知能ロボットの最近のブログ記事

 Rethink Robotics社の単腕7軸、co-robotのSawyerが、フィールドテストをおえて、最近発売になった。同社の双腕co-robotのBaxterとは異なり、減速機にハーモニックドライブを使い、位置や速度の精度が上がったようだ。位置の再現精度が0.1mmという記事もある。価格は$29,000で双腕のBaxterの$25,000より高い。単なる品物の搬送ではなく、Machine tendingなどの作業用のロボットとして売り出した。7軸だから、狭い場所でも器用に障害物をよけて作業ができている。安全で使いやすいco-robotとして、中小企業の生産工場で、現状の生産設備を大きく動かすことなく設置できる利点を発揮して、人気を得ることができるだろう。競争相手はユニUniversal Robot UR5($28,000)であろう。

 ただし、電子機器や電気機械(スマートフォン、カメラなど)のような0.1mm以下の位置精度で、高加減速度での位置決めを必要とするような組み立て作業への適用は、構造上難しいだろう。位置決めに時間がかかりそうである。手先に設置したカメラで位置補正するにしても、補正のための時間が許容の範囲内には収まらないだろう。

 Sawyerに期待したいのは、人工知能をどのように使ってロボットの使用範囲を広げるか、という点である。Rethink Robotics社のCTOであるBrooksはBaxterやSawyerのOSにROSを使ったAcademic版を作って、ロボットのインテリジェンスの研究をさせている。ROS上に蓄積された数多くのアプリケーションソフトウェア財産を巧みに使って、従来の産業用ロボットにはなかった新しい機能を見せてくれることを期待している。


 

 福島第1原発の事故は収斂にほど遠い状況にあるように思える。高レベル放射能の排出、原子炉の爆発の可能性はなくなっていない。緊張の続く毎日のため、東電は先のことなど考える余裕がないのだろう。納得のできる今後の収斂シナリオは発表されていない。冷却水からのセシウム除去システムがうまく稼働したとしても、また冷却システムがうまく作動したとしても、いったい何時まで冷却するつもりなのか?残っている燃料は膨大らしいから、この先100年くらい冷却をし続けるのだろうか?それは現実的ではない。

 京都大学の原子力関連の教授がテレビで話していた通り、結局はチェルノブイリと同じようにコンクリートの石棺を作って、100年くらい?放置するしかないのかもしれない。その際、原子炉の周りに石棺を作るための鉄骨からなる枠組みを作らねばならない。高レベルの放射線が飛び交う中で誰がその作業をやるのか?

 高齢の作業員を動員して決死隊を構成してやるしかないなどと言っているが、そんな残酷なことが許されるのか?やはり技術立国の日本らしく、遠隔操縦で組み立ててゆく建設機械を開発しなければならない。宇宙では米国がロボットを使って構造物を組み立てる研究を続けている。それが参考になるのではないか?
 日本には高さ600m以上のスカイツリーを作れる技術がある。建築技術者、ロボット技術者の出番である。日本の技術力をもってすれば必ずできると思う。国民も応援するだろう。


(Urban Challenge現地レポートを参考にした)

 DARPAは無人走行できるロボットカーの開発を急ぐために競技会を開催して、広く民間開発者の参加を呼びかけてきた。
 第1回目(2004年)は砂漠の中の無人走行チャレンジで、完走車はゼロであった。第2回目(2005年10月8日)のチャレンジでは同じく砂漠の中の走行で5台が完走できた(優勝はスタンフォード大学)。この結果を受けて、今回(第3回、2007年11月3日)は市街地走行を想定した競技会が行われた。米軍の基地の中に市街地を想定した通路や交差点、駐車場などを作り数十台のロボット車と有人車とが一定の交通ルールのもとで一定の走行スケジュールを走行してトータルの走行時間を競うやり方だ。他の車に混じって交差点の通過や車線変更、車庫入れなどを行う。市街地と想定された地域の中央区域には家屋や建物もある。最も多いときで59台が同時に模擬市街地を走行した。この内ロボット車は11台(注1)。残りはプロのレーサが運転する車だ。なお、ロボット車の後ろには追跡車が1台づつ付いて、追跡しているロボット車が他の車に追突しそうになるときには緊急停止させる任務をになっている。各ロボット車は、6時間以内に3つのミッション遂行のために約60マイル(約97km)を走ることが要求された。今回は、6台が完走でき、前回2位だったCMU(カーネギーメロン大学)が1位になり、1位だったスタンフォード大学は2位であった。

