産業用ロボットの最近のブログ記事


 Universal Robots社のURロボットは世界で最も売れている協働型ロボットである。人気のポイントは従来型の産業用ロボットと異なり、人と接触しても安全性が高いために、ロボットを安全柵の中に入れなくても使えることである。

 URロボットは、前回解説したRethink Robotics社のSawyerロボットのように、アームを手で軽く動かすことはむつかしそうだが、大まかには動かせるので、残りの細かい位置・姿勢の設定だけをTeaching Pendantでやればよい。

 今回のテーマはUR ロボットのアカデミーのWebサイトで学ぶことができる。
 
 独特なロボット言語体系を持つが、命令言語を直接打ち込むのではない。ノートパッド型のティーチングペンダントで命令ボタンなどを選択しながら、アームを動かして設定したい位置姿勢などを記憶させ、プログラムを完成させる。文字入力にはウェート時間や負荷質量などがある。UR社ではストレートフォワードなプログラミング方法だと宣伝している。理解しやすいと思う。

 プログラミングは下図1のようなempty(空の)プログラムから始まる。   

              図1teaching2-1.jpg

 次に、Moveボタンを押すと、Move命令と仮の移動目標位置がWaypointとして表示される(図2)。WaypointがMove命令と同行ではなく、一段下にインデントされて配置されのが特徴である。ロボットアームを手で動かすか、またはティーチングペンダントを使って最初のWaypointまで動かしてOKボタンを押すと、仮のWaypointが実際のWaypoint_1に変更される。同じMove命令(Movej,Movel,Movep,Movec)が続く場合は、Move命令は省略してWaypoint(Waypoint_1,Waypoint_2,...)だけが並ぶのが特徴である(図3)。

             図2

panel2_2.jpg

 同様にして、最後の点までを記憶させてゆく(図3)。

             図3


UR_Robot_Panel_2_5.jpg

 次に、Waypoint_2で品物を把持させたければ、Waypoint_2に移動した後にハンドを閉じる命令

  Set TO[0]=On

 を設定して、ハンドを閉じ品物を掴む。把持すればハンドに品物の質量が負荷されるので、Set命令の設定テーブルの中で

   Set the total payload to 1.6 kg

 として指定し、負荷質重を外力(外乱)と間違えないようにする(図4)。

             図4

panel3.jpg

 次に、ハンドが品物を掴むまでにかかる時間を Wait命令で

   Wait 1.0 second 

として、Waypoint_2で確実に品物を把持してから、MoveLでWaypoint_3(図5)へ移動するようにする。

             図5

teaching6.jpg

 

 

 協働ロボットの多くは、人がzero gravity状態のロボットアームを手で案内してアームに取り付けたツール(ハンド)の位置姿勢や動作などを教示する(Teach by demonstration)。触れるという特徴を生かしている。触れられないロボットでは使えない方法である。 少々、教示位置がずれてもアームがコンプライアントなので相手に倣って位置決めできる。これだけで従来の位置制御型ロボットよりも大幅にティーチングが簡単になった。また、アームが人に衝突しても安全が確保されるので、安全柵の必要がなくなり、設置スペースが少なくて済む。結果的に、ロボット導入費用も下がる。


 一方、位置姿勢だけでなく手先に発生させる任意方向への力やトルク、剛性(コンプライアンス)なども制御するので、プログラミングが困難になりやすい。例えば、ワークを持つとワークの重量とロボットへの外力とがロボットには区別がつかない。また、アームがコンプライアントのためアーム位置がずれる。これらを防ぐためにワークの把持と解放に合わせて、アームに負荷荷重を教えてやらなくてはならない。
 Rethink Robotics社の協働ロボットSawyerは全ての関節にトルクセンサを内蔵し、二次元視覚センサを手先に内蔵する7関節のロボットである。
 Sawyerのユニークな教示システムIntera5について以下で紹介しよう。詳しくは[Rethink Robotics Training Intera Basics Course 1]のビデオトレーニングをWebで参照してほしい。
 SawyerロボットのIntera 5の教示システム
 Intera5は基本的には、下図に示すように、機能を示すアイコンをツリー状に並べて作業プログラムを構成する。産業用ロボットの使われ方は殆どがシーケンス作業であるので、このシーケンスツリー表現方式が合理的ではある。各アイコンの機能を表1、表2に示した。アイコンツリー上での実行の順序は左から右へ、上から下への順で行われる。ロボットの現在の位置姿勢や動きは、シーケンスツリーの右側のCAD画像で表示される(実ロボットの動きが同時に表示される)。
 図1はpick & placeのプログラム例である。pick & place程度のプログラムであれば、アームをzero gravity制御(フローティング)にしてアームを手で動かしてpick & placeをさせるだけで、プログラムツリーが自動的に生成される(Rethink Robotics社のビデオ参照のこと.)。後でのプログラム修正は、搬送部品の質量設定くらいか?
 ツリー上のいずれかのアイコンをダブルクリックすると、そのアイコンの設定条件が表示される。アイコンの名前や設定条件の変更や、新しいアイコンの追加や削除も、アーム上のスイッチやダイヤルか、またはパソコンから容易にできる(Actionボタン群やServiceボタン群から適当なアイコンをツリーの必要場所にdrag & doropする)。実行中のアイコンは緑色に変わるので、シーケンスを目で追いやすく、デバッグがやりやすい。編集中のアイコンは茶色で表示される。
               図1
intera5-pick&place2.jpg
                 表1
Intera5_Actionand Logic.jpg
                 表2
Intera5_Service and Error.jpg
               図2
 テーブルに置かれた部品をカメラで見て掴み、所定の場所に搬送するプログラム。図1のPick sequenceアイコンの後にカメラを位置決めするMove Toアイコンとビジョンで計測するVision sequenceアイコンを追加するだけでよいので、簡単である。
Intera5_Viz.pick.jpg
              図3
  メモリ部品を掴んで電子基板に組み付ける作業。メモリ部品を運んで組み付け位置に接触させて、更に一定の力で押し付けて組みつける作業。
 ピッキングのシーケンスは簡単化のために非表示(+印=省略)になっている。Place sequenceアイコン の次にContactポイントへのAproachとPlaceアイコンに続いてContact mode への切り替えアイコン、Contact検出のアイコンやWaitのアイコンが追加されている。
Intera_force.application.jpg
細かい作業の設定がすべて明示されるので、慣れれば解りやすいかもしれない。
 
 

 ドイツのスタートアップ企業のKBee社が7軸の協働ロボットを発表した。特徴はKUKA社の7軸協働ロボットiiWaに似ているが、価格が120万円と安く、iiWaの約1/8であることだ。iiWaは特に価格が高かったので、FRANKA EMIKAの低価格は驚きである。

640_FRANKA_EMIKA-495x400.jpg

  どのようにして低価格化したのか? 一つには、iiWaを参考にしているため開発費が安く済んだことが大きいだろう。FRANKA EMIKAはiiWaの原型であるLWR(Light Weight Robot)を開発したDLR(German Aerospace Center)の出身のメンバーが創業した会社である。

 二つには各ジョイントがモジュール化(モータ、減速機、エンコーダ、トルクセンサが一体化)され、組み立ての80%がロボットでできるようにしたこと。

 今一つは、インクレメンタルエンコーダを使っているのではないか? ビデオの中で、ゼロイングのような動作が見られる。Universal Robots社も最初はインクレメンタルエンコーダで発売し、後にアブソリュートエンコーダに変更した例もある。 その他、動作指示はすべてノートパソコンから行い、ティーチング・ペンダントを使わないことで価格を下げている。

Franka EmikaとKUKA iiWaとの性能比較

 

単位

FRANKA EMIKA

KUKA iiWa

ロボット質量

kg

15.8

22

可搬質量

kg

3

7

自由度

軸数

7

7

リーチ

mm

800

800

位置再現精度

±mm

0.1

0.1

最高速度

m/sec

2.5

      1

 
動作のビデオを見る限り、スムースで精度の高い動きをしている。ただ、協働ロボットの問題点として、「加減速度が小さい」ことはどうしてもある。これは作業速度を遅くするが、安全性とのトレードオフで、やむを得ない。

ユニークな プログラミング方法
 最大の特徴は、スマートフォン世代に使いやすそうな、「アプリケーション(単位作業)を表すアイコンを並べて仕事をプログラム(構成)する」やりかたであろう。下図に於いて、アプリケーションのアイコン群が画面下にまとめられていて、作業構成に必要なアプリケーションのアイコンを指でドラッグして上部のプログラムライン上にドロップする(ビデオ1参照)。作業の意図が一目瞭然なので作りやすく、かつ理解しやすいと思われる。アプリケーションはクラウドに蓄積されていて、ダウンロードして使う。
 
