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 先日の2015国際ロボット展で、デンソーウェーブが小型の双腕co-robotを出展していた。この分野での先輩ロボットであるABB社の小型双腕ロボットYuMiも展示されていた。今回さらにGoogleがFoxconn(iPhoneなどを製造している台湾のEMS)と共同で開発するロボットのプロトタイプになるか?と紹介されたSRI製の小型双腕ロボットが分かったのでここで引用したい。Googleは以前、Google Glass(眼鏡につける表示用のインターフェース?、人気が出ずに発売中止となった)を販売しようとしていたが、この生産は中国ではなく米国で行おうとしていた。米国で生産するためには、生産の自動化が必須であり、そのために小型のロボットが必要になる。

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米国SRI(いろいろなシステムのスタートアップを行う研究機関)が遠隔手術用に研究している小型双腕ロボットアーム(引用;Siliconbeat Feb 11,2014 "Google and Foxconn's plan for robotic domination should come as no surprize")。GoogleがFoxconnと共同で開発する生産用のロボットのモデルになるか?

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デンソーウェーブの小型双腕ロボットCobotta(co-robot、片腕6軸、リーチは約600mm? 参照;Response.15th 自動車 2015.11.27)




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ABB社の小型双腕ロボットYuMi(co-robot、片腕7軸、リーチは約600mm? 参照;http://new.abb.com/products/robotics/yumi


 上記の3つのロボットとも、電子機器などの精密小物組み付けを視野に入れている。この分野はアジアだけとっても1000万人の工場作業員の手作業に依存している。クカ社のティル・ロイター氏は、同業界には2020年までに50万台のロボットが必要になると予測している(RoboNews2015/02/15から品用)。果たして双腕型小型ロボットが電子機器などの小物精密組み立てに合目的なのか、は今後のフィールドテストに待たねばならない。

 Foxconnはここ数年、内製のロボットであるFoxbots 10,000台をiPhone6sの生産ラインに投入しようと努力してきたが、単純な繰り返し作業はできても、少し難度の高い作業が出来ずに自動化が進まず困っている。

 そこで、2014年4月の時点で、FoxconnのCEOのGou氏はTaipi(台湾)で、Googleのロボット関連プロジェクトを率いるAndy Rubin氏(Android OSの育ての親)と「賢く安全な産業用ロボット開発」で共同することで話し合い、合意したようだ(出典;International Buisiness Times,February 11,2014 "Google Robots Could Automate Manufacturing At Foxconn, Andy Rubin In Talks")。

 Gou氏は工場の自動化レベルを高めることで、EMSの中でも雇用者一人当たりの売り上げが最も低い状態を変えたいと期待していた。また、Gou氏は自分の会社を自動車や医療産業のように、利潤の大きい産業に変えてゆきたいと思っている。

 Rubin氏はGoogleで多分野にわたるロボット関係の会社を吸収していたが、最初に実用化する分野として、スマートフォンの組み立てのような産業分野を選び、スマートフォン用OS(Andoroid)を開発して成功したように、ロボット用のOSを開発して、ロボット分野でリーダシップを握りたいと考えていた。

 これに対して、Gou氏は自分の会社の生産ラインを、Googleが開発するロボットの最適な試験場として使うことが出来ると述べた。工場労働者をロボットに置き換えることは、これからの技術業界の中でも大きなことであり、マイクロソフトやアマゾンも産業用ロボットの場で次の発展を狙っている。

 GoogleとFoxconnの二つの巨大企業が産業用ロボットでの共同開発を進めることになると、他のロボットメーカーにとっては相当の脅威になるのではないか?Googleの人工知能の研究能力やコンピュータOSの開発能力があれば、産業用ロボットの知能化(賢い産業用ロボット)にあたらしい展開が起こると思われる。

 これとは別にFoxconnはアメリカで研究開発に関して投資する対象を探している。いままでもペンシルベニアの研究機関に40億円を投資している。また、最新の生産、自動化技術を学ばせるために、社員をMITに送っている。やる気十分である。

 日本は産業用ロボットを利用する分野で、現場と密着した開発を進めてきて、この分野では現在では世界トップクラスといってよいと思うが、今後は知能化産業用ロボットの分野を積極的、しかもスピーディーに攻めないと、Google Foxconnコンビにやられてしまうかもしれない。スマートフォンなどの電子機器の生産ラインの全ロボット化などは、日本が最初に成功してほしいものである。

 Foxconn(台湾)は世界最大のiPhoneのEMS(エレクトロニクス機器の製造受託サービス会社)であり、その最大の工場は中国にある。iPhoneの製造には、20万人を超える作業者が100本の生産ラインで1日24時間(3交代?)働いている。高騰する賃金のために利益が少なくなっており、会社のCEOのGOU氏は、3年後に生産ラインの70%を自動化する必要があると述べている(出典:Voice of America,2015.03.09)。Foxconnは10年ほど前からFoxbotというロボットの開発を始め、近年は米国ペンシルベニアに研究拠点を設けた。(生産技術やスマートフォンの研究にとどまらず、将来の無人運転自動車の研究も見据えているようだ)

 自動化を進める上での困難は、如何に生産変動のある多種のスマートフォンなどの電子・電機製品を安価に生産するかという点である。下の写真は現在すでにロボット化されているスマートフォン製造の工程のものと思われる(出典:Wn.com,Building work starts on first all-robot manufacturing plant in China's Dongguanのビデオから)。ロータリーテーブルの周りに4台の6軸垂直多間接型の小型ロボットが配置されている。ロボットの動きも大変にきびきびしている。ロボットの形態は三菱電機の小型ロボットに似ているが、内製ロボットだろうか?注目すべきは人がロボットの隣り近くで仕事をしている点であり、安全柵がない。人との衝突時の安全が考慮されたロボットと思われる。もし内製ロボットならば、ロボット技術の面でも相当のレベルに達していることになる。

Foxbotcell20150505South China Morning Post 2015-05-05.png

 20万人の作業者(3交代)のうちの70%といえば、4.7万台のロボットライン(100ラインとすれば、1ラインあたり470台)ということになり、このようなラインを構築するには高い技術が必要になろう。ロボット技術も相当進歩するであろう。

 Foxconnはロボットを(可能ならば?)すべて内製化して、技術の流出を防ぐ方針だから技術は外に漏れずに中にとどまる。このような大規模なロボットラインを持たない日本企業は技術面で差をつけられるであろう。電子機器、家電製品のほとんどを中国のEMSに頼っている日本は、何か対策を考えないとロボット後進国になってしまうだろう。

 このような生産自動化ラインが完成すれば、工場の立地点は中国に限らず、米国でも良いわけで、Foxconnが米国にスマートフォンの製造工場を作ることは大いにありうる話である。オバマ大統領が推進する生産工場を中国から国内に呼び戻す政策にも貢献する。米国ペンシルベニアに研究所を設置した意図も、その辺を考えてのことだろう。

 日本は中国のEMSに委託している電子・電機製品の多種混流生産ラインを日本に戻して、低価格で製品を作れるロボット化ラインの準備を早急に始めなければならないだろう。

 co-robotの重要な特性のひとつは、ティーチングが容易(短時間)に出来ることであり、どのco-robotもアームを手で掴んでアームの位置や姿勢を動かして通過ポイントなどを教える、いわゆるLead Through Teachingを採用している。

 各ジョイントにトルクセンサが取り付けてある独KUKA社のiiwaや米国Rethink Robotics社のBaxterなどは小さな力でスムースに動かすことが出来ている。