注1:事前テストによって参加申し込み89台の内11台が競技に参加できた。

 第1回目から第2回目までが1年間であったのに対して、第2回目から第3回目までは2年間を要している。今回は、砂漠のレースと違って多くの障害物が動いており、技術的な困難さが大きかったのが原因と想像される。

 参加を許された11台中6台が97km(平均時速23km、最高時速40km/h?)を完走できたのは、第1回の市街地走行競技としては驚きに値することといえよう。コース走行はGPSとそれによるナビゲーションの手法が確立されているので困難は無いが、他車との干渉、道路交通法規の遵守などが難しい。例えば、完走した6台のうち5台が屋根に載せていた、障害物を検出するためのLIDAR(レンジファインダー)。音響機器のサブウーファーのメーカーであるベロダイン(Velodyne)社が、創業者の興味からグランド・チャレンジに出場するために開発したものだが、このような強力な新デバイスが開発され、他車との干渉検出などに貢献した。 ただ、第4回目の競技会が未定のところを見ると、砂漠の中の完走が実用に近い技術になっているのに比較して、市街地走行は完走したといえども実用には程遠い(実際の市街地走行を安全にするまでにはもっと多くの課題を解決しなければならない)ので、今後更に競技会を展開するのは時期尚早という判断があったのかもしれない。

 砂漠地帯の走行は実用レベル、市街地走行技術は研究レベルという判断が出ただけだとすれば少し物足りない結末だ。

 

 関節トルクフィードバック方式のアームの制御方式は、先回述べた3本指汎用ハンドの制御方式と同じである。3本指汎用ハンドでは一つの作業対象物体に3本の指が協調して接触し、安定に把持をする。接触時の接触力やバネ特性(コンプライアンス)を制御しているのに、実験では把持動作の動的な安定性はすばらしいものであった。つまり、接触から把持までの作業時間が数10msecというように非常に短いにも関らず、十分に安定に動作してくれるのである。このことから、物体との接触作業を目的とする場合には、関節トルクフィードバック方式は大変有効であるという認識を持った。
 現在、いわゆる力を制御するロボットアームはアームの手先に取り付けた力センサで反力を検地してフィードバックし、力やコンプライアンスを制御するのが主流であるが、接触作業の高速化や複数アームの協調作業に対しては、関節トルクフィードバック方式も大きな可能性を持っていると考えられる。剛体接触を伴う作業の制御安定性は関節トルクフィードバック方式がはるかに優れている(参照:"Development of a Fast Assembly Robot Arm with Joint Torque Sensory Feedback Control"、Proc. of the IEEE International Conference on Robotics and Automation 1995 ,pp.2230-2235)。もっと、開発研究を進めるべきではないのか? 
 また、関節トルクフィードバック方式は安全性の面からも有効である。関節トルクフィードバック方式では、アームのどの部分が人間に接触しても感知して停止するまたは回避することが可能である。手先センサ方式ではそうは行かない。また、最近、トヨタや日産がラインに導入しているダッシュボードユニット・ローディング用のバランシングアームのような仕事をさせることも可能はずである。
 アーム関節トルクフィードバック方式は現在の産業用ロボットの構造には直ぐに応用することができず、構造の大幅な変更を余儀なくされる欠点はあるが、日本でも、もっと研究されてしかるべきだと思う。

三本指汎用ハンド

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 物体とアームとの接触力を制御して作業をするロボット要素部品に汎用ハンドがある。汎用ハンドの研究の歴史は古いが、実用になってはいない技術の一つである。汎用ハンドの生みの親は当時MITのAI(人工知能)研究所の研究員であったJ. Kenneth Salisburyであろう。