FRANKA-DESK_swoosh1.jpg
 アプリケーションのアイコンを並べ終わったら、今度はロボットアームを手で案内しながら、一連の作業を実際にやって見せる(demonstrate)。 この時、必要ならば個々の作業を代表するアプリケーションのアイコンを開いて、詳細を設定してゆく(一連の作業の説明サイトビデオ1ビデオ2も参照)。これですべてのティーチング作業が終了するとのことである(追記2018.07.09参照)。確かに直感的で、ティーチングしやすいと思われる。
 一つのアプリケーションのアイコンがどのくらいの作業を含んでいるかを観られるビデオがあったので、ここに参照しておく。一つのアプリケーションのアイコンから数ステップの動作が作られている。アプリケーションは位置データなどが入っていないプログラムであり、demonstrationまたはtrainのフェーズで実データを入れてゆく
 開発者が主張している「従来のロボットには無かった新しい機能」として、別のプログラムで作られたアプリケーションが新しいプログラムで使える点である。このようなアプリはクラウドからダウンロードして使う。
 ロボットのiPhone化を目指しているとのこと。
 人との協働を実現するために、ロボットには何が求められるのか。「理想的なロボットは、『iPhone』のように誰もが直感的に使えて、誰もがプログラミングできるもの」――。そう語るのは、開発関係者のドイツのハノーバー大学自動制御研究所所長であるSami Haddadin氏だ。
 これからのロボット・プログラミングで、代表的な一つモデルになると思われる。具体的には次回に、ユニバーサルロボット社やRethink Robotics社の同様な試みと比較して考察する。

 追記2018.07.09
 Franka Emikaの動作のプログラミング方法はユニークで2017年度のGerman Innovation Awardを受賞している。受賞内容の記述の中から自己学習型(Learn by watching)プログラミングに関する説明を下記に引用(英文)する。
 The system is extremely easy to operate and requires no previous programming knowledge since the robots learn by 'watching'. One only need demonstrate the activities the robot is to perform. The machine learns the activity and can also use the acquired knowledge for other challenges -- a skill conventional industrial robots do not have. To make programming as simple as possible, the nominees have also developed an innovative programming and operating concept. With it, tasks and sequences of motion can be broken down visually into small program modules, so-called robot apps. They make using robots as easy as using a smart phone -- and opens up a wide range of new potential applications from which even small and medium-sized businesses stand to profit.

位置制御を主体とする従来型の産業用ロボットは、人が作業環境を整え、ロボットの軌跡を厳密に教えることで作業をすることができた(カメラによる位置補正を含める)。このようなやり方でも現実の電気機器や自動車部品などの組み付けラインの中で、世界でも数万台以上のロボットが仕事をしている。

 一方、人手でないとできない作業を含む生産ラインまたはセルの自動化がまだ残っている。そこでは作業員とロボットが協調して仕事をすることになる。この場合にはロボットの隣りで人が作業できるように、安全なロボット(万が一、人と接触しても人を傷つけない)が必要となる。

 このようなロボットはすでにいろいろ製品化されてきており、当ブログでも紹介してきた。しかし、安全なロボットアームのハードウェアは、ほぼ開発が終了したと思われるに対して、ロボットが機能を発揮する具体的なソフトウェアに関しては、開発はこれからという段階と思われる。

 ロボットのソフトウェアといっても、ロボットアームを動かしたり、視覚認識をするミドルウェアの開発研究は進んでおり、これらがOpen sourceで提供されるROS(Robot Operating System、Open Source Robotics Fundationが管理する)が有名である。 ライブラリは、移動、視覚認識、音声認識、通信、ツール類、その他も含めると、その数は数千にも達していると言われる。

 開発がこれからという意味は、従来のロボット(アーム、視覚、触覚など)を使ってする作業が比較的単純なものに限られているということである。

 例えば、AmazonがAmazon Picking Challengeで2015年から開始した、「棚から目的とする品物を選び、取り出して、箱に収める」などの仕事(下の写真参照)では、品物ごとに変わるPicking作業をセンサ情報を参照して自動生成している。ChallengeではROSの上などに適応的なソフトウェアを試作し作業能力を競っているが、最優秀賞を受賞したチームの場合でさえ、作業速度が極端に遅く、まったく実用にならないというのが現状である(ENGADGET,Amazon crowns winner of first warehouse robot challengeを参照)。

amazon-picking-winner-jt[1].jpg

 しかし、遅いとはいえ、不定形な重なり合った品物を視覚で認識して、一つ一つピッキングできており、ソフトウェア技術が少しづつ進歩していると想像される。

 トヨタ自動車が2016年1月にシリコンバレーにロボット関連の研究会社(Toyota Research Institute Inc. 2020年までに1200億円を投入)をつくった。
 ・事故を起こさない車(完全自動運転車とは限らない)
 ・幅広い(年齢、その他)層の人々が運転できる車
 ・モビリティ技術を使った屋内用のロボット
 ・人工知能を使って科学的、原理的な技術の研究
が主な研究テーマだ。(TOYOTA Global Newsroom,Jan.05.2016を参照)
 筆者としては、屋内用ロボットの開発に大いに期待している。

 一方、Googleも
 ・自動運転車
 ・ロボット
 ・その他
 などの開発を掲げている。
 
 両社はともにシリコンバレーの会社であり、開発テーマの分野も重なって、良い意味で開発競争を始めることになるだろう。大いに開発競争を繰り広げてもらいたいものだ。

 Googleでは、自動運転車は未解決の問題を多く包含しつつも、完全自動運転車を目指して開発が続行されているようだ。
 しかし、ロボット開発の内容は、リーダの3度にわたる辞任、退社により不明確だ。ロボットグループのリーダには絶対なりたくないという社員が多いといううわさもある。IT Media News(2016.01.18)によると、米New York Timesからの記事として、最新のリーダはノキア出身のハンス・ピータ・ブロンドモ氏だということである。プロジェクトのリーダとしての経験が豊富な人物らしい。

 初代のリーダであったルービン氏が買収した会社は8社にわたる。

2013年12月02日 SCHAFT Inc.(日) 東京大学発のベンチャー 、アンドロイドの開発
12月03日 Industrial Perception(米) 産業用のロボットアームの開発
12月04日 Redwood Robotics(米) 産業用のロボットアームの開発
12月05日 Meka Robotics(米) ヒューマノイドロボットの開発
12月06日 Holomni(米) ロボットの無指向性(全方向)車輪の開発
12月07日 Bot & Dolly(米) ロボットカメラの開発
12月10日 Boston Dynamics(米) 4足歩行ロボット(BigDogなど)の開発
2014年01月26日 DeepMind Technologies(英) 人工知能開発

 GoogleのCEOであるラリー・ページ氏がロボット開発に意欲的なため、何度も新たなリーダを任命して、研究開発を進めようとしている。買収した企業の商品を見ると、開発テーマはルービン氏がGoogle在籍時にロボットチームの目標として提案したように、2020年までに「フィジカルな世界と交流できるコンシューマ商品」の先駆けを作るというものに尽きるのではないか?新リーダの手腕に期待したい。

 以前から、Gooleが産業用ロボットを開発するといううわさはあり、また一方では、退社したルービン氏がFoxconnと個別に産業用ロボットの開発を進めているのではないか?といううわさもある。

 ここでのキーワードは多量生産にたけたFoxconnである。Googleが買収したのは企業の商品ではなく、人材だと思うべきだ。多彩な発想豊かな人材を一つの製品テーマに収斂させて、2020年までに世界を変えるロボットを作ろうとしているのだと思う。まず手始めにFoxconnと産業ロボットを開発し、次にコンシューマロボット用ロボットを狙うのではないか?それとも、ルービン氏が産業用ロボットを、Googleがコンシューマ向けロボットをそれぞれ開発するのか?

 DBJ(日本政策投資銀行)の今月のトピックスNo.238-1(2015年8月21日)の内容(PDFファイル)がWebに載っていた。その中に下の左側の写真(2015ハノーバメッセ)が掲載されていた。ボッシュの工場で働く協調型のロボットで台座が可動式になっている。ロボットを必要な時に、必要な場所に移動し、安全柵なしで設置できる。同じロボットの写真が2015年12月30日の朝日新聞朝刊の経済欄にも載っており、"ロボットのセンサが横の働き手の動きを感知しながら共同作業をする。人とのスピードが落ちればロボットもそれに合わせる。"との説明がしてあった。

ボッシュ工場.jpg

iiwa-thumb-302x251-285[1].png

 

 このロボットは、ドイツの航空宇宙研究所とKUKAが10年以上をかけて開発を続けてきて、現在でもIndustry4.0の看板ロボットとしてよく引用される、人と協調できるロボットiiwa(Light Weight Robot、右の写真)ではない。初めて見るロボットである。

 以前にこのブログ(2015年7月25日)でも紹介したように、iiwaは高性能ではあるが高価(約1000万円)すぎる。そのため、上図左に示す低価格な協調ロボットを新たに開発をしたのではないか?
 ファナックがやったように、同サイズの位置制御型ロボットを改造して、各ジョイントにトルクセンサを装着させ、腕をソフトなカバーで覆っているようだ。

 iiwaが今後どのように使われてゆくか?興味深い。その高性能さを生かして、特別な用途向けに利用してゆくか、あるいは、設計を見直して低価格化するか?