 一方、ABB社のYuMiやUniversal RobotのUR型はジョイントトルクセンサを持っていない。そのため、特にUniversal Robots社のUR型ロボットでは、ビデオで観察すると、腕を動かすのに大きな力が必要に見える。はたして、このような操作性で精密な位置決めのTeachingが出来るのか疑問符がつく。ユニバーサルロボット社は使いやすさを主張する根拠として、Lead Trough Teachingよりもむしろ、工夫されたTeaching Pendantを使ってのプログラミングのしやすさを主張しいる。

一方、 YuMiは軽く動かすことが出来ているようだ。

 ABB社によれば、YuMiはinovative force sensing technologyによってLead Through Teachingを可能にしていると言う。Universal Robots社によれば、UR型はForce MoveでLead Through Teachingを可能にしていると言う。これらはアーム手先に加えられる力をモータの駆動トルク(電流)などから推定して制御する手法(例:東芝レビューvol.66 No.5 2011)と類似な手法を使っていると思われ、ジョイントトルクセンサを必要としない。同レビューでは、衝突検出やダイレクトティチング(Lead Through Teaching)も可能と解説している。

 UR型で腕を動かすのに大きな力が必要に見えるのは、Force Moveの制御方法がYuMi(=東芝の手法?)とは違っているためと思われる。
 UR型のForce MoveはTeachingのためというより、むしろ安全停止のために用意されている。

結論を先に述べれば、その高価な値段(1000万円強)を1/3以下に下げない限り、工場用としては多くは売れないだろう。

 co-robotとしての性能は市販されている他のどのco-robotよりも優れていると思うが(teaching systemの使いやすさは不明)、値段が他のco-robotの2倍から数倍もする。ドイツにおけるLWR(Light Weight Robot)の研究開始はドイツの研究機関のDLR(German Aerospace Center)で1995年(20年前)に始まり、現在の形に開発が進んだのは2006年(約10年前)である。10年もたって高価な値段が下がらないのは目標としている用途が工場用ではなくて、宇宙用とか検査試験用とか、医療用など、高価でも使ってもらえる用途を対象にしているからではないか?そのため、構造的に理想を追求しすぎているのではないか?

 人と協調して仕事のできるco-robotの条件として、可搬質量と比較して本体質量をできるだけ軽量(2~3倍)にして、動作中に人と接触しても人を傷つけることなく短時間で(数ms?)停止できること、できるだけ省スペースで小型であること、移動・設置が容易で新しい仕事を速やかに立ち上げられることなどであろうか?

 LWR(iiwa--intelligent industrial work assistant)はこれをめざして、各関節にトルクセンサを組み込んだ7軸ロボットとして開発された。特徴としては、

1)ペイロード/アーム総質量の比率をできるだけ大きくするために筺体をカーボンファイバー入りのプラスティックスとしている。

2)形状をすべて曲面として接触しても傷をつけないようにしている。

3)関節ごとにモジュラー化されたドライブシステムを持たせた。パワーエレクトロニクスボード、デジタルエレクトロニクスボード、モータ、ブレーキ、モータ回転角度センサ、ハーモニック減速機、リンク回転角センサ、リンクトルクセンサなどがモジュラー化されている。ドライブシステムの中心部にはホール(穴)があり、パワーケーブル、エレクトロニクス通信用の光ケーブル、非常ブレーキ通信ケーブルなどが通っている。

4)関節にトルクセンサを組み込んだことで、非常にスムースな力制御ができ、衝突時の反力も小さくできるし、アームを持ってするティーチングも非常にスムースである。

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 iiwaはその用途を工場用に限定せず、医療からホームロボットまで広く設定している。いままでに数百台は製造して、いろいろ用途で評価をしているが、工場用としてはなかなか広まらない。高価でも使ってもらえる用途をたくさん開拓して量産効果によって、価格を下げることを狙っているのだろうが、果たしてどこまで価格が下がるであろうか? Co- robot(Collaboration Robot) の主たる目的は、多種中少量生産の自動化であり、Rethink Robotics社のBrooks氏によれば、その価格は中小量生産企業の作業者の1年分の必要経費程度(200万円~300万円?)であろうとの見解がある。だとすれば、1/4~1/3に下げねばならないことになる。

 Baxterは他のco-robotと比べて、大きな特徴が二つある。一つ目は、各ジョイントにトルクセンサに加えて金属ばねが挿入されていることである。他のco-robotのジョイントには金属バネは使われておらず、トルクセンサか、トルクを推定するアルゴリズムが準備されているか、または何も用意されておらずにモータ出力を80W以下に制限しただけのものもある。

 二つ目はアームケーシングやカバーがプラスチックス製であり、さらにギヤトレーンにプラスチックスや焼結合金製のギヤが採用されていることである。他のco-robotの場合、ほとんどがハーモニック減速機を採用している。

 これらの特徴的な構造を採用したために、優れた特性と望ましくない特性がそれぞれ発生してくる。優れた特性とは、まずバネの挿入に関しては衝突時の本質安全を確保できる点であろう。他のco-robotが採用しているトルクセンサによる衝突時の安全停止はトルク制御系が故障した場合には役に立たない。

 二つ目の特徴に関しては、製造価格が大幅に低下できることであろう。Baxterは双腕にもかかわらず、単腕のco-robotよりも価格が安い。ハーモニック減速機を使わないことで価格を下げることができる上に、歯車の材料をプラスチックスや焼結合金に変えることによって1/5以下にできた。さらに、ベアリングやモータに廉価品を採用することで価格を更に下げることに成功している。
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 一方、望ましくない特性も出てくる。
 まず、ジョイントに金属バネを入れることで、アームの加減速時にアームの振動が発生し、位置決めの精度が悪くなるし、振動を発生させないように動かすと動作時間が長くなる。次に歯車材料にプラスチックスや焼結合金を使ったり、ベアリングやモータに廉価版を使うことで、ロストモーションが発生し停止時に振動が出やすくなる。これをソフトウェア(学習機能など)のバ-ジョンアップで修正してゆくのが設計方針であるらしいが、不十分に思える。

 実際に、Baxterの動作例をビデオで観察すると、動作が少し振動的であり動作も遅い。しかし、Brooksは、従来の産業用ロボットのように機械系の高精度な特性で仕事をするのではなく、Baxterは人がやるように目で見て掴んだり、手で相手に倣ったりして、人と同じ速度で仕事をするので、機械系の精度不足は問題にならないと主張している。

 筆者の考えを述べると、Baxterは現状のままでは生き残りは難しく思える。本質安全であること、価格が安いこと、使いやすいこと(Lead through Teachingなど)は魅力的だが、双腕を有効に生かす応用例が少なく、大部分が単腕でも出来る作業のプレゼンテーションである。また、動作速度が遅い点や精度の悪さにより、一部の作業にしか利用できない。ソフトウェアだけでの改善は難しいと思われる。それに加え機械寿命(useful life)が6,500時間とUniversal Robotの1/5と短い。これらが他のco-robotとの競争の際に、致命傷になると思われる。