 汎用ハンドは一定形状の部品だけではなくて、多種類の(極端にはどんな形状の)部品でも把持でき、かつ操れることを目標としている。人のように5本指あればベストであろうが、3本指(計9自由度)あれば把持物体の位置決めと操り(姿勢変化)が可能になる(図1)。

 図1:(株)豊田中央研究所が開発した3本指汎用ハンド。指の関節(9箇所)のトルクを制御することで間接的に指先の把持力を制御できる。駆動モータとハンドを一体化した設計に特徴がある。(引用文献1:三村宣治、多関節型ロボットハンドの制御技術、センサ技術、1991年12月号(Vol.11.No.12))

 しかし、生産ラインで実用になっていないのは何故であろうか?
 いろいろな理由が考えられる。
 第一の理由は、現状の汎用ハンドでは把持の教示が煩雑なことである。物体を掴むときの教示に時間がかかってしまう。これが欠点である。任意姿勢の物体を自動で掴むためには、把持動作の自動化などの研究が望まれる。
 現実の工場では多種類の部品を組み付ける必要があるロボット化組み立てセルなどでは汎用ハンドは使われていない。多種類の専用ハンドを切り替えて使っている。

 第二の理由は汎用ハンドの価格であろう。3本指で9自由度を操るために1本指当たり3軸、3本指で計9軸(=9自由度)のサーボ系が必要になる。当然、価格は高くなる。

 9自由度ではなく1自由度の平行4本指(計4自由度)で実用化した例(写真1)があるが専用ハンドであり、汎用性は低くなる。


 写真1:カーエヤコンの上蓋を把持する4自由度の専用ハンド(デンソー西尾工場カーエヤコン組み立てラインを紹介した中部日本放送のTV画面から引用)


 汎用ハンドの実用性を追求した研究例がある。多種類の自動車部品をそれぞれのパレットの中から一個ずつ取り出して、別パレットに一セット分整列する研究である(図2、写真2)。この場合にはパレットの中の部品の姿勢は一定であり、部品の中心座標に対して部品を把持する指の位置姿勢を教示しておく。この方法により、多種類形状の自動車部品を、姿勢変化なく正確にかつ高速に把持、搬送、パレタイズすることができた。現状の技術レベルでも、今後さらにハードウエアの信頼性を高め、教示の簡単化に成功すれば、例えばセット部品の箱詰め作業とか、組み立てラインへ供給する部品の配膳作業などをロボット化できる可能性は十分にあると思う。

 図2:自動車部品(最大重量5Kg)をパレット1から2へ
    移動する作業(引用文献1、上記参照 )


 写真2:実部品を把持する様子、指の先端だけでなく、第1、第2関節や手の平(3本指の付け根にある黒いダボ)も物体に接触して把持している点に注意。(引用文献:久野敏孝、産業用 ロボットのセンシング技術、平成4年電機学会産業応用部門全国大会で発表)

 この実験では数キログラムの部品を掴むために、ハンドの設計を見直して、ギヤ駆動方式の新しいハンドを設計した(写真3)。減速機にはハーモニック減速機を使い、軸ごとに設置されたトルクセンサから関節トルクフィードバックを行っている。

 写真3:ワイヤケーブルを使わないギヤ減速型の3本指汎用ハンド(1本ごとにモジュール化)。指の関節(9箇所)のトルクを制御して間接的に把持力を制御する。システム性能は,ハンド重量5.5kg,最大可搬重量約10kg,指先力分解能約±200gである。(引用文献2:三村宣治、3本指ロボットハンド、豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.28 No1(1993.3

 ロボットのツール端を環境に剛体接触させる場合、インピーダンス制御とコンプライアンス制御という二つの代表的な方式がある。これについてはRobotics Research社のWebサイトにわかりやすい説明が載っているので、それを以下で紹介する。