 先日の2015国際ロボット展で、デンソーウェーブが小型の双腕co-robotを出展していた。この分野での先輩ロボットであるABB社の小型双腕ロボットYuMiも展示されていた。今回さらにGoogleがFoxconn(iPhoneなどを製造している台湾のEMS)と共同で開発するロボットのプロトタイプになるか?と紹介されたSRI製の小型双腕ロボットが分かったのでここで引用したい。Googleは以前、Google Glass(眼鏡につける表示用のインターフェース?、人気が出ずに発売中止となった)を販売しようとしていたが、この生産は中国ではなく米国で行おうとしていた。米国で生産するためには、生産の自動化が必須であり、そのために小型のロボットが必要になる。

Google.corobot.jpg


米国SRI(いろいろなシステムのスタートアップを行う研究機関)が遠隔手術用に研究している小型双腕ロボットアーム(引用;Siliconbeat Feb 11,2014 "Google and Foxconn's plan for robotic domination should come as no surprize")。GoogleがFoxconnと共同で開発する生産用のロボットのモデルになるか?

双腕cobotta.jpg

デンソーウェーブの小型双腕ロボットCobotta(co-robot、片腕6軸、リーチは約600mm? 参照;Response.15th 自動車 2015.11.27)




YuMi.jpg


ABB社の小型双腕ロボットYuMi(co-robot、片腕7軸、リーチは約600mm? 参照;http://new.abb.com/products/robotics/yumi


 上記の3つのロボットとも、電子機器などの精密小物組み付けを視野に入れている。この分野はアジアだけとっても1000万人の工場作業員の手作業に依存している。クカ社のティル・ロイター氏は、同業界には2020年までに50万台のロボットが必要になると予測している(RoboNews2015/02/15から品用)。果たして双腕型小型ロボットが電子機器などの小物精密組み立てに合目的なのか、は今後のフィールドテストに待たねばならない。

 12月2~5日に東京ビッグサイトで2015国際ロボット展示会が開催された。最終日(5日、土曜日)にでかけて、産業用ロボットから、サービスロボットの現状を広く見ることができた。

 1.関心があったのは、

 1)人と協働動作できるロボットco-robot(海外製)
  ABB社のYuMi、KUKA社のiiwaシリーズ、Rethink Robotics社のSawyer、Universal Robots社のURシリーズなど

 2)人と協働動作できるロボットco-robot(国内製)
   デンソーウェーブ(Cobotta)、カワダロボティックス(Nextage)、ファナック(CRシリーズ(4,7kg))、安川電機(HC-10)、川崎重工(DUARO)など

 3)ビンピッキング(ファナックをはじめ複数社)、オフラインシミュレータ(ロボットメーカ、他数社)、ORiN(デンソーウェーブ、ORiN協議会)などのソフトウェア

 4)災害対応ヒューマノイドロボットの実演
産業技術総合研究所(HRP-2改)、東京大学(Jaxson)、千葉工業大学など(HYDRA)

 5)サービスロボット、その他
トヨタ自動車(HSR)、パナソニック(HOSPI)



 2.それぞれのロボット詳細について
   各ロボットに関しては、過去にもWeb上に動画や写真で説明があったので、このWebサイト(ロボットあれこれ)でも今までいろいろ取り上げてきた。それぞれの動きについては予測はしていたが、今回、実際に触ってみたものについて予測との一致度合などを補足説明する。

 1)co-robot(海外製)のダイレクトティーチング特性など

 (1)ABB社のYuMi
 想像していた通り、ダイレクトティーチングでは、腕は軽くスムースに動かせた。腕を押すのをやめると、ブレーキストップのような感覚で急に止まるのが特徴。ロボットの姿勢から各軸にかかる自重による負荷トルクを計算して、バランスをとっているようだ。アームにはマグネシウム合金が使われており、軽量化に重点が置かれた設計になっている。

(2)KUKA社のiiwa
手で押す操作に非常に滑らかに反応して動く。始動から停止まで、サーボでバランスを制御している(コンプライアンス制御)。押すのをやめると、YuMiのように急に止まるのではなく、スピードが次第に落ちて止まる。アームにはカーボンファイバーが使われており、軽量化を重視した設計になっている。

 (3)Rethink Robotics社のSawyer
   KUKAのiiwaに近いが、滑らかさでは劣る。ばねが各軸に入っているためか、押すとまずばねが縮んでからサーボが動き出すので、少しぎくしゃくした始動になりやすい。停止はスムースに止まる。 

 (4)Universal Robot社のUR5型
   予想通り、ダイレクトティーチングには海外製の4種のロボットの中では一番力が必要である。これではきめ細かいティーチングをすることは、ほとんど不可能ではないか? 2015年には日本で約100台のUR型が売れたとのこと。販売先は中小企業かと思ったら、日本の場合、大企業が多いとのことで、予想外だった。



 2)co-robot(国内製)のダイレクトティーチング特性など

 (1)デンソーウェーブ Cobotta
 直接アームに触れる機会がなかった。今回初めて一般公開された。アームの大きさから類推するとダイレクトティーチングの操作性はYuMiと同レベルではないか?YuMiは7軸であるがCobottaは6軸の点が異なる。YuMiと似た双腕型も展示されていた。双腕型は腰部に回転と曲げの自由度がある点がYuMiとは異なる。Cobottaの写真とビデオを参照しておく。Cobottaはまだ開発の途中らしく、サーボに細かい振動が乗っていた。

 オープンプラットフォームを採用している点が特徴で、誰もがロボットアプリケーションを開発できるとのことである。デモでは音楽に同期してロボットアームがダンスをしていたが、このようなアプリケーションを書ける点が、従来の産業用ロボットにはなかった特徴となっている。ROSのミドルウェアなども使えるようになるのだろう。ユーザから新しいアプリケーションが発明されてくる可能性も十分に期待できる。ロボット機能が新しい展開を始めるかもしれない。面白い試みと思った。川崎重工も同社の7軸ロボット(MS005N)の制御インターフェース(オープンAS)を公開し、MUJINのPick Worksをインストールしてビンピッキングのデモをしていた。同様の試みである。注目してゆきたい。

コボッタ単腕・双腕.jpg

Response.15 (自動車) (11月21日ホームページから引用)








 (2)川田工業 Nextage
   直接アームに触れる機会がなかった。7軸すべてが80w以下のco-robotである。思ったより小さい印象だった。2014年6月現在で150台以上が売れているとのこと(web週刊ダイヤモンド2014年6月14日号)。

Nextage.jpg















 (3)ファナック CRシリーズ
   小型協働ロボットとして、今回の見本市で初めて公開された。全軸トルクセンサを装備し、ジョイントトルク制御を行っている。スムースに反応ができる。アームはソフトカバーでおおわれており、衝突時の衝撃を和らげている。可搬加重4kg(CR-4iA),7kg(CR-7iA、CR-7iA/L)の計3種類がある。構造はiiwaのように軽量化されておらず、従来型と同じ設計(リーチ550、911mm、自重20kg,27kg))のようである。

ファナック小型協調ロボット.jpg


日刊工業新聞 ニュース/ロボット〈2015.12.02から引用)












(4)安川電機 Motoman HC-10
全軸トルクセンサを装備し、ジョイントトルク制御を行っている。スムースに反応ができる。構造はiiwaのように軽量化されておらず、従来型と同じ設計のようだ。

安川電機青色ロボットのコピー.jpg

W.マイナビニュース(2015.11.30から引用)














(5)川崎重工 DUARO
  直接アームに触れる機会がなかった。スカラ型双腕ロボット。



3.ソフトウェア関連について

  1)ビンピッキングビジョンのデモが数多く見られた。

  研究の歴史は古いが、ビン状態の部品を識別する技術が相当高まっていることが分かった。ファナックとPFNがファナックのブースで、(株)3次元メディアの3次元ロボットビジョンシステムが安川、川重、三菱、MUJINのブースで、キャノンのマシンビジョンシステムが川重、安川、デンソーウェーブのブースで、それぞれデモを行っていた。

  キャノンと3次元メディアのビジョンシステムは「パターン投影による3次元距離画像計測と濃淡画像解析を併用した方法で、部品のCADデータを必要とする。異なるビン状態の対象物を5パターン見せることで準備が完了」する。 キャノンの例では認識時間は2.5秒程(下図、ビジョンシステムの処理)とのことである。

キャノンビジョン処理のコピー.jpg

  一方、PFN(Preferred Networks社)の方法は、現在注目が高まっているディープラーニング使っている。この方法はCADデータなどを必要としない。「実際にロボットで部品を取らせてみて失敗と成功の画像例をそれぞれニューラルネットワークに学習させてゆく。5000回の学習の後では、ピッキングの成功率は90%程度」になる。認識に要する時間はキャノンの例と同程度と思われる。ただし、この方法の問題点は、学習に要する時間が数時間~数十時間と長い点である。まだ研究途上で実用までにはまだまだ時間を要すると思われる。