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 Rethink Robotics社はBaxterの利用者からの要望(位置精度や作業速度をもっと高めてほしい)を基に、Baxterのコンセプトを考え直し、新しい単腕小型ロボットSawyerを発表した(2015年)。アームのケーシングはアルミ製となり、減速機にハーモニック減速機を採用した点と、手先のカメラシステムをもっと高精度にした点が大きく異なる。 ジョイントに金属バネを挿入して、コンプライアントな接触を目指す点はBaxterと同じ。Sawyerの目指す作業はエレクトロニクス関連に絞っているようだ。しかし、実際の作業例のビデオがまだ発表されてないので、ジョイントに挿入した金属バネが作業特性を悪くしていないかは、判断できない。

 co-robot型の産業用ロボットの研究の歴史は古く、一番古いのはドイツKUKA社のLWR(最新名はLBR iiwa)で、発表されたのが2004年頃。各ジョイントにトルクセンサを内臓。 2012年に欧州で発売開始、2015年には日本でも発売。トルクセンサにより衝突時の安全停止やアームを人手で移動させて教示できる。

 ABB社の双腕ロボットYuMi2006年ごろから研究を開始し、2015年発売開始。ジョイントにトルクセンサは内蔵していないが、モータ電流を制御してco-robotの特性を実現している。アーム(可搬質量500g)が小型であり、腕が柔らかいパッドで覆われているため、衝突の衝撃は小さく、手でアームを移動させて教示できる。

 次に古いのは米国Rethink Robotics社のBaxter(双腕)で、研究着手が2008年と思われる。発売は2012年。各ジョイントにバネとトルクセンサを内臓。トルクセンサにより衝突時の安全停止やアームを人手で移動させて教示できる。

 次に古いのはUniversal Robots社のUR5で、発売されたのが2009年(会社設立は2005年)。ジョイントのトルク推定方式?(センサなし)。衝突時の安全停止が可能。トルクセンサがないためにアームを持って移動させながら教示点(waypoint)を教えるのは、トルクセンサありのロボットと比べると相当ぎこちない(力が要る)。

 川田工業のNextage(双腕)の発表も2009年。ジョイントトルクセンサなし、全モータ80w以下。

 以下の4体は2015年前後に発表されたもの。

安川電機の人間協調型双腕ロボットは~2015年発表。全モータ80W以下。

 Rethink Robotics社のSawyer(単腕)は2015年発売。各ジョイントにばねとトルクセンサ内臓。

 GOMTEC社のRoberta(単腕)は~2015年に発売したが同年ABB社が吸収。手先に力センサ装着?

 ファナックの協調ロボットは2015年発表。各ジョイントにトルクセンサ内臓し、アームを柔らかいカバーで覆って、人と接触時の衝撃を緩和している

以下にそれぞれの写真を掲載する。出典はそれぞれの会社のホームページ。



iiwa.png

LBR iiWa ビデオ(2種)

可搬質量7~14kg
自重23.9~29.9kg
自由度(7)、繰り返し精度 ±0.1mm

TCPの最高速度 約1m/sec

価格$50,000~$100、000(560万円~1120万円強)



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UR ビデオ(3種)

リーチ 500mm~1300mm
可搬質量3~10kg
自重11~28kg
自由度(6)、繰り返し精度 ±0.1mm

            TCPの最高速度1m/sec、
            価格$23,000~45,000(250~500万円)



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Nextage ビデオ
可搬質量1.5kg(片腕)
自由度(片腕6、首2、腰1)
速度13~300deg/sec
価格700万円







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Baxster ビデオ
可搬質量2.2kg(片腕)、質量75kg

自由度(片腕7、首1)

最高速度1.0m/sec

位置精度 N/A

価格$22,000(240万円)


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MotomanBMDA3 ビデオ
可搬質量3kg(片腕)、質量60kg

自由度(片腕7、腰1)


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Sawyer ビデオ

リーチ 1230mm
可搬質量4kg、質量19kg

自由度(7)、位置精度 ±0.1mm

典型的なツール速度 1.5m/sec

価格$29,000(320万円)




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Gomtec社のRoberta ビデオ(3種)
可搬質量4~12kg、質量14,5~30,5kg

自由度6、価格$30,000~35,000(330~390万円)

Gomtec社はABB社が買収











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YuMi ビデオ
可搬質量0.5kg(片腕)、質量38kg

自由度(片腕7)、精度 ± 0.02mm

価格$40,000(440万円)


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CR-35iA ビデオ

可搬質量35kg、質量990kg
自由度6、繰り返し位置精度0.08mm

安全監視時速度250mm/sec(最高速度750mm/sec)

 残念ながら日本の話ではない。ドイツ、米国での開発の結果である。
 NASAとGMが5本指のハンドを持った関節トルク制御方式の7自由度アーム(Robonaut2)を開発し、双腕として構成し、上半身ヒューマノイドを作った。レンジファインダーによる視覚と組み合わせて、機械組み立て作業の研究を行っているようだ。ロボット単体の開発にとどめず、作業の研究を始めていることに敬意を表したい。これこそが求められていることだ。

 このアームは15年以上前からNASAがRobotics Research社に開発をさせていたものが原型になっている(下の写真参照、15年前に完成している)。アーム自体はほとんど15年前のもの(2008年8月21日のブログで紹介した)と変わっていないのではないか?

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 ただし、5本指ハンドに関しては今回始めて知った。数kgのものまで把持できるようだから、相当頑丈に作ってあるようだ。非常にコンパクトに作ってある。ハンドの研究は学会では古くから行われているが、5本指を実用化しようという試みは新しい。機械組み立てには5本指ハンドが必要という判断があったものと思われる。
 数年前から、GMが加わって開発を加速しているようだ。GMは自動車の組み立てに使いたいようだ。NASAは宇宙空間での作業に使いたいのだろう。

 関節トルク制御方式のロボット開発は、以前にこのブログでも紹介したように、ドイツの航空宇宙研究所でも開発(Light Weight Robotのビデオ参照)され、現在はKUKA社が用途研究中である。2011年までにユーザに200台くらい配って作業研究をしてもらう計画だそうだ。
 Robonaut2は価格的に現状ではとても生産ラインで使えるようなものではないが、長期的に研究して実用化に持ってゆこうという息の長さが感じられる。GMが加わっているから相当早くテスト使用が始まるかもしれない。

 日本はホームロボットとか2足歩行型ヒューマノイドの研究にシフトしたため、このような機械組み立てのような作業の実用化研究が遅れているのではないか?
 また、日本では関節トルク制御型のアームの研究はされていないようだ。価格が高くなりすぎて実用的ではないという理由である。関節角度制御方式でも手先に6軸力トルクセンサをつければ、同様の性能を得ることができるという判断があるらしい(実際には性能的には相当劣る)。日本では関節トルク制御方式は関節トルク検出機構がコストアップにつながるとの見解を引きずって、いつまでもロボット構造の変革ができていない(注1)。しかし、実際にはそれほど複雑な構造にはならないし、ロボットの新しい使い方を可能にする変革だから、いつまでも躊躇を続けていれば日本の産業用ロボット技術は世界から遅れをとるに違いない。

 注1:関節トルクセンサ方式でなくて、モータ電流から関節トルクを推定して関節トルクを制御する方式が東芝から発表され、東芝機械のロボットに実装した例(下の写真参照、TV800)がある。センサなどを搭載する必要がなく、ソフトウェアで推定するので、アームはコストアップなしに作れるのが特徴である。実作業のビデオが発表されており、それを見る限り嵌め合い作業などは作業速度が遅い(嵌め合い作業のビデオ参照)ように感じた。このレベルの速度で現場の要求にこたえることができるか?今後市場の評価を受けることになる。