 Robotics Research社のR2ロボット制御はツールが力を発生するやり方としてインピーダンス制御とコンプライアンス制御の二つの方式を提供する。
 これらの二つの制御方式ともロボットツール端の動きが、ツール端の6自由度それぞれの方向にspring-mass-damper(ばね-質量-ダンパ)系になるようにまねる。(こうすれば接触時に環境またはロボット自身を破壊する恐れはなくなる。) このときツールや持っている部品(ペイロード)に働く重力の補正が当然必要になる。
 機械組み立てやグラインディング作業、磨き作業、ばりとり作業などは比較的高速で行われるので、過渡的に大きな接触力を伴うが、このような場合にはインピーダンス制御を採用する必要がある。インピーダンス制御はロボットのツール端が剛体である環境に対して安定な接触を維持するに必要な高い周波数応答性を実現できる(注1)。インピーダンス制御は各関節にトルクの発生を指令できるサーボコントローラを必要とする。したがって、ダイレクトドライブ(減速機なしのモータ駆動)かまたは関節トルクの検出センサを備えたマニピュレータのみがインピーダンス制御の対象になる(注2)。
 コンプライアンス制御は低ゲインかつ低応答特性でもよい用途向きである。この場合、接触安定性よりもアームのツール端に装着したセンサの6軸方向でより高精度な力計測が重要となる。質量および慣性主軸の計算はツールとペイロードの位置関係とロボットアームの質量と慣性によって決まる。

注1:ロボットの手先にセンサを持って接触力を制御する方式では安定な接触状態を維持することが難しい。ハンチング現象を起こしやすい。安定化するためには低ゲインにせざるを得ず、低応答性でも良い用途向けとなる。

注2:一般的にはインピーダンス制御というとロボットのツール端にセンサを装着した構造を含める。この場合には、理論的には環境側から見たロボットツールのインピーダンスを、ツールのバネ特性(コンプライアンス)や粘性特性(ダンピング)だけでなく、慣性特性まで含めて制御できる。理論的にはそうであるが、実際には手先にセンサをつけると、剛体接触時の安定性が低下する。したがって、Robotic Research社では、インピーダンス制御の場合には手先センサを使わない。このために、環境側から見たロボットツール端の慣性特性は制御できない(ロボットアームの慣性そのものとなる)。制御できるのは接触力の他にはコンプライアンスとダンピング特性だけとなるが、接触時の安定性は高くできるので、コンプライアンス制御とはいわずに、インピーダンス制御といっていると思われる。


 機械部品の組み立て作業の殆どは部品同士の接触状態を作ってゆく作業である。したがって高速かつ安定に接触状態を作れるアームがあれば組立作業に有用のはずである。専用の治具やツールに頼らずに組立てができる可能性がある。
 それがなかなか実現しないのは高速かつ安定に接触状態を作るのが難しいことが一つの原因になっている。高速安定接触を目指して開発されているのが関節トルクフィードバック型のアームである(アームの手先に力センサを装着する方式では高速安定接触は期待できない)。ここ10数年の研究例には米国Robotics Research社の7軸ロボット、German Aerospace Centerの6軸ロボット、豊田中央研究所の高速組み立て用6軸ロボット、米国スタンフォード大学の
Macro-Mini Actuationアームなどがある。それぞれ高速接触時の安定性の実現に成功している。

  写真:"Dexterous Manipulators" by Robotics Research社、1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用

 米国RoboticsResearch社はNASAとの関連がある開発会社であり、いまでも研究開発を続けているようだ。このロボットの用途の一つは宇宙空間での機械装置の組み立てであろう。

  写真:"DLR light-weight robot" by German Aeropspace Center、IEEE Robotics and Automation Magazine ,June 2004,pp.12-21から引用


  写真:(株)豊田中央研究所の"Fast Assembly Robot Arm"(6軸)、Proc. of the IEEE International Conference on Robotics and Automation 1995 ,pp.2230-2235 から引用