2)オフラインティーチングシステム

  現在では、ロボットメーカーはティーチング時間を短縮するために、オフラインティーチングシステム(3次元ソリッドモデル)を用意している。しかし多くは、画面上でウェイポイント(waypoint)を指示する必要がある。

  一方、(株)MUJINのティーチングシステム"Pick Worker"はウェイポイントを自動発生し、ロボットの特異点や障害物回避ができる軌跡発生を自動でおこなう。ビン状態の部品箱の位置と部品整列箱の位置を教えるだけで、3次元画像処理システムからの信号を受けて部品をピックし、整列箱の整列することができる。このように、ロボットの知能化が進むにつれて、特定の作業全体をアプリケーションとして販売できるようになる。"Pick Worker"だけでなく、いろいろの作業がアプリとして販売され、ロボットがスマホのように簡単に機能追加できるようになってゆくのだろう。


3)ORiNの利用状況について

   ロボット向けのシステム構築支援ソフトウェアであるORiNがどのように利用されているか興味があったので気に留めながら見学した。その結果、表に出してPRしていたのは、メーカーとしてはデンソーウェーブのブースだけであった。その他にORiN協議会が1ブースを使ってPR活動をしていた。これから見ると、ORiNはまだ、他のロボットメーカには広く使われているとは言い難いようだ。広まらないのはロボットメーカが十分にその価値を認識していないからであろう。ORiNが従来方法に対して圧倒的にシステムの準備時間を短縮できることを、いろいろな具体例で示すことができれば、ユーザは競って使うはずである。

 産業用ロボットのもう一つの進化のベクトルである、"ソフトウェアの進化"について触れよう。
 一般に産業用ロボットは単体では仕事はできず、例えば組み立て作業では部品供給装置、部品固定治具、部品排出装置、ハンドツールなどを動かすアクチュエータ類、スイッチ類、センサ類、PLCなどのFA機器が必要になる。ロボットとこれら機器が協調して初めて仕事ができる。
 ここで必要になるのは、ロボットやFA機器をネットワークで繋いで、必要なアプリケーションを実行してくれる統合システムであり、アプリケーションはパソコンの中に用意する。
 ここで、アプリケーションとは、例えばロボットやFA機器への動作指令、生産管理、工程管理、稼働監視、不具合解析・回復などのプログラムである。
 ロボットセルやラインなどを立ち上げる際には、下図の左のようにいろいろなアプリケーションに必要なFA機器との通信ソフトウェアを書く必要があるが、それぞれの機器の通信仕様がメーカなどによってまちまちで、従来はこれらの通信ソフトウェアを用意するのが負担でり、エラーの原因となることが多かった。そこで、これを下図の右のように統一するために、ロボットミドルウェアが日本ロボット工業会によって検討、開発されてきた。

 ミドルウェアの役割は、ロボット、センサー、PLCなどのFA機器に対して、機器のメーカや機種によらず統一的なアクセス手段とデータ表現方法を、パソコンのアプリケーションソフトに提供する通信インターフェースである。
 約15年ほど前から、このようなロボットシステムの統一的なインターフェースORiN(Open Robot/Resource interface for the Network)がミドルウェアとして検討、開発されていることは、当Webサイトでも2006年6月23日に記載してある。ここ15年ほどの間に仕様検討やインプリメンテーションが行われ、さらに実ラインでの検証・改良が行われてきた。その結果、2011年12月にはISO規格として登録された。



ORiN.png
         ORiN協議会のORiNのWebサイトから引用


 現在は、デンソーウェーブ社のロボットコントローラRC-8に同梱されて発売(2011年)され、いろいろな用途で利用されている。生産工場以外の場所でも多岐に利用されている(注1)。いろいろなモジュールソフトウェア(生産管理などの汎用アプリケーション・ソフトウェア、個々の機器接続のためのプロバイダー・ソフトウェア)の開発、登録が進み、利用可能になったことから、これらの使い廻し(再利用)により、現場スタッフの作業工数が従来の自動化に対して大幅に低下した(下図)。ORiNによってソフトウェアの蓄積、再利用ができるようになったことは、産業用ロボットの進化の中でも大きな事件と言えるのではないか。

 代表的なロボット利用の製造ライン(注2)では、アプリケーション5種類、ネットワーク5種類、ロボット54台、PC9台、PLC69台、操作盤22台、状態量のサンプリングアイテムが7500ほどにもなり、ORiNのようなロボットソフトウェアシステムの開発によって、はじめて安定した運用が可能になったとのことである。ORiNはオープンソースであるから、今後も多くの利用者が(スマホのアプリのように)有用なアプリケーションソフトウェアやプロバイダソフトウェアを追加することで、ロボットの能力がどんどん増してゆくことが期待できる。

 (注1)ORiNを基盤とするスマートサイバー治療室の開発(東京女子医科大学 岡本 淳 氏)


(注2)デンソーにおけるORiN活用例(2003年7月31日、ORiNミーティング2003 )


ORiN効果.png       デンソーテクニカルレビュー Vol.10 No.1 2005 から引用


 ORiN2は2014年現在で1500ライセンス、9000システムが出荷されている。 最近、注目されているIoT(Internet of Things)にも容易に適用できるシステムとして、今後の展開に期待が持てる。

 

 今までこのブログで、ここ数年の産業用ロボット進化として注目してきたのは、いわゆるco-robotと言われる"人と共存できる産業用ロボット"の出現であった。今まで、ロボット化が進んでいなかったSME(Small and Mediam sized manufacturing)用のロボットとして、広く導入が進んでゆくだろう。

 実際に工場で使われている例を見てみると、Universal RobotのURシリーズも、Rethink RoboticsのSawyerも、NC工作機械へのマシンテンディング、二つのコンベア間の部品の搬送、パッケージングなど、単一のロボットでの作業がほとんどで、人一人に代わって狭いスペースで仕事をしている。複数台で協調して組み立て作業をしている例はWeb上では発表されていない。KUKA社のiiwaもそのような例は発表されていない。高加減速度や高位置精度(±0.02mm)が要求される組み立て作業のへの応用は、UR5やSawyerやiiwaのようなロボットには向かないようだ。

 可搬重量が500gと小さいが、YuMiは実用的な加減速度と精度(±0.02mm)を持っている。人と共存するロボットを標榜するなら、YuMiの制御方式などをもっと研究する必要がある。

 YuMiの例を見れば、現状の産業用の小型多関節ロボットのような可搬重量が数kgでも、数m/secの高速、高加減速度、高精度(±0.02~0.03mm)で、かつ低価格なco-robotは実現できるのではないか?まだまだ、研究の余地があると思われる。

 Rethink Robotics社の単腕7軸、co-robotのSawyerが、フィールドテストをおえて、最近発売になった。同社の双腕co-robotのBaxterとは異なり、減速機にハーモニックドライブを使い、位置や速度の精度が上がったようだ。位置の再現精度が0.1mmという記事もある。価格は$29,000で双腕のBaxterの$25,000より高い。単なる品物の搬送ではなく、Machine tendingなどの作業用のロボットとして売り出した。7軸だから、狭い場所でも器用に障害物をよけて作業ができている。安全で使いやすいco-robotとして、中小企業の生産工場で、現状の生産設備を大きく動かすことなく設置できる利点を発揮して、人気を得ることができるだろう。競争相手はユニUniversal Robot UR5($28,000)であろう。

 ただし、電子機器や電気機械(スマートフォン、カメラなど)のような0.1mm以下の位置精度で、高加減速度での位置決めを必要とするような組み立て作業への適用は、構造上難しいだろう。位置決めに時間がかかりそうである。手先に設置したカメラで位置補正するにしても、補正のための時間が許容の範囲内には収まらないだろう。

 Sawyerに期待したいのは、人工知能をどのように使ってロボットの使用範囲を広げるか、という点である。Rethink Robotics社のCTOであるBrooksはBaxterやSawyerのOSにROSを使ったAcademic版を作って、ロボットのインテリジェンスの研究をさせている。ROS上に蓄積された数多くのアプリケーションソフトウェア財産を巧みに使って、従来の産業用ロボットにはなかった新しい機能を見せてくれることを期待している。


 

 驚いたことに、Googleのロボット・チームのリーダであり、さらにFoxconnとGoogleの共同開発の推進者の、肝心のRubin氏が、2014年10月にGoogleを辞めてしまった。シリコンバレーであたらしい仕事(ハードウェアの開発も含む)を立ち上げるインキュベーターの役割をしたいらしい。

 Googleのロボットチームの次のリーダはカーネギーメロン大学のKuffner教授で、ロボット運動学の分野での専門家であり、Googleのロボットプロジェクトは問題ないと思われる。(追記、注1参照)

 そこで、Foxconnとの共同開発の仕事は、Rubin氏が新しくインキュベータとしての仕事としてやるようだ(出典:The Wall Streat Journal 2015 ,April 6 "Android Creator Andy Rubin Launching Playground Global")。