 関節トルク制御のサーボをどのような伝達系、減速機で行うのかという問題もある。力制御を古くから研究しているスタンフォード大学のProf.Khatibはいろいろな伝達系を試みをしている。最初はPUMAロボット(1から2段の歯車減速機)。次には1段で1:30程度の減速比が得られる特殊歯車(バックドライバビリティを重視)。最近ではワイヤー駆動方式(アームの軽量化を重視)を研究して十分な力制御特性を実現したようである。ワイヤー駆動方式ではモータをアーム側に設置せずに、台座に固定してワイヤーで関節まで動力を伝達するのでアームが軽量化できる。Barrett Technology社のBarrett armはワイヤー駆動方式の高速ロボットとして有名で研究用として市販されている。しかし、実用機で必要とされる耐久性が問題である。特にワイヤー式はエレベータの例でのわかるように頻繁なメンテナンスが必要で、産業用ロボット用としては向かないかもしれない。実用化にはワイヤーケーブルの耐久強度の一層の向上が必要になろう。小型軽量という面ではハーモニック減速機は有効ではあるが低剛性、大きな起動摩擦、バックドライバビリティの低さ、耐久強度の低さの面で問題も予想される。しかし、LWRでは十分高速な力制御特性を実現している。耐久性についても色々と改良が進められ、小型の産業用ロボットでは広く使われ始めているようであり、大きな問題は無いのかもしれない。LWRではハーモニック減速機の低剛性を補償するために減速機の後にも回転角度エンコーダを入れているようである。歯車式で高減速比の減速機で高剛性、低起動摩擦、バックドライバビリティの良さなどで評価されている遊星歯車型減速機がある。DLRではLWR1(試作1号機)で遊星歯車型減速機を採用したが、LWR2(試作2号機)、LWR3(試作3号機)ではハーモニックドライブに変更した。理由は不明である。市販の産業用ロボット(位置制御型)の多くはRV減速機のような特殊歯形減速機構を使っているが、この減速機を使った力制御性能に関しては筆者は良く知らない。RV減速機の伝達効率(90%)はハーモニック減速機のそれ(70%)より良いので、それなりの性能が得られると思われる。ファナックが商品化した知能ロボット(力制御可能)の減速機は何を使っているのだろうか?制御の応答性はLWRと比較してどうであろうか?興味は尽きない。

  接触制御方式として、関節サーボのメインループに位置制御系を採用し手先設置の力-トルクセンサを使うか、あるいは関節サーボのメインループにトルク制御系を採用し関節トルクセンサを使うか、の選択の問題がある。それぞれ一長一短がある。何を重視するかという観点で選択が決まる。前者にはファナックの実用例があり、既に商品化されている。
 価格や力制御精度を重視すれば、力-トルクセンサ方式が良いだろうし、接触制御の高速性、アームとの接触安全性、センサの頑丈性を重視するならば関節トルクセンサ方式が良いのではないか?筆者は、手先の力やトルクを制御するならば、本来、関節サーボにはトルク制御を採用するのが筋ではないかと感じる。ロボットの運動モデルを使った運動性能の向上がやりやすいと思われる。

 参考:産業技術研究所の松井俊浩氏は、力-トルクセンサ方式でも位置制御系のサーボサイクルを速くすれば、十分速い力制御特性を実現できると述べている。

 LWRはドイツの航空宇宙研究所が開発した新世代産業用ロボット(関節トルク制御方式)であり、SME(中小量生産)向けに開発されたものである。基本的には米国Robotics Rsearch社のロボット(K-*i型)と同じ設計コンセプトであり、その改良版とも言える位置づけのものだ。しかし、その動きをWebビデオで見る限り、LWRのほうが実用的な性能(速さ、加減速度、騒音、大きさ、扱える質量など)は相当に高まっていると思われる。(参考:LWRのビデオ、およびRobotics ReserachのK1207i ロボットのビデオ
 日本では関節トルク制御方式のロボットで商品化されているものはまだ無い。

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 写真:KUKA社製のLight-weight robot。SME robot のDownload ページのSafety in Human-Robot Interactionから引用。ロボットのどの部分を押しても動かすことができる。KUKA社はこのロボットをまだ社内で評価中で、市販はしていない。

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 写真:LWRとほぼ同サイズのRobotics Research社製のK-1207iロボット。同社のWebビデオから引用。LWRと比較すると(製造年が10年も前だけに)、加減速度は低いし、騒音も大きいように見える。NASAやFord Motorsで一部実用されたようだ。

 1.ねらい
  1)手で押して容易に操作できるロボット(教示が感覚的にできる)
  2)ロボットのどの部分が人に当たっても大きなダメージを与えないロボット
   (ロボットと人の作業領域のオーバラップがある程度可能)
  3)ツール端での高速なインピーダンス(またはコンプライアンス)制御特性
  4)軽量・大可搬量のロボット(可搬質量≒ロボット質量)
  5)7軸で器用なロボット(教示作業が簡単化)
  6)関節駆動構造のモジュラー化により低価格化が可能

 2.構造
   米国Robotics Rsearch社のロボット(K-*i型)との共通点は;
  1)7軸
  2)関節駆動系の構造
    ハーモニックドライブ、モータ、ブレーキ、回転角エンコーダ、関節トルクセンサ(歪みゲージ式)が一体化
  3)関節内に関節ごとのサーボコントローラ(DSP使用)とモータドライバを分散配置
  4)ハーモニック減速機とモータ回転軸の中空軸心にドライババスと情報通信用のLANケーブルを通す。
  5)関節トルク制御方式のインピーダンス制御

  LWRの進化したところは;
    ・アームは炭素繊維強化プラスティックスで軽量化
    ・モータの小型高出力化
    ・ハーモニックドライブの出力側にも回転角度エンコーダを配置(減速機の低剛性補償?)
    ・関節サーボコントローラと運動制御用コントローラとの情報通信用に光LANを採用(注1)
  注1:日本で発表されているヒューマノイドロボットは、まだLANを採用していないようだ。産業技術研究所で現在開発中の「ヒューマノイド・ロボットのための実時間分散情報処理」システムでは採用される予定

 3.特徴
   Robotics Rsearch社のロボットと共通の特徴は;
    ツール端に力ートルクセンサを配置したインピーダンス制御に比較してインピーダンス制御の応答速度が向上し、嵌め合いなどの作業速度が数倍に高速化。
    アームのどの部分を触ってもアームを動かすことができ(Sensibility along the entire arm structure)、低速での接触ならば人体を傷つけることは少ない。人と作業領域をオーバラップしても安全性が高い(ただし、高速移動状態での人との接触はやはり危険)。
   LWRの特に優れた点は、ロボット質量と同じ質量を扱える点。従来の小型ロボットはロボット質量の1/5から1/8程度の質量しか扱えなかった。アームに炭素繊維強化プラスティックスを使った以外にも、減速機に高減速比のハーモニックドライブを使ったことが自重の軽量化に貢献したと思われる。

 4.問題点
  1)Robotics Rsearch社のK-*i型ロボットは発表されてから既に15年程経過しているのに、いまだに産業用ロボットとして量産に入っている様子が無い。試験用アームとしての位置づけを出ていない。コストパフォーマンスが有利になるアプリケーションが産業用分野では見つかっていないのではないか?数が出ないので、価格が下がらないことが問題だと思われる。LWRはRoborics Rsearch社のK-*i型ロボットより進化していると思われるが、これも発表以来4年程度経っている。関節駆動系にセンサを多用していること、アーム材料に炭素繊維強化プラスティックスを使っていることなどでロボットが高価格になっている。実用的なロボットにするためには再設計が必要であろう。KUKA社の製品として製品化(市販はされていない)されているので、将来には改良されるのではないか?
  2)筆者の知識不足かもしれないが、ハーモニックドライブが産業用ロボットのような激しい使用環境で長期のMTBF(故障発生までの平均時間、スポット溶接用ロボットの場合10万時間)が要求される用途に適切な素性を持っているかどうかという点が心配である。今後の耐久性面での改良が鍵を握ると思われる。筆者としては別種の減速機として遊星歯車減速機なども検討する価値があると思う。

