoxconnの二つの巨大企業が産業用ロボットでの共同開発を進めることになると、他のロボットメーカーにとっては相当の脅威になるのではないか?Googleの人工知能の研究能力やコンピュータOSの開発能力があれば、産業用ロボットの知能化(賢い産業用ロボット)にあたらしい展開が起こると思われる。

 これとは別にFoxconnはアメリカで研究開発に関して投資する対象を探している。いままでもペンシルベニアの研究機関に40億円を投資している。また、最新の生産、自動化技術を学ばせるために、社員をMITに送っている。やる気十分である。

 日本は産業用ロボットを利用する分野で、現場と密着した開発を進めてきて、この分野では現在では世界トップクラスといってよいと思うが、今後は知能化産業用ロボットの分野を積極的、しかもスピーディーに攻めないと、Google Foxconnコンビにやられてしまうかもしれない。スマートフォンなどの電子機器の生産ラインの全ロボット化などは、日本が最初に成功してほしいものである。

 Foxconn は昨年くらいから10,000台の産業用ロボット(内製ロボットのFoxbots)をiPhone6sの生産ラインに導入中である。その目的は作業員の作業環境の改善や、一層の生産増強である。しかし、Foxbotsは製造ラインの最終ステージの作業者の仕事をロボットで置き換えることが、まだ出来ておらず、全ロボット化の作業は遅れている。
 Foxbotsは単純な繰り返し作業は容易にこなすが、作業者が持っている知的な認識能力を持っていないので、品質の制御やラインの最終ステージでの美的品質を保証する作業の能力は、作業者に遠く及ばない。しかし、知的認識の技術の進歩は早いので、遠くない将来にロボット化が可能になるだろう。

  したがって、しばらくは、製造ラインの中で、ロボット化が困難なステージには作業者が残り、完全自動化できているステージと混在したライン構成で進める、というのが現場の担当者の見解である。(出典;Neowin, Sep 10, 2015 :"Foxconn can't fully automate its factories yet,says humans are still important")。

 上記は、ロボット化を進める上で当然予想される結果であり、日本でも、たとえば富士通周辺機器(株)ではタブレット組み付けの自動化をこのような進め方で行っている。ロボットでは難しい工程や人間による官能評価が必要な最終組立工程には作業者が入り、完全自動化はまだ出来ていない。如何に全自動化に近づけるか?が今後の競争点となる。

 それ以外に重要なポイントは、生産管理上の問題であり、ラインに流す製品の変種変量生産に如何に対応したラインを作るかである。スマートフォンのような変種変量生産をロボット化するには、相当な努力と工夫が必要になるはずである。

 FoxconnのCEOのGOU氏が希望する、100万台のロボット導入は、その意気には敬服するが、そんなに簡単にロボット化が出来るわけがない。相当な時間が必要であろう。しかし、彼には大量生産の現場を持っている強みがあり、継続的な努力は新しい技術を生むはずである。GOU氏は新しいロボット関連技術を生み出す、良い環境の中におかれていると考えられる。日本もロボット技術で遅れをとらないためにも、電子、電気機械の国内ラインのロボット化に真剣に取り組まないと、中国に負けてしまうことにもなりかねない。ポイントはセンシング技術である。


 Foxconn(台湾)は世界最大のiPhoneのEMS(エレクトロニクス機器の製造受託サービス会社)であり、その最大の工場は中国にある。iPhoneの製造には、20万人を超える作業者が100本の生産ラインで1日24時間(3交代?)働いている。高騰する賃金のために利益が少なくなっており、会社のCEOのGOU氏は、3年後に生産ラインの70%を自動化する必要があると述べている(出典:Voice of America,2015.03.09)。Foxconnは10年ほど前からFoxbotというロボットの開発を始め、近年は米国ペンシルベニアに研究拠点を設けた。(生産技術やスマートフォンの研究にとどまらず、将来の無人運転自動車の研究も見据えているようだ)