 Foxconn以外にもGoogleやHP(ヒューレット・パッカード)その他の会社も新しい組織への出資者となる。

 これは、私(このWebページの編集者)の意見になるが、Rubin氏は新しい仕事「賢く安全なロボットの開発」を機動力ある小さな組織で、クラウドなどの技術を取り入れて、ロボットオペレーティングシステム(ROS)、ロボットハードウェアも含めて速く立ち上げたいのだと思う。バックには、このような産業用ロボットの必要に迫られているFoxconnという巨大ユーザがいる。完成品はFoxconnが大量に使う(30万台のオーダ)し、成功すればユーザはFoxconnに限らない。HPはグローバルに製品を販売することになる(Rubin氏の言葉)。

 技術者のRubin氏は21世紀でまたとない技術開発のチャンスに取り組めると考えているのだと思う。

 注1:2016.01 Kuffner氏はその後、2016年1月にシリコンバレーに設立された"トヨタリサーチインスティテュートInc."に転籍してしまった。代わりにノキア出身のハンス・ピータ・ブロンドモ氏がロボット部門のリーダとして雇われた。

 注2:2017.06.13 アンディ・ルービンの野心はロボットでなく、次世代スマホであった。Essential Products会社を立ち上げて 、オープンプラットフォームの開発と配布を通して、これからオンラインに繋がろうとしている数十億台の電話、時計、電球、オーヴントースターを動かそうとしている。

 Foxconnはここ数年、内製のロボットであるFoxbots 10,000台をiPhone6sの生産ラインに投入しようと努力してきたが、単純な繰り返し作業はできても、少し難度の高い作業が出来ずに自動化が進まず困っている。

 そこで、2014年4月の時点で、FoxconnのCEOのGou氏はTaipi(台湾)で、Googleのロボット関連プロジェクトを率いるAndy Rubin氏(Android OSの育ての親)と「賢く安全な産業用ロボット開発」で共同することで話し合い、合意したようだ(出典;International Buisiness Times,February 11,2014 "Google Robots Could Automate Manufacturing At Foxconn, Andy Rubin In Talks")。

 Gou氏は工場の自動化レベルを高めることで、EMSの中でも雇用者一人当たりの売り上げが最も低い状態を変えたいと期待していた。また、Gou氏は自分の会社を自動車や医療産業のように、利潤の大きい産業に変えてゆきたいと思っている。

 Rubin氏はGoogleで多分野にわたるロボット関係の会社を吸収していたが、最初に実用化する分野として、スマートフォンの組み立てのような産業分野を選び、スマートフォン用OS(Andoroid)を開発して成功したように、ロボット用のOSを開発して、ロボット分野でリーダシップを握りたいと考えていた。

 これに対して、Gou氏は自分の会社の生産ラインを、Googleが開発するロボットの最適な試験場として使うことが出来ると述べた。工場労働者をロボットに置き換えることは、これからの技術業界の中でも大きなことであり、マイクロソフトやアマゾンも産業用ロボットの場で次の発展を狙っている。

 GoogleとFoxconnの二つの巨大企業が産業用ロボットでの共同開発を進めることになると、他のロボットメーカーにとっては相当の脅威になるのではないか?Googleの人工知能の研究能力やコンピュータOSの開発能力があれば、産業用ロボットの知能化(賢い産業用ロボット)にあたらしい展開が起こると思われる。

 これとは別にFoxconnはアメリカで研究開発に関して投資する対象を探している。いままでもペンシルベニアの研究機関に40億円を投資している。また、最新の生産、自動化技術を学ばせるために、社員をMITに送っている。やる気十分である。

 日本は産業用ロボットを利用する分野で、現場と密着した開発を進めてきて、この分野では現在では世界トップクラスといってよいと思うが、今後は知能化産業用ロボットの分野を積極的、しかもスピーディーに攻めないと、Google Foxconnコンビにやられてしまうかもしれない。スマートフォンなどの電子機器の生産ラインの全ロボット化などは、日本が最初に成功してほしいものである。

 Foxconn は昨年くらいから10,000台の産業用ロボット(内製ロボットのFoxbots)をiPhone6sの生産ラインに導入中である。その目的は作業員の作業環境の改善や、一層の生産増強である。しかし、Foxbotsは製造ラインの最終ステージの作業者の仕事をロボットで置き換えることが、まだ出来ておらず、全ロボット化の作業は遅れている。
 Foxbotsは単純な繰り返し作業は容易にこなすが、作業者が持っている知的な認識能力を持っていないので、品質の制御やラインの最終ステージでの美的品質を保証する作業の能力は、作業者に遠く及ばない。しかし、知的認識の技術の進歩は早いので、遠くない将来にロボット化が可能になるだろう。

  したがって、しばらくは、製造ラインの中で、ロボット化が困難なステージには作業者が残り、完全自動化できているステージと混在したライン構成で進める、というのが現場の担当者の見解である。(出典;Neowin, Sep 10, 2015 :"Foxconn can't fully automate its factories yet,says humans are still important")。

 上記は、ロボット化を進める上で当然予想される結果であり、日本でも、たとえば富士通周辺機器(株)ではタブレット組み付けの自動化をこのような進め方で行っている。ロボットでは難しい工程や人間による官能評価が必要な最終組立工程には作業者が入り、完全自動化はまだ出来ていない。如何に全自動化に近づけるか?が今後の競争点となる。

 それ以外に重要なポイントは、生産管理上の問題であり、ラインに流す製品の変種変量生産に如何に対応したラインを作るかである。スマートフォンのような変種変量生産をロボット化するには、相当な努力と工夫が必要になるはずである。

 FoxconnのCEOのGOU氏が希望する、100万台のロボット導入は、その意気には敬服するが、そんなに簡単にロボット化が出来るわけがない。相当な時間が必要であろう。しかし、彼には大量生産の現場を持っている強みがあり、継続的な努力は新しい技術を生むはずである。GOU氏は新しいロボット関連技術を生み出す、良い環境の中におかれていると考えられる。日本もロボット技術で遅れをとらないためにも、電子、電気機械の国内ラインのロボット化に真剣に取り組まないと、中国に負けてしまうことにもなりかねない。ポイントはセンシング技術である。


 Foxconn(台湾)は世界最大のiPhoneのEMS(エレクトロニクス機器の製造受託サービス会社)であり、その最大の工場は中国にある。iPhoneの製造には、20万人を超える作業者が100本の生産ラインで1日24時間(3交代?)働いている。高騰する賃金のために利益が少なくなっており、会社のCEOのGOU氏は、3年後に生産ラインの70%を自動化する必要があると述べている(出典:Voice of America,2015.03.09)。Foxconnは10年ほど前からFoxbotというロボットの開発を始め、近年は米国ペンシルベニアに研究拠点を設けた。(生産技術やスマートフォンの研究にとどまらず、将来の無人運転自動車の研究も見据えているようだ)

 自動化を進める上での困難は、如何に生産変動のある多種のスマートフォンなどの電子・電機製品を安価に生産するかという点である。下の写真は現在すでにロボット化されているスマートフォン製造の工程のものと思われる(出典:Wn.com,Building work starts on first all-robot manufacturing plant in China's Dongguanのビデオから)。ロータリーテーブルの周りに4台の6軸垂直多間接型の小型ロボットが配置されている。ロボットの動きも大変にきびきびしている。ロボットの形態は三菱電機の小型ロボットに似ているが、内製ロボットだろうか?注目すべきは人がロボットの隣り近くで仕事をしている点であり、安全柵がない。人との衝突時の安全が考慮されたロボットと思われる。もし内製ロボットならば、ロボット技術の面でも相当のレベルに達していることになる。

Foxbotcell20150505South China Morning Post 2015-05-05.png

 20万人の作業者(3交代)のうちの70%といえば、4.7万台のロボットライン(100ラインとすれば、1ラインあたり470台)ということになり、このようなラインを構築するには高い技術が必要になろう。ロボット技術も相当進歩するであろう。

 Foxconnはロボットを(可能ならば?)すべて内製化して、技術の流出を防ぐ方針だから技術は外に漏れずに中にとどまる。このような大規模なロボットラインを持たない日本企業は技術面で差をつけられるであろう。電子機器、家電製品のほとんどを中国のEMSに頼っている日本は、何か対策を考えないとロボット後進国になってしまうだろう。

 このような生産自動化ラインが完成すれば、工場の立地点は中国に限らず、米国でも良いわけで、Foxconnが米国にスマートフォンの製造工場を作ることは大いにありうる話である。オバマ大統領が推進する生産工場を中国から国内に呼び戻す政策にも貢献する。米国ペンシルベニアに研究所を設置した意図も、その辺を考えてのことだろう。

 日本は中国のEMSに委託している電子・電機製品の多種混流生産ラインを日本に戻して、低価格で製品を作れるロボット化ラインの準備を早急に始めなければならないだろう。

 スイスのABB社製のYuMiロボットは小物組みつけ用(500g~1kg)の双腕型ロボットである。

ABBYuMi.jpg

YuMiの仕様
    

 

単位

 

質量

kg

38

可搬重量(短腕)

g

500

自由度

7

リーチ

mm

559

位置再現精度

±mm

0.02

最高速度

m/sec

1.5

安全基準

IP30

 