 関節トルクフィードバック方式のアームの制御方式は、先回述べた3本指汎用ハンドの制御方式と同じである。3本指汎用ハンドでは一つの作業対象物体に3本の指が協調して接触し、安定に把持をする。接触時の接触力やバネ特性(コンプライアンス)を制御しているのに、実験では把持動作の動的な安定性はすばらしいものであった。つまり、接触から把持までの作業時間が数10msecというように非常に短いにも関らず、十分に安定に動作してくれるのである。このことから、物体との接触作業を目的とする場合には、関節トルクフィードバック方式は大変有効であるという認識を持った。
 現在、いわゆる力を制御するロボットアームはアームの手先に取り付けた力センサで反力を検地してフィードバックし、力やコンプライアンスを制御するのが主流であるが、接触作業の高速化や複数アームの協調作業に対しては、関節トルクフィードバック方式も大きな可能性を持っていると考えられる。剛体接触を伴う作業の制御安定性は関節トルクフィードバック方式がはるかに優れている(参照:"Development of a Fast Assembly Robot Arm with Joint Torque Sensory Feedback Control"、Proc. of the IEEE International Conference on Robotics and Automation 1995 ,pp.2230-2235)。もっと、開発研究を進めるべきではないのか? 
 また、関節トルクフィードバック方式は安全性の面からも有効である。関節トルクフィードバック方式では、アームのどの部分が人間に接触しても感知して停止するまたは回避することが可能である。手先センサ方式ではそうは行かない。また、最近、トヨタや日産がラインに導入しているダッシュボードユニット・ローディング用のバランシングアームのような仕事をさせることも可能はずである。
 アーム関節トルクフィードバック方式は現在の産業用ロボットの構造には直ぐに応用することができず、構造の大幅な変更を余儀なくされる欠点はあるが、日本でも、もっと研究されてしかるべきだと思う。

三本指汎用ハンド

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 物体とアームとの接触力を制御して作業をするロボット要素部品に汎用ハンドがある。汎用ハンドの研究の歴史は古いが、実用になってはいない技術の一つである。汎用ハンドの生みの親は当時MITのAI(人工知能)研究所の研究員であったJ. Kenneth Salisburyであろう。

 汎用ハンドは一定形状の部品だけではなくて、多種類の(極端にはどんな形状の)部品でも把持でき、かつ操れることを目標としている。人のように5本指あればベストであろうが、3本指(計9自由度)あれば把持物体の位置決めと操り(姿勢変化)が可能になる(図1)。

 図1:(株)豊田中央研究所が開発した3本指汎用ハンド。指の関節(9箇所)のトルクを制御することで間接的に指先の把持力を制御できる。駆動モータとハンドを一体化した設計に特徴がある。(引用文献1:三村宣治、多関節型ロボットハンドの制御技術、センサ技術、1991年12月号(Vol.11.No.12))

 しかし、生産ラインで実用になっていないのは何故であろうか?
 いろいろな理由が考えられる。
 第一の理由は、現状の汎用ハンドでは把持の教示が煩雑なことである。物体を掴むときの教示に時間がかかってしまう。これが欠点である。任意姿勢の物体を自動で掴むためには、把持動作の自動化などの研究が望まれる。
 現実の工場では多種類の部品を組み付ける必要があるロボット化組み立てセルなどでは汎用ハンドは使われていない。多種類の専用ハンドを切り替えて使っている。

 第二の理由は汎用ハンドの価格であろう。3本指で9自由度を操るために1本指当たり3軸、3本指で計9軸(=9自由度)のサーボ系が必要になる。当然、価格は高くなる。

 9自由度ではなく1自由度の平行4本指(計4自由度)で実用化した例(写真1)があるが専用ハンドであり、汎用性は低くなる。


 写真1:カーエヤコンの上蓋を把持する4自由度の専用ハンド(デンソー西尾工場カーエヤコン組み立てラインを紹介した中部日本放送のTV画面から引用)


 汎用ハンドの実用性を追求した研究例がある。多種類の自動車部品をそれぞれのパレットの中から一個ずつ取り出して、別パレットに一セット分整列する研究である(図2、写真2)。この場合にはパレットの中の部品の姿勢は一定であり、部品の中心座標に対して部品を把持する指の位置姿勢を教示しておく。この方法により、多種類形状の自動車部品を、姿勢変化なく正確にかつ高速に把持、搬送、パレタイズすることができた。現状の技術レベルでも、今後さらにハードウエアの信頼性を高め、教示の簡単化に成功すれば、例えばセット部品の箱詰め作業とか、組み立てラインへ供給する部品の配膳作業などをロボット化できる可能性は十分にあると思う。

 図2:自動車部品(最大重量5Kg)をパレット1から2へ
    移動する作業(引用文献1、上記参照 )


 写真2:実部品を把持する様子、指の先端だけでなく、第1、第2関節や手の平(3本指の付け根にある黒いダボ)も物体に接触して把持している点に注意。(引用文献:久野敏孝、産業用 ロボットのセンシング技術、平成4年電機学会産業応用部門全国大会で発表)

 この実験では数キログラムの部品を掴むために、ハンドの設計を見直して、ギヤ駆動方式の新しいハンドを設計した(写真3)。減速機にはハーモニック減速機を使い、軸ごとに設置されたトルクセンサから関節トルクフィードバックを行っている。

 写真3:ワイヤケーブルを使わないギヤ減速型の3本指汎用ハンド(1本ごとにモジュール化)。指の関節(9箇所)のトルクを制御して間接的に把持力を制御する。システム性能は,ハンド重量5.5kg,最大可搬重量約10kg,指先力分解能約±200gである。(引用文献2:三村宣治、3本指ロボットハンド、豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.28 No1(1993.3

 機械組み立てには力サーボは必ずしも必要ではなく、位置制御ロボットに力センサを持たせて、接触時の反力をモニタしながら、閾値に達したら移動を止めるというやり方でよい場合もある。力センサを使わなくてもモータの駆動電流をモニタしながらやる場合もある。組み立て自動化の現場では、現実にはこのやり方が多く使われている。しかし、探り動作が必要なので、作業速度が遅くなる可能性はある。

 ロボットのツール端を環境に剛体接触させる場合、インピーダンス制御とコンプライアンス制御という二つの代表的な方式がある。これについてはRobotics Research社のWebサイトにわかりやすい説明が載っているので、それを以下で紹介する。

 Robotics Research社のR2ロボット制御はツールが力を発生するやり方としてインピーダンス制御とコンプライアンス制御の二つの方式を提供する。
 これらの二つの制御方式ともロボットツール端の動きが、ツール端の6自由度それぞれの方向にspring-mass-damper(ばね-質量-ダンパ)系になるようにまねる。(こうすれば接触時に環境またはロボット自身を破壊する恐れはなくなる。) このときツールや持っている部品(ペイロード)に働く重力の補正が当然必要になる。
 機械組み立てやグラインディング作業、磨き作業、ばりとり作業などは比較的高速で行われるので、過渡的に大きな接触力を伴うが、このような場合にはインピーダンス制御を採用する必要がある。インピーダンス制御はロボットのツール端が剛体である環境に対して安定な接触を維持するに必要な高い周波数応答性を実現できる(注1)。インピーダンス制御は各関節にトルクの発生を指令できるサーボコントローラを必要とする。したがって、ダイレクトドライブ(減速機なしのモータ駆動)かまたは関節トルクの検出センサを備えたマニピュレータのみがインピーダンス制御の対象になる(注2)。
 コンプライアンス制御は低ゲインかつ低応答特性でもよい用途向きである。この場合、接触安定性よりもアームのツール端に装着したセンサの6軸方向でより高精度な力計測が重要となる。質量および慣性主軸の計算はツールとペイロードの位置関係とロボットアームの質量と慣性によって決まる。