 自動化を進める上での困難は、如何に生産変動のある多種のスマートフォンなどの電子・電機製品を安価に生産するかという点である。下の写真は現在すでにロボット化されているスマートフォン製造の工程のものと思われる(出典:Wn.com,Building work starts on first all-robot manufacturing plant in China's Dongguanのビデオから)。ロータリーテーブルの周りに4台の6軸垂直多間接型の小型ロボットが配置されている。ロボットの動きも大変にきびきびしている。ロボットの形態は三菱電機の小型ロボットに似ているが、内製ロボットだろうか?注目すべきは人がロボットの隣り近くで仕事をしている点であり、安全柵がない。人との衝突時の安全が考慮されたロボットと思われる。もし内製ロボットならば、ロボット技術の面でも相当のレベルに達していることになる。

Foxbotcell20150505South China Morning Post 2015-05-05.png

 20万人の作業者(3交代)のうちの70%といえば、4.7万台のロボットライン(100ラインとすれば、1ラインあたり470台)ということになり、このようなラインを構築するには高い技術が必要になろう。ロボット技術も相当進歩するであろう。

 Foxconnはロボットを(可能ならば?)すべて内製化して、技術の流出を防ぐ方針だから技術は外に漏れずに中にとどまる。このような大規模なロボットラインを持たない日本企業は技術面で差をつけられるであろう。電子機器、家電製品のほとんどを中国のEMSに頼っている日本は、何か対策を考えないとロボット後進国になってしまうだろう。

 このような生産自動化ラインが完成すれば、工場の立地点は中国に限らず、米国でも良いわけで、Foxconnが米国にスマートフォンの製造工場を作ることは大いにありうる話である。オバマ大統領が推進する生産工場を中国から国内に呼び戻す政策にも貢献する。米国ペンシルベニアに研究所を設置した意図も、その辺を考えてのことだろう。

 日本は中国のEMSに委託している電子・電機製品の多種混流生産ラインを日本に戻して、低価格で製品を作れるロボット化ラインの準備を早急に始めなければならないだろう。

 スイスのABB社製のYuMiロボットは小物組みつけ用(500g~1kg)の双腕型ロボットである。

ABBYuMi.jpg

YuMiの仕様
    

 

単位

 

質量

kg

38

可搬重量(短腕)

g

500

自由度

7

リーチ

mm

559

位置再現精度

±mm

0.02

最高速度

m/sec

1.5

安全基準

IP30

 



 ABB社はYuMiをスマートフォンの組み付け用などに使いたかったらしいが、双腕14自由度を平面組付けが多いように見えるスマートフォンなどに使うのは、非合理的かもしれない。
 片腕7自由度は障害物を避けるのには都合がよいので、カメラやその他、小型の家電製品など立体的な対象を組み付ける場合には、有効に使えると思う。また、双腕ならば治具なしで組み立てられる場合もある。

 だから、Foxconnがスマートフォンの組み立てにYuMiを使うだろうか?Faxconn社もロボットを自主開発している。しかし、3年後にiPhoneの製造ラインの70%を自動化するというGou CEOの希望を達成するには、YuMiを使う場合もあるかもしれない。

一方、価格は$40,000(500万円)であり、単腕アーム2本と考えれば1本当たり$20,000(250万円)となるが、単腕2本をそれぞれ別のプログラムで動かすことも出来るとしても、少し高い。 

 双腕とすることについては、過去色々な意見があり、実際に色々な双腕ロボットが発売されているが、あまり売れてはいないようである。

baxter-corobot.jpg

sawyer-cobot.jpg

 米国Rethink Robotics社も双腕型のCo-robotのBaxterを販売したが、現場からの声の大部分が単腕ロボットで十分間に合うというものだったので、Baxterの後継co-robotとして単腕型のSawyerを開発中である。

 双腕への反対意見は、両腕が必要な場合には、「単腕を2台使ったほうが合理的」というものである。
 ABB社は、まず自社の生産ラインでのYuMiの適用の成功例をユーザに見せる必要があろう。

 参考ビデオ

 1.YuMiによる組み立ての例1


 2.YuMiによる組み立ての例2


 3.YuMiによる組み立ての例3

    この映像を見ると、現在まだ人手に頼っている縫製作業の自動化がYuMiで

    できるのではないかと、想像される。


 4.YuMiの設計思想、仕様など



 

 2014年には中国が世界最大の産業用ロボットの需要国になると予想されるそうだ。中国製のロボットも次第に性能が向上しているようだ。今のところ、要素部品には日本製やドイツ製のものを使っているから即座に追い抜かれるとは思えないが、近い将来にはテレビなどと同様に追いつかれる可能性はある。低価格路線で来られたら日本の産業用ロボットメーカも苦境に陥る。
 対策として何が考えられるだろうか?