 参考:コンプライアンス制御型高速組立ロボットの開発、第12回ロボット学術講演会(平成6年11月20日、21日、22日)、前刷り p.1099-10100

 関節トルクフィードバック型のアームは構造的には現状の産業用ロボットより複雑・高価になることもあって、日本のロボットメーカは開発をしていない。しかし、いつまでも現状の位置制御型ロボットのままでは将来は切り開かれない。関節トルクフィードバック方式でしっかりした商品造りをして機械部品組立てなどで広い適用分野を切り開く必要がある。そのためにはきめ細かい構造設計と改良を引き続き積み重ねる必要がある。

 

 DARPA主催のロボットカーレースは1回目が2004年、2回目が2005にカリフォルニア州モハビ砂漠で行われ、2回目には200km強の全コースをスタンフォード大学(1位)をはじめ5チームが初めて完走した。「DARPA Urban Challenge」は2007年に3回目が開催される予定。今年のレースでは、市街地を想定したコースで行われる。したがって 交通規則に従い、障害物を避けて走行するなどの難しい判断を機械がしなくてはならない。ロボットカーレースはあたらしい段階に入ったといえるが、今度は相手の車も含め人などいろいろな障害物を認識する必要が出てくるので、そう簡単には完走できないだろう。いづれにしても、アポロの月面着陸(1969年)以来の久しぶりに興奮させられる技術チャレンジだ。技術が成功すれば直ちに現実の自動車に成果が反映されるだろう。いままで多くの発明品を世に送り出してきたアメリカらしいやり方だ。日本もだれか挑戦してはどうか?

 物体との接触力を制御する制御方式に関しては、だいぶ古くなるが、1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsに性能比較映像が載っている。Case Western Reserve Universityが「Recent Research in Impedance Control」と題して具体的に色々な方式のメカニズムとセンサをつかって実験によって力制御の性能比較をしている。このうち下記の1)、3)はアームのどこを押してもアームが動くのに対して、2)は手首に装着してある力センサより先を押せばアームは動くが、それ以外のアームを押しても動かない。アームが人を押しつぶすというような危険性が無いだけ安全性は1)、3)が高いといえる。

1)Simple stiffness control without force sencing
(米)Adept Inc.のダイレクトモータ駆動の水平多関節型ロボットを使用)
 ダイレクトモータ駆動のため力センサは不要である。減速機を使わないので、関節に摩擦トルクの外乱が少なく(関節軸受けの摩擦トルクはある)、関節の機械剛性も高く、関節のStiffness(剛性)制御(注1)が安定している。制御の動特性が高いので外部の物体(剛体)に比較的高速で接触(衝突)しても安定して接触が続けられる。ただし、衝突時にアームの慣性力がショックとして発生する。また、モータが大型、かつ重いので垂直多関節型のロボットに適用するのは実用的ではない。

注1:Compliance(やわらかさ)制御とも言う。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。アームを手で押し引きするとバネのような反力が得られる(写真左)。カーブ状に切った板(木製?)に接触(衝突)後、カーブに沿って滑らかに移動できる(写真右)。


2)Feedback from wrist force sensor
  GEP50ロボット(日立製のプロセスロボット(垂直多関節型)のOEM?)を使用している。ダイレクトモータ駆動ではなく、減速機を使っているので、摩擦トルクが存在し、電流制御だけでは関節のトルク制御が出来ない。そこで、手先に6軸力センサを装着し、接触反力をフィードバックして接触力制御(正確にはインピーダンス制御)をしている。センサとモータの間に複数の関節、減速機が存在するので、それらの摩擦特性や低機械剛性のためにモータとセンサ間の固有振動数は低くなり、制御の動特性は低くなりがちである。制御の応答性を高めようとしてフィードバックゲインを高めると、剛体との接触時に自励振動が発生してしまう。実験では遠隔操作(エミュレーション)で機械部品の組み立てを成功させているが、安定した動作ができる手首負荷慣性の範囲が狭いと報告している。長所は手先センサを用意するだけでよいので、構造が簡単で製造コストが安いことであろう。力制御やインピーダンス制御の殆どの研究例がこの方式を採用している。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。手先に持った部品を指で押すとバネのような反力が得られる(写真左)。断面が△形の部品のオスガイドをY形部品のメスガイドに滑らせながら挿入しているが、動きが少し振動的になっている(写真右)。