注1:ロボットの手先にセンサを持って接触力を制御する方式では安定な接触状態を維持することが難しい。ハンチング現象を起こしやすい。安定化するためには低ゲインにせざるを得ず、低応答性でも良い用途向けとなる。

注2:一般的にはインピーダンス制御というとロボットのツール端にセンサを装着した構造を含める。この場合には、理論的には環境側から見たロボットツールのインピーダンスを、ツールのバネ特性(コンプライアンス)や粘性特性(ダンピング)だけでなく、慣性特性まで含めて制御できる。理論的にはそうであるが、実際には手先にセンサをつけると、剛体接触時の安定性が低下する。したがって、Robotic Research社では、インピーダンス制御の場合には手先センサを使わない。このために、環境側から見たロボットツール端の慣性特性は制御できない(ロボットアームの慣性そのものとなる)。制御できるのは接触力の他にはコンプライアンスとダンピング特性だけとなるが、接触時の安定性は高くできるので、コンプライアンス制御とはいわずに、インピーダンス制御といっていると思われる。


 機械部品の組み立て作業の殆どは部品同士の接触状態を作ってゆく作業である。したがって高速かつ安定に接触状態を作れるアームがあれば組立作業に有用のはずである。専用の治具やツールに頼らずに組立てができる可能性がある。
 それがなかなか実現しないのは高速かつ安定に接触状態を作るのが難しいことが一つの原因になっている。高速安定接触を目指して開発されているのが関節トルクフィードバック型のアームである(アームの手先に力センサを装着する方式では高速安定接触は期待できない)。ここ10数年の研究例には米国Robotics Research社の7軸ロボット、German Aerospace Centerの6軸ロボット、豊田中央研究所の高速組み立て用6軸ロボット、米国スタンフォード大学の
Macro-Mini Actuationアームなどがある。それぞれ高速接触時の安定性の実現に成功している。

  写真:"Dexterous Manipulators" by Robotics Research社、1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用

 米国RoboticsResearch社はNASAとの関連がある開発会社であり、いまでも研究開発を続けているようだ。このロボットの用途の一つは宇宙空間での機械装置の組み立てであろう。

  写真:"DLR light-weight robot" by German Aeropspace Center、IEEE Robotics and Automation Magazine ,June 2004,pp.12-21から引用


  写真:(株)豊田中央研究所の"Fast Assembly Robot Arm"(6軸)、Proc. of the IEEE International Conference on Robotics and Automation 1995 ,pp.2230-2235 から引用

 参考:コンプライアンス制御型高速組立ロボットの開発、第12回ロボット学術講演会(平成6年11月20日、21日、22日)、前刷り p.1099-10100

 関節トルクフィードバック型のアームは構造的には現状の産業用ロボットより複雑・高価になることもあって、日本のロボットメーカは開発をしていない。しかし、いつまでも現状の位置制御型ロボットのままでは将来は切り開かれない。関節トルクフィードバック方式でしっかりした商品造りをして機械部品組立てなどで広い適用分野を切り開く必要がある。そのためにはきめ細かい構造設計と改良を引き続き積み重ねる必要がある。

 

 物体との接触力を制御する制御方式に関しては、だいぶ古くなるが、1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsに性能比較映像が載っている。Case Western Reserve Universityが「Recent Research in Impedance Control」と題して具体的に色々な方式のメカニズムとセンサをつかって実験によって力制御の性能比較をしている。このうち下記の1)、3)はアームのどこを押してもアームが動くのに対して、2)は手首に装着してある力センサより先を押せばアームは動くが、それ以外のアームを押しても動かない。アームが人を押しつぶすというような危険性が無いだけ安全性は1)、3)が高いといえる。

1)Simple stiffness control without force sencing
(米)Adept Inc.のダイレクトモータ駆動の水平多関節型ロボットを使用)
 ダイレクトモータ駆動のため力センサは不要である。減速機を使わないので、関節に摩擦トルクの外乱が少なく(関節軸受けの摩擦トルクはある)、関節の機械剛性も高く、関節のStiffness(剛性)制御(注1)が安定している。制御の動特性が高いので外部の物体(剛体)に比較的高速で接触(衝突)しても安定して接触が続けられる。ただし、衝突時にアームの慣性力がショックとして発生する。また、モータが大型、かつ重いので垂直多関節型のロボットに適用するのは実用的ではない。

注1:Compliance(やわらかさ)制御とも言う。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。アームを手で押し引きするとバネのような反力が得られる(写真左)。カーブ状に切った板(木製?)に接触(衝突)後、カーブに沿って滑らかに移動できる(写真右)。


2)Feedback from wrist force sensor
  GEP50ロボット(日立製のプロセスロボット(垂直多関節型)のOEM?)を使用している。ダイレクトモータ駆動ではなく、減速機を使っているので、摩擦トルクが存在し、電流制御だけでは関節のトルク制御が出来ない。そこで、手先に6軸力センサを装着し、接触反力をフィードバックして接触力制御(正確にはインピーダンス制御)をしている。センサとモータの間に複数の関節、減速機が存在するので、それらの摩擦特性や低機械剛性のためにモータとセンサ間の固有振動数は低くなり、制御の動特性は低くなりがちである。制御の応答性を高めようとしてフィードバックゲインを高めると、剛体との接触時に自励振動が発生してしまう。実験では遠隔操作(エミュレーション)で機械部品の組み立てを成功させているが、安定した動作ができる手首負荷慣性の範囲が狭いと報告している。長所は手先センサを用意するだけでよいので、構造が簡単で製造コストが安いことであろう。力制御やインピーダンス制御の殆どの研究例がこの方式を採用している。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。手先に持った部品を指で押すとバネのような反力が得られる(写真左)。断面が△形の部品のオスガイドをY形部品のメスガイドに滑らせながら挿入しているが、動きが少し振動的になっている(写真右)。

3)Senced torque feedback
  (米)Robotic Research 社の7軸垂直多関節型ロボットを使用
  2)の例の様に手先から力トルクをフィードバックするのではなくて、各関節のトルクをフィードバックして減速機に存在する摩擦トルクを減らす方式を採用している。これにより、間接的にダイレクトドライブ方式が実現できる。Robotic Research 社のロボットは関節の減速機にハーモニックドライブを採用してコンパクトなスタイルを実現している。ビデオによれば安定した剛体接触(衝突)動作が可能であり、外部環境へスムースに倣い動作している(注2)。ハーモニックドライブは100対1前後の高減速比が1段で得られる軽量でユニークな減速機であるが、摩擦トルクが比較的大きくかつ機械剛性が低いので、どの程度の実用性能が得られたのか詳細は不明である。
 この方式は各関節にトルクセンサを組み込む必要があるのでアームコストが高くなる。しかし、モータとセンサを近くに配置できるので、トルクフィードバック系の機械剛性は上記2)の方式よりも大きくでき固有振動数も上げやすくなり、トルク制御の動特性は高くできる。したがって、アーム先端が環境物体に接触するときの制御の安定性は高くできる。一方、力センサがツール端にないので関節の軸受けに発生する始動摩擦トルクなどが原因となり、接触力の制御精度は若干低くなる。