 ロボットメーカはロボットだけでなくシステム化の技術を磨く。
 商品の競争力で人件費がキーになれないような製造システムを開発しブラックボックス化する。
 徹底的に機械化した商品別、部品別の製造システムを開発し、商品、部品の価格、品質、性能で引き離す。

 これを実現させるためのツールとして、CADベースのロボットオフラインシミュレータの高度化が必要であろう。そのようなシミュレータの例として東京大学発のベンチャー、MUJINが開発した「MUJINコントローラ」も面白そうだ。  

 iPadはパソコンと比較すると、メディア情報を取り扱うのが大変に簡単にできるようになっているようだ。これに比較すれば、Windowsパソコンは使い勝手が悪い。iPadは機能を限定することで大胆なユーザインターフェースを可能とした。これによってコンピュータ利用のハードルを一気に下げて、年寄りでも子供でも使いたくなる環境を実現させた。
 産業用ロボットは使い勝手においては、まだMS-DOS時代のパソコンレベルといえるだろう。そのために、なかなか利用が広がらない。
 産業用ロボットのiPad版は機敏なコンプライアントなアームと高速の視覚認識システムが不可欠になる。如何に低価格で実現できるか?この実現を左右するのはソフトウエアの構築力だ。これらの開発は大学や国の研究所ではできない。メーカの技術者、それも若い世代の技術者に期待するしかない。
 いま、一番にこの目標に近いところにいるロボットはKUKA のLight Weight Robot だ。

 米マイクロソフト社は、ロボット開発に本腰を入れるらしい。同社は2006年5月に、簡単な作業を行えるようロボットを制御するプログラム技術「マイクロソフト・ロボティクス・スタジオ」のプレビュー版を発表している。開発に取り組んでいるのは、総勢9人のチーム(2006年5月)である。WindowsでパソコンのOSの世界制覇を果たしたので、次はロボットのOSで同じく世界制覇を狙おうという意図か?マイクロソフトはロボット市場が、数十億ドル規模になるにはあと10年はかかるだろうと見ているので、このプロジェクトは新しい市場に対する先行投資だという。
 また、ITpro(2007.09.07)にマイクロソフトがロボットに本腰という記事があった。日本のロボット開発会社テムザックがマイクロソフトのロボット開発プラットフォーム「Robotics Studio」でロボット制御用ソフトウェアを開発し、大学などにRobotics Studioの採用を呼びかけるとのことである。

 ロボット先進国たる日本はロボットプラットフォーム構築の面でどのような準備をやっているのだろうか?多分、日本の色々な研究機関(官、学、企業)では、過去から現在まで米国と同等以上のロボットソフトウェア開発の実績があり、多くのソフトウェアをもっているに違いないが、世界標準に育ってゆくような進め方をしているのだろうか?それとも再び米国勢に先行を許してしまいそうな状況なのか?マイクロソフトがWindowsを世界標準にしたような進め方を、日本の何処かのメーカがやって欲しいものだと感じる。ソフトウエアシステムの開発は時間がかかる。だから、早く開始した組織が有利になる。
 産業用ロボットなどから成る生産設備に組み込む通信インターフェースソフトORiN)をロボット工業会が中心になって開発した成功例もある。この場合は大学と複数の企業が協力して作り上げた。
 しかし、ロボットオペレーティングシステム(ロボットOS)の場合は、さらに大掛かりなソフトウェアになる。大規模なソフトウェアを一貫した設計思想の元に作り上げてゆくにはどうしたらよいか?
 ソフトウェア開発ではアメリカが圧倒的に強いが、ロボットはパソコンの場合よりもソフトウェアがハードウエアに依存するところが多い。ロボットの利用経験では日本はアメリカをリードしてる。この経験を組み込んでゆけば世界標準も不可能ではない。
 