3)Senced torque feedback
  (米)Robotic Research 社の7軸垂直多関節型ロボットを使用
  2)の例の様に手先から力トルクをフィードバックするのではなくて、各関節のトルクをフィードバックして減速機に存在する摩擦トルクを減らす方式を採用している。これにより、間接的にダイレクトドライブ方式が実現できる。Robotic Research 社のロボットは関節の減速機にハーモニックドライブを採用してコンパクトなスタイルを実現している。ビデオによれば安定した剛体接触(衝突)動作が可能であり、外部環境へスムースに倣い動作している(注2)。ハーモニックドライブは100対1前後の高減速比が1段で得られる軽量でユニークな減速機であるが、摩擦トルクが比較的大きくかつ機械剛性が低いので、どの程度の実用性能が得られたのか詳細は不明である。
 この方式は各関節にトルクセンサを組み込む必要があるのでアームコストが高くなる。しかし、モータとセンサを近くに配置できるので、トルクフィードバック系の機械剛性は上記2)の方式よりも大きくでき固有振動数も上げやすくなり、トルク制御の動特性は高くできる。したがって、アーム先端が環境物体に接触するときの制御の安定性は高くできる。一方、力センサがツール端にないので関節の軸受けに発生する始動摩擦トルクなどが原因となり、接触力の制御精度は若干低くなる。

注2:アームの評価を行ったCase Western Reserve Universityの研究者によれば、接触時の安定性は「驚くべきもの」であったとのことである。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。アームを手で押し引きするとバネのような反力が得られる(写真左)。アーム先端に持たせた電球を平面に倣わせてスライドさせている(写真右)。アーム先端でなく、どの軸を押し引きしてもアームを動かすことができる(写真では7軸のうちの第5軸を掴んで操作している)。

 11月8日の日経産業新聞にファナックの稲葉社長へのインタビュー記事があった。新しいロボットのアプリケーションとして「ワーク(加工物)の自動供給などで工作機械を24時間稼動するシステム」をアッピールしていた。「(知能化した機能によって)ロボットを使ったことにない顧客に、搬送装置などの周辺機械がなくても導入可能。日本で稼働中のNC工作機械は50万ー60万台あり、各機械に一台ずつロボットを組み込めば膨大な市場になる。もっとも力を入れるべき分野だ」というわけだ。
 ここでの「知能化した機能」とは「通い箱中に適当に並べられたワークを、3次元視覚装置でその位置と姿勢を認識して正しく掴む」機能とか、「ワークを工作機械へ装着する際に必要なロボットアームの力制御またはコンプライアンス制御などができる」とか言うものであろう。
 筆者の興味は、特に力制御またはコンプライアンス制御がどの程度の性能に仕上がっているのかということである。自動車部品組み立てラインでの組立作業のようなのような速い作速度を要求される用途で使えるレベルに仕上がっているのだろうか?

 トヨタ自動車がロボット開発部をつくり、色々な用途のロボットの試作を始めていることが新聞などで報道されている。2006年1月4日の日経産業新聞によれば、その開発戦略は「人のそばにいて助けてくれる知能機械、パートナーロボット」の開発であり、また「道具を使えるロボット」の開発といわれる。
 ここで「道具を使えるロボット」というのはなかなか重要なことを言っていると思う。人間は道具を使う動物であり、それによって今日の繁栄を獲得してきた。ロボットが道具を使えれば、例えば重くて大きな物体を扱う場合、今までのように人間が接近するのが危険な大型のロボットを使う必要は無くなる。今まで人間が扱ってきたクレーンやバランサーなどの道具をロボットが使えれば、ロボット自身は人間のように小型で非力なもので十分ということになる。小型で非力なロボットならば、人間のそばにいても怖くは無いわけである。怖くなくて安全ならばもっとロボットを使おうという場面が増えてくるだろう。しかし、普通に考えるとこれは中々難しそうだ。どのようなアイディアを見せてくれるだろうか楽しみである。