 ABB社はYuMiをスマートフォンの組み付け用などに使いたかったらしいが、双腕14自由度を平面組付けが多いように見えるスマートフォンなどに使うのは、非合理的かもしれない。
 片腕7自由度は障害物を避けるのには都合がよいので、カメラやその他、小型の家電製品など立体的な対象を組み付ける場合には、有効に使えると思う。また、双腕ならば治具なしで組み立てられる場合もある。

 だから、Foxconnがスマートフォンの組み立てにYuMiを使うだろうか?Faxconn社もロボットを自主開発している。しかし、3年後にiPhoneの製造ラインの70%を自動化するというGou CEOの希望を達成するには、YuMiを使う場合もあるかもしれない。

一方、価格は$40,000(500万円)であり、単腕アーム2本と考えれば1本当たり$20,000(250万円)となるが、単腕2本をそれぞれ別のプログラムで動かすことも出来るとしても、少し高い。 

 双腕とすることについては、過去色々な意見があり、実際に色々な双腕ロボットが発売されているが、あまり売れてはいないようである。

baxter-corobot.jpg

sawyer-cobot.jpg

 米国Rethink Robotics社も双腕型のCo-robotのBaxterを販売したが、現場からの声の大部分が単腕ロボットで十分間に合うというものだったので、Baxterの後継co-robotとして単腕型のSawyerを開発中である。

 双腕への反対意見は、両腕が必要な場合には、「単腕を2台使ったほうが合理的」というものである。
 ABB社は、まず自社の生産ラインでのYuMiの適用の成功例をユーザに見せる必要があろう。

 参考ビデオ

 1.YuMiによる組み立ての例1


 2.YuMiによる組み立ての例2


 3.YuMiによる組み立ての例3

    この映像を見ると、現在まだ人手に頼っている縫製作業の自動化がYuMiで

    できるのではないかと、想像される。


 4.YuMiの設計思想、仕様など



 

 いままで観てきた安全なco-robotや、柵で囲む必要のある従来型の高速組み付けロボットなどは今後どのようにスマートフォンやタブレットに代表される電子機器の自動化に関係してゆくだろうか?

 ポイントは変種変量の混流生産である(注1)。iPhoneなどのスマートフォンやiPadなどの電子機器は発売時には生産量が多いが、短期間(数ヶ月~1年)で生産量が落ちてゆく。また、複数種類の製品が同じラインで生産される。

 このような生産ラインをロボット化しようとすると、ことはそう簡単ではない。Foxconnもロボット化を試みているが、まだ一部にとどまっている。

 変種変量の混流生産のロボット化には例がある。iPhoneのような電子機器ではないが、デンソーが、カーエヤコンの組み付けラインをロボットによって約70%自動化した例がある。50種類の仕様の違うカーエヤコンを同じ生産ラインで、1ロット6台ぐらいで切り替えて生産している(月産、約45万台)。生産量の増加、減少には、関連するロボット台数(=セル台数)を増減して調整する循環型生産方式で対応している(写真、上、出典 日経テクノロジーonline 2012/03/21)。

カーエアコン組み立て用セルの例.jpg


 電子機器の組みつけにロボットなどを利用して自動化率約47%を実現した例として、富士通周辺機(株)のWindows搭載タブレットの組み付けラインがある。ヒートパイプ、ファン、スピーカー、バイブレータなどの組み付けや、タッチパネルの試験をロボットにやらせている。今後、更に自動化率を上げて67%まで持ってゆく予定とのこと(写真、下、出典 PC Watch 2014/07/9)。100%ロボット化に成功すれば中国での生産に頼ることはなくなるはず。

 上記の二つの例ではco-robotを使ってはいない。だから、このような従来型のロボットを使ってもiPhone6や6plusの自動化もある程度できると思われる。

  しかし、ロボットを柵で囲わなくても良い扱いやすいラインをco-robotを使って実現できれば、世界の賞賛をえられるだろう。iPhoneは小型のロボットで扱えるので、co-robot化は容易かもしれない。

 Foxconnは生産ラインの内容を外部に漏らさないように秘密にしているので、ロボット開発も自動化ラインの構成も自力でやるつもりであろう。はたして、生産ラインを中国に残したまま生産を続けられるように、自力で自動化をタイムリーに進めることが出来るかどうか?co-robotの採用に挑戦してはどうか?



タブレットへヒートパイプを組み付け.jpg



 注1:1980年代には多くの水平多関節型(スカラ型)ロボットを並べた家電製品の組付けラインが導入されたことがあった(例:ソニーの家電組み立てライン)が、結局は、それらの大部分が撤去されてしまった。理由は家電製品の短命化が進んだために、製品の切り替えにロボットラインが対応できなくなったことである。短期にかつ低コストで新製品の組み立てに対応できた作業者を中心とした「セル型生産システム」に取って代わられてしまった。

 まず現在のスマートフォンの製造ラインの現状を見てゆこう(写真はiPhone4sの組み付けライン、ラインの長さは148m、出典、iPhone Hacks,2012/05/26)。

 代表的な例として、iPhone6,6plusの場合はどのようであろうか?世界最大のiPhoneのEMS(エレクトロニクス機器の製造受託サービス会社)は台湾のFoxconnであり、その最大の工場は中国にある。

 iPhone6や6plusの販売開始時には24時間で400万台を超える注文があった。これに対応するために、Foxconnは1日当たり、iPhone6,6plusあわせて54万台を生産していると報告されている。20万人を超える作業者が100本の生産ラインで1日24時間(3交代?)働いているらしい。またiPhone1台当たり600人(注1)の人手が必要らしい。(出典 WSJ.D/Tech,2014/09/17,Foxconn Struggles....)

foxconn iphone4 assmbly line.jpg


 生産状況を以上の数字から概算すると、

  1ライン1シフトあたりの作業者の数は 200,000人/100ライン/3シフト=666人/ライン(注1:ほぼ600人)
  1ラインで8時間(1シフト)当たりの生産台数は 54*10000万台/100ライン/3シフト=1800台/1ライン/1シフト
   1台あたりの生産時間(タクトタイム)は  60*60*8/1800=16秒/タクト

 つまり、一つのラインで16秒ごとに1台のiPhone6,6plusが生産されることになる。1ライン600人ということは、組み立ての前工程と後工程に必要な人数を差し引いた残りの人員が、1つの組立工程を数人で分担して、一人あたりには16秒の数倍の時間で仕事をこなしているものと思われる。

 いずれにしても、このような単純作業を長時間することになり、労働賃金を上げても労働者がなかなか集まらなくなっているのが現状らしい。さらに労働者の賃上(現状は年率約10%で上昇している)の結果、中国でのiPhoneの生産は利益が少なくなっている。このため、Foxconnの経営者(Terry Gou CEO)は作業者をロボットに置き換えることを計画し、実際に、Foxcbotというロボットを開発し試験的に使ってみたようだ(写真、下、出典;INSIHGT CHINA クローズアップ2011/08/18)。


Foxconn robot.jpg

 しかし、人間の作業は単純とはいえ相当知的な作業をしているのでロボット化はなかなか難しく、2011年の段階では「特定のキーをたたく作業を繰り返す」など、単純な作業に限って使われていたが、その後、ロボットの数を増やし続けているようだ。Terry Gou CEOは来年に30万台、3年以内に100万台のロボットを導入したいと話している(出典、INSIGHT CHINA 特集 2015/08/20)。

 スマートフォンやタブレットなどの電子機器の生産ラインは多種変量生産の典型的なラインであり、工程の数や作業内容は時間とともに大きく変化する。このような多種変量ラインに、来年に30万台、3年以内に100万台などという数のロボットの導入は到底不可能だろう。

 一方、ロボット化など生産の自動化が進まなければ、将来的には賃金の低い東南アジアへ生産の移管を考えなければいけないといわれているので、Terry Gou CEOはそれだけ切羽詰った状態に置かれているのであろう。


 co-robotの重要な特性のひとつは、ティーチングが容易(短時間)に出来ることであり、どのco-robotもアームを手で掴んでアームの位置や姿勢を動かして通過ポイントなどを教える、いわゆるLead Through Teachingを採用している。

 各ジョイントにトルクセンサが取り付けてある独KUKA社のiiwaや米国Rethink Robotics社のBaxterなどは小さな力でスムースに動かすことが出来ている。

 一方、ABB社のYuMiやUniversal RobotのUR型はジョイントトルクセンサを持っていない。そのため、特にUniversal Robots社のUR型ロボットでは、ビデオで観察すると、腕を動かすのに大きな力が必要に見える。はたして、このような操作性で精密な位置決めのTeachingが出来るのか疑問符がつく。ユニバーサルロボット社は使いやすさを主張する根拠として、Lead Trough Teachingよりもむしろ、工夫されたTeaching Pendantを使ってのプログラミングのしやすさを主張しいる。