注2:アームの評価を行ったCase Western Reserve Universityの研究者によれば、接触時の安定性は「驚くべきもの」であったとのことである。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。アームを手で押し引きするとバネのような反力が得られる(写真左)。アーム先端に持たせた電球を平面に倣わせてスライドさせている(写真右)。アーム先端でなく、どの軸を押し引きしてもアームを動かすことができる(写真では7軸のうちの第5軸を掴んで操作している)。

 アームが環境物体に接触する時の反力を制御できる力制御ロボットの研究はロボット研究の歴史の中で大きな分野を占めてきた。しかし、そのような研究にもかかわらず力制御ロボットが工場で実用化された例は殆ど無かったといってよい。最近ファナックから発売された「NC機械にワークをロードアンロードするシステム」は6軸力センサをツール端に装着しているので、日本で商品化された初めての力制御型アームの可能性はある。しかし、力サーボではなく、単なる力モニタを可能にした位置制御ロボットであるかもしれない。
 何故、力制御型ロボットが実用できていないのであろうか?
 原因を考察してみる。

 力制御ロボットアームに期待したい仕事には、今まではばり取り作業や磨き作業などがあった。しかし、力制御アームを使うと現状では力制御の動特性が低いので、多くの場合望みの品質が得られなかったり、できても作業速度が遅くて実用にならなかったりする。応答性が低くても作業を成功させるためには、個別の仕事にあわせてアームの動きを調整する必要が出てくる。例えば磨き量を一定にするために磨き工具の接触・離脱にあわせて接触力を調整するとか・・・。つまり、単に力制御すれば良いというのではなくて、少し知的な動作を組み込む必要が出てくる。この個別のプログラミングが難しくて、力制御が敬遠されていることがあると思う。

 ばり取り作業は力制御のロボットアームなどを使わなくても、多くの場合位置制御だけで実用化されている。磨き作業などでは対象への押し付け力の制御をロボットアーム制御ではなく、アーム先端につけた専用ツールでやる方法もある。この方が力精度、応答性が高く実現できる。

 力制御ロボットアームに期待したい他の仕事としては機械部品の組み立て作業がある。組み立てる部品同士の接触状態を制御して組み立てることが出来れば、人のように組立てることが出来るはずである。しかし、実際にはこの方法では前記の磨き作業の場合と同様の理由で機敏に組み立てることが出来なくなる。したがって現状では、産業用ロボットで機械を組み立てる場合には人間とは異なったやり方で力制御を使わずに実現されている。産業用ロボットは部品などを人よりもはるかに高精度に位置決めできるので、視覚や触覚、力覚が無くても、治具やツールを工夫すれば部品を正確に掴んだり、精度良く組み合わせたりできる。商品寿命が数年から10年ほどもある部品(例えば自動車のエヤコン)の組み立ての場合には、設備にお金がかけられるのでこのような方式で実現されている。

 まとめると、現状では力制御アームの出番が少ないということになる。
 個別の仕事ごとにアームの動き(場合によっては制御特性)を調整する必要があり、汎用性に欠ける。このプログラミングが難しくかつ面倒なために力制御が敬遠されていることがあると思う。将来力制御を有効に使うためには制御の一層の高速化と同時に、プログラミングが簡単に出来るような研究が必要であろう。

 スポット溶接、アーク溶接などの用途には6軸多関節型のロボットが受け入れられたが、それ以外のロードアンロード用や組み立て用になると、6軸型が必要か?オーバクオリティではないか?という疑問が多く出された。そのために、2軸、3軸などいろいろな軸数や色々な関節形状(スライド関節、回転関節)を持った特殊ロボットが用途別にたくさん設計された。しかし、仕事に最適な形状とは言え、特殊な自動機をその都度、設計、製作することは、設備準備期間、設備価格、信頼性、使い勝手の面で不利なことが明らかになってきた。結果的に、3軸または4軸の水平多関節型(スカラ型)と5軸または6軸の垂直多関節型が残った。電機産業での組立作業や食品産業などでのロードアンロード(またはピックアンドプレース)用途には水平多関節型の4軸機が多く使われている。

写真は水平多関節型4軸ロボット

 それでは垂直多関節型6軸機は組み立て用途には使われなくなったかというそうでもなく、特に自動車部品組み立ての分野では意外に多く使われている。治具などの周辺装置の垂直精度が多少低くても、6軸機ならばロボット側で調整できるので、設備製造コスト、準備時間が短縮できるという利点が評価されたためと思われる。

PUMAの特徴

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 PUMAは組立作業のロボット化を可能にするために、開発の狙いを「小型化、使いやすさ」に定めたロボットであった。

 1)小型化(軽量化)
  それまでのロボット(例、Unimate 2000)は人の大きさに比べれば大型で、質量も1トン近くあり、GMが要望するような人と隣りあわせで作業ができる設備ではなかった。そこでPUMAでは大きさをほぼ人の腕並にし、質量も一挙に55kgまで軽量化した。駆動モータは電動(出力50~100wの直流モータ、アナログアンプで駆動)とし、最大可搬質量は2.5kg、移動速度は高速(1m/sec)なので、まだまだ人が隣りあわせで作業ができるほど安全にはなっていない。しかし、Unimate 2000のように人を押しつぶして圧死させるというような危険はなくなり、安全性は向上した。また、小型化により軽量化し、必要電力も低く(1.5KVA)なり、低価格で製造できるようになった。

 2)使い易さ
 初めて16ビットマイクロコンピュータ(LSI-11/2・・・注1)が使われたロボットである。関節角度座標と実世界座標との間の順逆座標変換機能(注2)、プログラミング言語VAL(Variable Automation Language)などをはじめとして多くの機能がソフトウェアで実現された。これにより制御装置が低価格にできたと同時に使いやすくなった。PUMAはその後各社から発売された産業用ロボットの基本形を完成させたといってよい。

 注1:LSI-11/2はDigital Equipment Corporation(Dec)製のマイクロコンピュータで1975年ごろに商品化された。PDP-11ミニコンピュータをLSI化したLSI-11マイクロプロセッサを実装している。浮動小数点演算命令も用意されていたので、複雑な座標変換計算が実時間で可能になり、多関節ロボットを直交座標系で動かすことを可能にした。RT-11というリアルタイム・オペレーティングシステムも用意されていたので、ソフトウエア設計がきれいにできた。PUMAもRT-11を使っていたと思われる。

 注2:順変換とは関節角度座標値(θ1、・・・θ6)→ 実世界座標値(OT)
    逆変換とは実世界座標値(OT)→ 関節角度座標値(θ1、・・・θ6)
    実世界座標系にはワールド座標系、ツール座標系、部品座標系、カメラ座標系などがある。

 

 3)発展性
 種々の直交座標系で、位置姿勢決めや移動命令を出すことができるようになったので、CCDカメラを使って作業対象の位置姿勢を計測して把持するような適応動作が可能になった。また、作業対象部品のCAD(Computer Aided Design)データが利用できれば、ロボットの教示作業を省力できる可能性が出てきた。