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戦争と技術進化

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 過去の歴史をふり返ってみると、戦争が技術を進化させた例は多い。国家が既にある民生技術を軍事転用するために大金を投入して技術を発展させる。または、軍事を目的に大金を投じて開発された技術が民生用にも利用される。前者の例では航空機(爆撃機)や電子計算機(大砲の弾道予測)、後者の例では原子力やインターネットなどが有名である。
 ロボットを戦場で使うために米国などがロボットの自律機能の開発に大金を投入し始めた。プレデターに目標(ターゲット)追尾機能、自動車(軍需品補給用のトラック)の自動運転のための道路認識技術などがその例である。敵国も開発競争に参入するため、ますます開発競争がエスカレートする。最近になって、ロボット技術がこのような状況の中で大きく進展し始めたように感じる。
 技術は諸刃の剣である。人類を豊かにするために使える一方、人類を危険に陥れる可能性も併せ持つ。特にロボットは小型化により、群衆の中に溶け込んでしまう、または紛れ込んでしまうことが可能なものである。技術が悪用されると非常に危険な状況を作り易い。悪用防止技術の開発研究を平行して進める必要があろう。

ロボット兵器

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 先日(7月10日)、NHKスペシャルで「軍事転用の戦慄 ロボット」が放映された。NHKならではの貴重な映像がたくさんあり、非常に興味深かった。
 この番組を見て、十数年前に(日経?)サイエンス誌で特集していた「未来の戦争」の記事を思い出した。そこでは21世紀の戦争として、冷戦時代とは異なりテロリズムとの戦争を想定していた。冷戦時代のような大型兵器は役に立たず、情報通信ネットワークで連携した小型兵器が主体の戦争になると解説してあった。米国国防省はその予測の下に長期的に開発を進めてきたのであろう。そのような兵器の1例が今回NHKが取り上げていた無人偵察・攻撃機である「プレデター」と思われる。プレデターには監視カメラとミサイルが装備されており、遠隔地にいる操縦者が通信衛星を介して操縦し、戦場を監視しミサイルを発射する。監視カメラが捕らえた特定の物体を自動追尾する自律機能も持っている。遠隔操縦を基本とするが、自律機能を持っているからロボットと言えるだろう。
 今回の映像にはテロリストがプレデターから発射されたミサイルで殺される場面があった(写真:NHKテレビから引用させていただいた)。「ロボットが人を殺している」というセンセーショナルな表現のナレーションがつけられていた。欧米人はロボットを悪魔として見るイメージを持っているといわれている。まさにそのイメージに近いもの(注1)を作り始めてしまった。


 注1:ミサイル発射の判断はロボットではなく人間がしているから、真の意味では兵隊ロボットではないとも言える。

 いよいよ今年の11月にPS3の発売が開始される。今日の朝日新聞朝刊でソニー・コンピュータエンターテインメント社の久多良木社長がPS3について語っていた。PS3は「ソニーグループどころか全産業界の命運を握っている。コンピュータ産業と家電産業、ゲーム産業はほとんど融合すると思う。PS3はそうした時代に家庭内で多様な機能を満たすコンピュータシステムとして、大きな可能性がある」そうだ。PS3はソニーが新開発したCellコンピュータで駆動されている。Cellコンピュータはマルチメディア時代の情報処理システムが必然的にリアルタイム分散処理になることを見越して開発されたマルチプロセッサによるリアルタイム並行処理システムと思われる。
 似たような狙い(?)で1980年代に旧インモス社(英国)で開発されたトランスピュータ(分散処理型コンピュータ、専用言語はOccam)がある。複数のプロセッサを高速通信回線で結んで、それらの並列処理でトータルとしての処理速度を高めようという狙いだったと記憶している。大いに期待されたが、そのうちに姿を消してしまった。その後の汎用マイクロプロセッサの演算速度の向上や価格低下が著しく、トランスピュータがそれらに追いつけなかったためと思われる。
 今回もまた、汎用のマイクロプロセッサの演算速度の向上の限界が予測される中で、ソニーが開発に踏み切ったわけである。今回はゲーム機という具体的な用途を明確した中での開発であり、ソニーでなければ出せないような高額な開発費を投入した中でのデビューである点がトランスピュータの場合と異なっている。SP3にもマイクロソフト社製のXboxという強敵がいる。Xboxは汎用コンピュータを使ったアーキテクチャでSP3に挑戦している。果たして、SP3という新しいアーキテクチャがマルチメディア処理用の主流として認知されるだろうか?それともPS3用の専用として留まるのか?
 筆者の希望としては、非常に重要な技術開発であるだけに、ソニーだけに任せずに、多くの企業・研究所が競争して取り組んでほしいと思う。いや取り組んでいるに違いない。
 たとえば、独立行政法人 産業技術研究所 デジタルヒューマン研究センターではヒューマノイドロボットのための実時間分散処理システムの高性能化に取り組んでいる。あたらしい実時間・並列処理アーキテクチャ基づくRMTP(Responsive Multi-Threaded Processor)にも注目したい。