 よくロボットの開発には人工知能(具体内容が不明確)の研究が必要といわれるが、それはそれとして、それとは別に、パソコンにおけるWindowsのように、ユーザがロボットとその環境(周辺機器、パーツなど)を自由自在に使える環境がまだ出来ていない。マイクロソフトはそこに目をつけたのだろう。過去数十年の間に先行研究例は多くある。目標はよかったが途中で放置されてしまった開発例が多い。Stanford大学のAL言語、米国サンディア国立研究所のArchimedesなどすばらしいものも多い。マイクロソフトの研究開発が刺激になって、この分野のロボットソフトウェアの研究が活性化されることは大変に喜ばしい。

 追記:
 本ブログの06年06月21日の項で書いた「機械組立て手順の自動生成」や生産システム設計に関する自動プログラミングの研究(3DCGの活用など)と密接に関連してくるので、国家プロジェクトとしてやるべきとも思われる。これが完成すれば現在の産業用ロボットがもっている生産準備や変更に最大一年もの時間がかかるという欠点が解決でき、例えば最大一ヶ月くらいに短縮できればロボットによる自動化が一層広く展開するであろう。モノづくり先進国家を標榜する日本としては、このような面にもっと国家予算を当てて、世界に先駆けた技術を獲得し、将来の国の富の元を確保すべきではないのか?

 ロボットによる組み立て作業手順が、Archimedesのようなソフトで自動生成されたとしても、そのままで組立て作業が成功することは難しいだろう。実際の部品、ツール、冶工具などの寸法とCAD図面寸法との間に誤差があるからである。そこで、実際には組み付けを成功させるために、たとえば

 1)組みつけ方を工夫する:
 たとえば嵌め合い動作が成功しやすい姿勢や移動軌跡に変更する。人間が穴に棒を挿入する場合には、棒を斜めに穴に差し込んでから押し込みながらまっすぐに戻すような手順をとる。これをロボット動作にも応用する。
 2)ツールまたはアームの制御を工夫する:
 ツールを使う良く知られた例としては
RCC(Remote Center Compliance)デバイスを使って、精密嵌め合いを可能にする。ただし、RCCは実際の現場であまり使われていないのではないか。それよりも、作業ごとに個別のコンプライアンス機構を用意する場合が多いのではないか。その他には、コンプライアンスツールを使わないで、ロボットアーム自体をフローティング(=接触外力によってアームが逃げる)させる方法がある。アーム駆動モータ電流の上限値を(静止時の)現在の電流値に制限することで、精度はあまり高くは無いが、比較的簡単に実現できる。これはスカラ型ロボットなどで水平回転方向の軸の位置サーボに適用されることが多い。
 3)力覚センサや視覚センサを利用する:
 センサを使って寸法誤差を補正する動作をさせる。

 これらは組立てをする際のスキル動作というべきものであり、組立ての手順計画(Archimedesなど)にスキルソフトウエアを適切に組み合わせるソフトウエアが完成しないと、組立て計画手順発生ソフトウェアだけでは、生産準備の短縮化は完成しない。ここまでやった実例はまだないと思われる。

 Archimedesと同様な成果を目指した研究内容の論文例が他にも見つかった。

 1.A System for Automatic Planning,Evaluation and Execution of Assembly Sequences for Industrial Robots(U. Thomas ,他、University of Braunschweig,200X年)

 2.3次元CADデータ駆動型自律組立ロボットセルシステム(小島 他、リコー生産技術研究所、1998年)

 これらがその後、画期的な成果を挙げているという様子も見られないので、まだまだ実験室段階の成果と思われる。実際のラインで成果を出すには、まだまだ未解決な問題が多いと思われるが、企業は実用化に向けて熱心に取り組むべきと思う。現状では日本は欧米のレベルから相当に遅れているのではないか?このようなソフトウエアシステムの開発に関しては日本はまったく弱い。また欧米製のソフトウエアを使う羽目になるのかもしれない。小生の心配は杞憂で、日本の企業が既にしっかり取り組んでいることを願うのみ。