一方、 YuMiは軽く動かすことが出来ているようだ。

 ABB社によれば、YuMiはinovative force sensing technologyによってLead Through Teachingを可能にしていると言う。Universal Robots社によれば、UR型はForce MoveでLead Through Teachingを可能にしていると言う。これらはアーム手先に加えられる力をモータの駆動トルク(電流)などから推定して制御する手法(例:東芝レビューvol.66 No.5 2011)と類似な手法を使っていると思われ、ジョイントトルクセンサを必要としない。同レビューでは、衝突検出やダイレクトティチング(Lead Through Teaching)も可能と解説している。

 UR型で腕を動かすのに大きな力が必要に見えるのは、Force Moveの制御方法がYuMi(=東芝の手法?)とは違っているためと思われる。
 UR型のForce MoveはTeachingのためというより、むしろ安全停止のために用意されている。

結論を先に述べれば、その高価な値段(1000万円強)を1/3以下に下げない限り、工場用としては多くは売れないだろう。

 co-robotとしての性能は市販されている他のどのco-robotよりも優れていると思うが(teaching systemの使いやすさは不明)、値段が他のco-robotの2倍から数倍もする。ドイツにおけるLWR(Light Weight Robot)の研究開始はドイツの研究機関のDLR(German Aerospace Center)で1995年(20年前)に始まり、現在の形に開発が進んだのは2006年(約10年前)である。10年もたって高価な値段が下がらないのは目標としている用途が工場用ではなくて、宇宙用とか検査試験用とか、医療用など、高価でも使ってもらえる用途を対象にしているからではないか?そのため、構造的に理想を追求しすぎているのではないか?

 人と協調して仕事のできるco-robotの条件として、可搬質量と比較して本体質量をできるだけ軽量(2~3倍)にして、動作中に人と接触しても人を傷つけることなく短時間で(数ms?)停止できること、できるだけ省スペースで小型であること、移動・設置が容易で新しい仕事を速やかに立ち上げられることなどであろうか?

 LWR(iiwa--intelligent industrial work assistant)はこれをめざして、各関節にトルクセンサを組み込んだ7軸ロボットとして開発された。特徴としては、

1)ペイロード/アーム総質量の比率をできるだけ大きくするために筺体をカーボンファイバー入りのプラスティックスとしている。

2)形状をすべて曲面として接触しても傷をつけないようにしている。

3)関節ごとにモジュラー化されたドライブシステムを持たせた。パワーエレクトロニクスボード、デジタルエレクトロニクスボード、モータ、ブレーキ、モータ回転角度センサ、ハーモニック減速機、リンク回転角センサ、リンクトルクセンサなどがモジュラー化されている。ドライブシステムの中心部にはホール(穴)があり、パワーケーブル、エレクトロニクス通信用の光ケーブル、非常ブレーキ通信ケーブルなどが通っている。

4)関節にトルクセンサを組み込んだことで、非常にスムースな力制御ができ、衝突時の反力も小さくできるし、アームを持ってするティーチングも非常にスムースである。

robodrive.png

iiwa.png

 iiwaはその用途を工場用に限定せず、医療からホームロボットまで広く設定している。いままでに数百台は製造して、いろいろ用途で評価をしているが、工場用としてはなかなか広まらない。高価でも使ってもらえる用途をたくさん開拓して量産効果によって、価格を下げることを狙っているのだろうが、果たしてどこまで価格が下がるであろうか? Co- robot(Collaboration Robot) の主たる目的は、多種中少量生産の自動化であり、Rethink Robotics社のBrooks氏によれば、その価格は中小量生産企業の作業者の1年分の必要経費程度(200万円~300万円?)であろうとの見解がある。だとすれば、1/4~1/3に下げねばならないことになる。

 ここ1~2年の間に色々な新しい仕様の産業用ロボットが市場に発表されたが、その中でも従来にはなかった新しい市場を開拓したのはUniversal Robots社だと思う。ロボット自体を小型(スリム)軽量化し、衝突時の衝撃力を軽減して、安全柵をとりはずせたことで、工場設備の配置をいじらなくても、比較的簡単にロボットの追加設置ができるようになった。これで、それまでSME(Small and Midium sized Enterprises)において、自動化のネックになっていた作業を自動化することができるようになった。しかも、必要がなくなれば、簡単に他の用途に使いかえることができる。このような自動化の用途は特に中小企業(SME)では多く存在すると思われる。価格も比較的安い。Universal Robots社が後発であるにもかかわらず、販売台数を相当な勢いで増やしている理由はこの辺りにあると思う。

 川崎重工(株)からco-robot(製品名デュアロ)が発売された。双腕型co-robotはいろいろ発表されているが、発売されたのは、川田工業のNexstage,米国Rethink Robotics社のBaxter、安川電機のヒューマンアシスト、スイスのABB社のYuMiに継いで5種目である。

 特徴的なのは水平多関節型(スカラ型)を採用した点であり、co-robotとしての特性はすべて備えているようである。狙っている市場は、電子電気関連、自動車・食品関連も見込むが、主たる狙いは中小企業(中小量生産)での利用という新しい市場であり、その展開が期待される。co-robotとしては初めてのスカラ型双腕型であるが、垂直多関節型双腕co-robotとの競争力はどうであろうか?デュアロの価格は約280万円で、Baxter(垂直多関節型、片腕7軸)の価格の22万ドルとほぼ同じで、安価に設定してある。

 少し気になるのは、高速動作に特徴のあるスカラ型を、人と同程度の速度での仕事を期待されているco-robotとして仕上げた点である。現状の産業用ロボットが対応できていない残りの90%の作業の自動化を狙うco-robotとして、製品化するのは少し思想がずれているような気がする。単腕型の産業用ロボットの機構別の利用比率(Mizuho Industry Focus  Vol.150, 2014年3月28日)は垂直多関節型6割、直交型2割、水平多関節型(スカラ型)1割、その他1割とのデータがある。co-robotとして狙うべきは第一にはやはり垂直多関節ロボットではないのか?

 しかし、川崎重工は相当強気である。引き合いが非常に多く、年産5000台以上は十分狙えると主張している。私は実際に見たことはないが、スマートフォンなどの組み立てラインは比較的平面的な組み立てが多いと想像される。このような生産ラインに従事する作業者は、全世界で100万人規模で、組み立てラインなどは数千本もあるというデータもある。川崎重工の強気もわかる気がする。

Duaro.png

               川崎重工のスカラ型双腕co-robot 「デュアロ」、

                  可搬質量片腕2kg、4~6自由度

         日刊工業新聞のBusiness Line(6月4日)から引用

   

 Baxterは他のco-robotと比べて、大きな特徴が二つある。一つ目は、各ジョイントにトルクセンサに加えて金属ばねが挿入されていることである。他のco-robotのジョイントには金属バネは使われておらず、トルクセンサか、トルクを推定するアルゴリズムが準備されているか、または何も用意されておらずにモータ出力を80W以下に制限しただけのものもある。

 二つ目はアームケーシングやカバーがプラスチックス製であり、さらにギヤトレーンにプラスチックスや焼結合金製のギヤが採用されていることである。他のco-robotの場合、ほとんどがハーモニック減速機を採用している。

 これらの特徴的な構造を採用したために、優れた特性と望ましくない特性がそれぞれ発生してくる。優れた特性とは、まずバネの挿入に関しては衝突時の本質安全を確保できる点であろう。他のco-robotが採用しているトルクセンサによる衝突時の安全停止はトルク制御系が故障した場合には役に立たない。

 二つ目の特徴に関しては、製造価格が大幅に低下できることであろう。Baxterは双腕にもかかわらず、単腕のco-robotよりも価格が安い。ハーモニック減速機を使わないことで価格を下げることができる上に、歯車の材料をプラスチックスや焼結合金に変えることによって1/5以下にできた。さらに、ベアリングやモータに廉価品を採用することで価格を更に下げることに成功している。
Baxter.jpg
 一方、望ましくない特性も出てくる。
 まず、ジョイントに金属バネを入れることで、アームの加減速時にアームの振動が発生し、位置決めの精度が悪くなるし、振動を発生させないように動かすと動作時間が長くなる。次に歯車材料にプラスチックスや焼結合金を使ったり、ベアリングやモータに廉価版を使うことで、ロストモーションが発生し停止時に振動が出やすくなる。これをソフトウェア(学習機能など)のバ-ジョンアップで修正してゆくのが設計方針であるらしいが、不十分に思える。

 実際に、Baxterの動作例をビデオで観察すると、動作が少し振動的であり動作も遅い。しかし、Brooksは、従来の産業用ロボットのように機械系の高精度な特性で仕事をするのではなく、Baxterは人がやるように目で見て掴んだり、手で相手に倣ったりして、人と同じ速度で仕事をするので、機械系の精度不足は問題にならないと主張している。

 筆者の考えを述べると、Baxterは現状のままでは生き残りは難しく思える。本質安全であること、価格が安いこと、使いやすいこと(Lead through Teachingなど)は魅力的だが、双腕を有効に生かす応用例が少なく、大部分が単腕でも出来る作業のプレゼンテーションである。また、動作速度が遅い点や精度の悪さにより、一部の作業にしか利用できない。ソフトウェアだけでの改善は難しいと思われる。それに加え機械寿命(useful life)が6,500時間とUniversal Robotの1/5と短い。これらが他のco-robotとの競争の際に、致命傷になると思われる。