 人間型ロボットを研究対象にすることも日本の経営者の決断であったが、ソニーの場合は挫折したわけだ。今後、ホンダ、トヨタはどう出るか?
 一般の人(しばしば、研究者も経営者も)は人間型のロボットが歩いたり話したりすると、ロボットが完成に近いと思ってしまうが、そうではなく、二足歩行機械や話し言葉の発生器ができたに過ぎないことが理解できなくて、だまされてしまうのだ。産業用ロボットの父(Father of Robotics)と呼ばれ、ユニメートという産業用ロボットの設計者であり、産業用ロボットを始めて商業的に成功させたJoseph Engelberger氏が人間型ロボットの最大の批判者であるということも一般の人々は知らない(参考:梅谷陽二、ロボットの研究者は現代のからくり師か、p.102)。人間型ロボットの研究者はそれが役に立つ姿を世に提案し、評価を受けてほしい。役に立たないロボットは淘汰されてしまうのだ。これが現実である。役に立ってこそ、研究資金が提供されロボットが進化してゆくという原理を忘れてはならない。
 マウンターと呼ばれる機械がある。これは電子部品を人の数十倍の速さで基盤に組みつけてゆく機械であるが、これはコンピュータや情報家電を大きく進化させた立役者といっても言いすぎでない。これがロボットであることに多くの人は気がつかない。人間の形をしていないからだ。しかし、その生産額は日本のロボット生産額の半分ほどを占めているのいるのである。

写真は日立ハイテク製の高速チップマウンター
(日立ハイテク社のホームページから引用)


 産業用ロボットの開発の方向についても、ファナックと安川電機は考えが異なるようだ(朝日新聞2005年12月9日)。安川電機はトヨタ自動車との共同研究で、双腕ロボットの開発を進めている。

双腕ロボット(安川電機2005年)
安川電機のサイト(http://www.yaskawa.co.jp/newsrelease/2005/15.htm)から引用

 両腕(各6軸)を装着する胴体に回転1軸を追加する(計13軸)ことで、両手協調による組立作業をやりやすくする。そのために、アームの関節の形態と配分を従来型の産業用ロボットの形態から変えた。手先の水平移動がやり易い構造になった。一方、ファナックは数年前までは双腕ロボットを従来型ロボットアーム2本で構成して機械組み立てをやらせていたが、「システムに柔軟性がなく、制約が多いことがわかって開発を卒業した」とのこと。

双腕ロボット(ファナック2000年)
力センサ、視覚センサなどで、対象物の状態を観察しながら、目的の仕事を完遂する。

http://www.fanuc.co.jp/ja/product/robot/pdf/intelligentrobot.pdfから引用)

視覚センサ(目)や力覚センサ(手)を駆使して、自律的に作業を完遂できる知能化ロボットの開発に重点をおいている。

知能ロボットの仕様(ファナック、産業用)
http://www.fanuc.co.jp/ja/product/robot/pdf/intelligentrobot.pdf から引用)
 

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