GM製NC Painter

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 GMが1980年ごろに内製した7軸の油圧駆動型塗装専用ロボット。Digital Equipment PDP 11/34コンピュータ(16ビット演算)で数値制御されていた。手先にある塗装ガンに塗料を供給する配管がアームの中に組み込まれており、外部に露出しないすっきりとした構造が特徴的であった。
 塗装ガンが曲線軌跡上を滑らかに移動できる軌跡制御や教示をオフラインでする、いわゆるオフラインティーチングなどが採用されており、自動車メーカの理想を追求した先進的なロボットであった。GMが自ら生産用のロボットを製造したことは、NC Painterが最初で最後であったが、GMの産業用ロボット利用への熱心さは世界の生産技術者たちを刺激し、その後、産業用ロボット利用研究が世界的に大いに進展した。しかし、ロボットのような高度な機械を信頼性高く製造し、性能を維持することは困難を極めた。工場の生産設備としてのロボットに要求される信頼性のレベルは短期の開発期間で達成できるレベルのものではない。NC Painter以降、GMはロボット開発と製造を専門ロボットメーカに任せることになる。

写真:2台のNC Painterが塗装ブースの中で、コンベアラインの両側に配置されている。ロボットは車のボデーの移動に追従して移動しながら塗装作業をする。(参照:The Industrial Robot Dec. 1981,Assembly and machine loading will dominate General Motors robotics programme) 

写真:NC painterは6個の回転軸と1個の直線移動軸(コンベアへ追従)を持つ。

 私が産業用ロボットの川崎ユニメート2000に初めて触ったのは1972年(34年前)であった。この時点で、GMなどの米国の自動車メーカは既にユニメートをボデー組み立て用のスポット溶接機として使っていた。トヨタ自動車もボデー組み立て用として使い始めていた。ユニメートは大量に使われた最初の産業用ロボットであった。当時の最先端の電子機械であり、今から見ても大変に興味深い構造を持っていた。コンピュータこそ使われてはいなかったがデジタル電子回路が高度な多軸油圧制御回路を制御していた。現在の産業用ロボットが持つ基本的な機能は既に備わっていた。しかしこの時点で既に、George DevolがPlayback devise for controlling machines using magnetic recordingの特許をとってから28年、George DevolとJoseph Engelberger(Father of Roboticsと呼ばれている)とが最初のProgrammable robot "arm"を設計してから20年経っている。(参考:Timeline of Robotics part2)。新しい概念の機械が世に出るまでいかに長い時間がかかることか、それをやり遂げたユニメートの発明者Engerlbergerに脱帽である。


写真はユニメート2000(5軸)

 「産業用ロボットがやる仕事は人間に近づくが、姿形は逆に遠ざかる」というファナック社長の見解について考察してみよう。よく考えると、この見解は矛盾があるような気がする。「やる仕事が人間に近づくならば、姿形も人間に似てくる」と考えるほうが無理がないと思う。仕事のやり方が人と違うならば、姿形も人とは異なるものになるというのが正しいのではないか?この例としては、電子部品挿入機(マウンター)がある。当初は人手でプリント版の穴にICの足をはめ込んでいたが、それを機械化したものであるが、人より何百倍も早くはめ込むことができるようになった電子部品挿入機の形は人の手とはまったく異なるものだ。仕事の仕方を人のやり方とまったく違うものにしたから、姿形も人とはまったく違うものになっている。取り付ける部品の形状も機械が仕事をしやすいように設計変更されたから高能率な機械化が可能になった。
 自動車や自動車部品は人が組み立てることを前提にして設計されている。それを自動化しようとすると人と同じような姿形をもったロボットがほしくなる。自動車部品の組み立てや自動車の最終組み立ては自動化が遅れており、人がほとんどを組み立てているのが現状である。
 自動車の革新的な設計変更が近い将来に実現できるとは思えないので、しばらくは人間と同じような組み付け方法(たとえば、双腕ロボット)で少しずつ自動化が進むのではないか?しかし、このような方法では、組み立てコストがどうしても高くなって、人間の作業者との競争では勝ち目がないのかもしれない。自動車の設計を革新して、効率のよい組み立て機械が開発されるのが最終的な形ではないか?そのときの受動組み立て機械は人間の姿形と相当異なるものになっていると思われる。
 自動車が電子部品挿入機のような組み立て機械で、低価格、高速で組みつけられるのはいつのことだろうかと考えると、その時期は見当もつかない。一方、そのように組み立てられるようになると、自動車の価格は暴落し、自動車産業はうまみのない産業になるのかもしれない。

 安川電機が発表した双腕ロボットの形態は、トヨタ自動車と安川電機が共同して開発し、自動車製造ラインに数十台導入したといわれる双腕ロボットの形態と異なる。前者は垂直多関節型の単碗アームを回転する胴体に二本装着した形(下図)であるのに対し、

安川電機が発表した双腕ロボット(2005年12月)
安川電機のサイト(http://www.yaskawa.co.jp/newsrelease/2005/15.htm)から引用


後者は回転または水平移動する胴体に上下軸がスライドする水平多関接型単碗アームを二本装着した形(下図)となっている。

トヨタ自動車と安川電機が共同開発した双腕ロボット(2005年1月)
トヨタ自動車の組立工場などで導入が始まっているとのこと
(参照:http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20050106AT1D0508H05012005.html、
 現在は削除されている)


トヨタ自動車工場で数十台が作業する双腕ロボット
(参照:http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1205/kyokai41.htm)

 これからトヨタ自動車が製造ラインに多数導入してゆくとされる双腕アームはどちらの形態になるのだろうか?後者の双腕ロボットの導入経験に基づいて前者の形態に変更されたのか?このあたりの事情は不明である。
 ファナックの稲葉善治社長が日本産業経済新聞(2005年12月9日)で、「産業用ロボットがやる仕事は人間に近づくが、姿形は逆に遠ざかる」と述べているが、上記の双腕ロボットの形態の変化は、これと逆である。製造コストを下げるためにこのような形になったのか?まだまだ、今後変化してゆくのかもしれない。

 産業用ロボットの開発でブレークスルーを作るために、いろいろなアプローチがなされてきた。それがはからずも安川電機とファナックという2大ロボットメーカのフラッグシップとして対立的に発表された。現時点ではどちらの進め方がよいかは判らない。それぞれ長所短所がある。
 双腕ロボットについていえば、長所は「一本のアームでは困難な難組み付け作業がやり易い」ということだろう。2本だけでなく3本以上のアームの協調動作ができれば可能となる組立作業も多いと思われる。一台のロボットが治具を使って組み立てる場合に比べて、治具を簡単化でき生産準備の時間を短縮できる可能性がある。一方、短所は単腕でできる作業も多いので効率が悪いという点がある。双腕型を作らなくても単碗のアームを2台使えば良いという批判もある。
 知能ロボットについては、その定義からはじめなくてはならない。ファナックの定義では「視覚または触覚センサを使って、作業対象の位置形状のばらつきに適応して作業を完遂できるロボット」のようだ。長所は作業の停止が起きにくいことだ。短所は作業速度が遅くなること。
 多腕知能ロボットがあれば、一番よいことになるが、コストが高すぎる。
 当面は作業の特徴にあわせて、これらのロボットを使い分けることになるのではないか。安川電機は双腕ロボットを作業の高速性が要求される自動車の組み付け作業に使おうとしているし、ファナックは知能ロボットを作業が比較的低速でよい部分(バリトリ作業、ワークの取り付け取り外しなど)で使っている。 
 技術的に難しいのは知能ロボットであろう。物体認識、接触の制御など20年以上にわたる長い研究の歴史があるにもかかわらず、いまだに実用例は少ない。ファナックが実用のラインで導入に成功したことは画期的というべきであろう。敬意を表したい。

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