 組み立てたい製品のCADデータから組み立て用ロボットの動作を発生させるシステムがあれば、ロボット組立てセルを短期間で立ち上げられる可能性が出てくる。
 製品のCADデータから組立て順序を自動生成する研究開発について米国の事情を調べてみた。米国では「Archimedes
(アルキメデス)」というAutomated Assembly Abalysis ソフトウェアの開発が進んでいるようだ。1995年頃に米国のサンディア国立研究所(場所:アルバカーキ)が機械部品の組立て手順を自動生成するソフトウェアArchimedes 2 の論文を発表しているのは知っていた。それから10年以上の継続的研究の結果、相当使えるレベルにまで来ているようだ。現在はArchimedes 4 か? 電子制御箱などの組立て手順の解析結果がアニメーションで紹介されている。
 Archimedesは無数に存在する組立て順序の中から、ユーザが与える制約条件を満足する組立て順序を提案する。フレキシブル治具を使ってワークを固定する方法も提案できる。さらにハンド、ツール、治具の形状、組立てステーションの形状などを考慮に入れてロボットの動作を計算させることができる。
 ただし、Archimedesのようなシステムが実際に効果を発揮できるためには、前提条件として、部品や生産設備、ツールなどがCADのサーフェスモデル(またはソリッドモデル)で用意されること、およびCADデータから作られた実要素部品の寸法が所定の精度内に管理されていること、が必要である。
 そのような生産準備基盤を確立するのは容易なことではない。しかし、得られる効果を考えれば、優先して開発に取り組むべきテーマであると思う。

 参考:サンディア国立研究所にはISRC(Intelligent Systems & Robotics Center)があり、そこで研究が行われている。米国では国立研究所が中心になって研究開発を実施し、途中から民間企業と共同開発を進め、民間企業から商品として発売されるという例は多いようだ。

 これまで述べたように、組立て作業記述による生産ライン(またはセル)の制御の自動プログラミングは研究が進展しておらず、できるようになっていない。相変わらず人がプログラムを作成するしかない。この作業を生産ラインシミュレータやロボットシミュレータなどを使って支援するというのが現在のレベルであり、このレベルでは生産準備時間を家電製品や一部の自動車部品などに要求されているレベルにまで短くすることは絶望的である。
 
 生産準備の仕事を簡単化して列挙すると(実務の経験がないので筆者の想像である)、
 1)生産条件の決定(製品の種類、生産量、生産コスト、生産準備時間など)
 2)生産ラインの工程設計
 3)設備設計と設備製作
 4)設備の設置
 5)設備の制御準備(ロボット、PLCなどのプログラミングなど)
 6)試運転とデバッギング
 7)生産の立ち上げ

 これらのうちでロボットなどの作業プログラミングに関連するものは、2)、3)、5)であろう。これらをコンピュータ支援のもとで手作業で行うことになる。
 コンピュータ支援は
生産ラインシミュレータロボットオフラインシミュレータを利用して行う。ロボットオフラインシミュレータを利用するには、製品(部品)や設備の3D-CADモデル(ソリッドモデル)が準備されていることが前提条件となる。部品間の接触や衝突を検出するために部品のソリッドモデルが必要なためである。現実にはこれらが準備されていない場合の方が普通で、そのような設計インフラをまず作ってゆく必要がある。このようなインフラがあって初めてコンピュータによる生産準備支援システムが有用になる。
 

 ロボットによる組み立ては、ロボットアームが周辺設備と協調することで初めて可能になる。組み立ての能力を高めるにはロボットアームと周辺設備から成るセル(組立てロボットモジュール)の能力を高める必要がある。ロボット能力が十分に高ければ周辺設備は簡単で済むが、ロボット能力が低い現状では周辺設備で補うしかない。現状では、この周辺設備の価格がロボットの価格の数倍もかかるから、ロボットを高機能化して周辺設備を簡単化したいところだが、これがなかなか難しい。だから組み立てやすい製品形状に設計したり、周辺設備をモジュール化、標準化し、再利用を可能にするなどして設備コストを下げているのが現状であろう。

図:デンソーウェーブ(株)が説明するセル(組み立てモジュール)
  セルを複数台結合すると組み立てラインができる。

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