Sawyer.jpg

 Rethink Robotics社はBaxterの利用者からの要望(位置精度や作業速度をもっと高めてほしい)を基に、Baxterのコンセプトを考え直し、新しい単腕小型ロボットSawyerを発表した(2015年)。アームのケーシングはアルミ製となり、減速機にハーモニック減速機を採用した点と、手先のカメラシステムをもっと高精度にした点が大きく異なる。 ジョイントに金属バネを挿入して、コンプライアントな接触を目指す点はBaxterと同じ。Sawyerの目指す作業はエレクトロニクス関連に絞っているようだ。しかし、実際の作業例のビデオがまだ発表されてないので、ジョイントに挿入した金属バネが作業特性を悪くしていないかは、判断できない。

 co-robot型の産業用ロボットの研究の歴史は古く、一番古いのはドイツKUKA社のLWR(最新名はLBR iiwa)で、発表されたのが2004年頃。各ジョイントにトルクセンサを内臓。 2012年に欧州で発売開始、2015年には日本でも発売。トルクセンサにより衝突時の安全停止やアームを人手で移動させて教示できる。

 ABB社の双腕ロボットYuMi2006年ごろから研究を開始し、2015年発売開始。ジョイントにトルクセンサは内蔵していないが、モータ電流を制御してco-robotの特性を実現している。アーム(可搬質量500g)が小型であり、腕が柔らかいパッドで覆われているため、衝突の衝撃は小さく、手でアームを移動させて教示できる。

 次に古いのは米国Rethink Robotics社のBaxter(双腕)で、研究着手が2008年と思われる。発売は2012年。各ジョイントにバネとトルクセンサを内臓。トルクセンサにより衝突時の安全停止やアームを人手で移動させて教示できる。

 次に古いのはUniversal Robots社のUR5で、発売されたのが2009年(会社設立は2005年)。ジョイントのトルク推定方式?(センサなし)。衝突時の安全停止が可能。トルクセンサがないためにアームを持って移動させながら教示点(waypoint)を教えるのは、トルクセンサありのロボットと比べると相当ぎこちない(力が要る)。

 川田工業のNextage(双腕)の発表も2009年。ジョイントトルクセンサなし、全モータ80w以下。

 以下の4体は2015年前後に発表されたもの。

安川電機の人間協調型双腕ロボットは~2015年発表。全モータ80W以下。

 Rethink Robotics社のSawyer(単腕)は2015年発売。各ジョイントにばねとトルクセンサ内臓。

 GOMTEC社のRoberta(単腕)は~2015年に発売したが同年ABB社が吸収。手先に力センサ装着?

 ファナックの協調ロボットは2015年発表。各ジョイントにトルクセンサ内臓し、アームを柔らかいカバーで覆って、人と接触時の衝撃を緩和している

以下にそれぞれの写真を掲載する。出典はそれぞれの会社のホームページ。



iiwa.png

LBR iiWa ビデオ(2種)

可搬質量7~14kg
自重23.9~29.9kg
自由度(7)、繰り返し精度 ±0.1mm

TCPの最高速度 約1m/sec

価格$50,000~$100、000(560万円~1120万円強)



Universal robot ur5.png

UR ビデオ(3種)

リーチ 500mm~1300mm
可搬質量3~10kg
自重11~28kg
自由度(6)、繰り返し精度 ±0.1mm

            TCPの最高速度1m/sec、
            価格$23,000~45,000(250~500万円)



nexstage.jpg

Nextage ビデオ
可搬質量1.5kg(片腕)
自由度(片腕6、首2、腰1)
速度13~300deg/sec
価格700万円







215-Baxter.jpg

Baxster ビデオ
可搬質量2.2kg(片腕)、質量75kg

自由度(片腕7、首1)

最高速度1.0m/sec

位置精度 N/A

価格$22,000(240万円)


249-yaskawa.jpg

MotomanBMDA3 ビデオ
可搬質量3kg(片腕)、質量60kg

自由度(片腕7、腰1)


231-Sawyer.jpg



Sawyer ビデオ

リーチ 1230mm
可搬質量4kg、質量19kg

自由度(7)、位置精度 ±0.1mm

典型的なツール速度 1.5m/sec

価格$29,000(320万円)




234-Gomtec.png

Gomtec社のRoberta ビデオ(3種)
可搬質量4~12kg、質量14,5~30,5kg

自由度6、価格$30,000~35,000(330~390万円)

Gomtec社はABB社が買収











224-YuMi_400_280_80.jpg

YuMi ビデオ
可搬質量0.5kg(片腕)、質量38kg

自由度(片腕7)、精度 ± 0.02mm

価格$40,000(440万円)


237-Funac.jpg

CR-35iA ビデオ

可搬質量35kg、質量990kg
自由度6、繰り返し位置精度0.08mm

安全監視時速度250mm/sec(最高速度750mm/sec)

 結論から先に述べると、Universal Robotなどのco-robotは従来型の小型産業用ロボットを置き換えるものではないと思われる。従来型産業用ロボットの動作の機敏性(最高速度、加速度、精度)はUniversal Robotをはるかに勝る。小物組み立てなどの生産ラインでは、Universal Robotは従来型の産業用ロボットに勝てない。

 Universal Robotはco-robotとなるために、
 1)最高速度を1m/secと低速化(同レベルの作業域を持つ従来型産業用ロボットでは最高速度はでは6~9m/sec)
 2)位置決め精度を+/-0.1mmと粗くした(従来型のロボットでは+/-0.02mm。減速比を小さくして衝突時の反力がモータに伝わりやすくしたと推定)
 3)ボデーをスリム化することで軽量化(従来型ロボットの1/2~1/3)を達成している。
 RV-7F-UR-5robot-3.png

 平成25年にロボットの安全基準が一部変更され、多軸のモータの2軸以上が80w以下でなくても、リスクアセスメントの実施により停止監視や力制限など安全性が確保された条件下ではco-robotとして安全柵なしで、人と同一作業場で運転することが許されるようになった。

 そこで、現在の産業用ロボットの制御などを変更して、最高速度を安全圏に抑え、衝突停止機能(現状の産業用ロボットでもワークやロボット本体の破損防止のために、備えている)、Lead through teaching機能などを持たせればco-robotとして使うことができるだろうかというと、疑問が残る。

 衝突時のショックの大きさに関係するロボット重量/可搬重量はUR5では3.6に対してRV-7Fは9.3であるから2~3倍もショックが大きいし、重量が2~3倍も大きいと、ラインの組み換えなどで不利になる。

 日本の企業も、残りの90%を占める多種中小量生産向けの市場開拓を目指して、小型軽量、低価格なco-robotの商品化に取り組まないと、大きな収入源を失うことになろう。

産業用ロボットが新しい進化を始めたようだ。興味深いロボットがまだ未完成のものも含めていろいろ現れてきている。

 産業用ロボットは日本の工場で既に数十万台が働いているが、基本的な性能は過去数十年来あまり変わってこなかった。産業ロボットは相変わらず柵で囲まれたスペースの中で、人より速い速度で、人より正確に、低コストで機械部品の組み立てなどをしている。ところが、このようなロボットの使い方は大量生産品に対しては効果を発揮したが、世の中の大部分を占める多種少量生産((米国)iRobot社のBrooksによれば世の中の製品の90%、主として中小メーカでの生産)に対応しようとすると、人とロボットを隔離する安全柵を設置する大きな床面積が用意できない。そこで、これらの多種少量生産品の生産はいまだに人の手に頼っているのである。

 そこで、最近注目されているのは、以下のような条件を満たす新しいロボットの出現である。


(1)人が中心の生産現場の中で人と一緒に作業のできる安全なロボットである。従来のロボットは人を傷つけないように安全柵で囲う必要があったが、新しいロボットは安全柵なしで人の隣で作業ができる(ビデオ)

(2)少量生産で、頻繁に生産内容が変化しても対応できるロボットである。このためには、ロボットは軽量で簡単に移動でき、作業のTeachingが簡単にできる必要がある。たとえば、ロボットのアームを持って安全に手先を案内(移動)することができ、位置姿勢の教示が容易にできる(Lead Through Teaching)。

(3)一人の作業者をロボットで置き換えるため、ロボット(プラス周辺機器)の価格は作業者の年間経費を大きく上まわらない。

 このようなロボットはco-robot(collaborative robotの略)と呼ばれている。

 co-robotが注目されるようになったのは、デンマークのUniversal Robots社製のUR型ロボットが発売されてからである。軽量のため、生産の場所が変わっても簡単に移動でき、さらに、専門知識がなくても簡単に作業を教え込むことができる「よく考えられたユーザインターフェース」を持っている。しかも、リスクアセスメントの実施により停止監視や衝突時の力制限などの安全性が確保されるので、安全柵などを必要とせず、低価格で作業のロボット化ができる。一方、作業速度は人並みな新しい種類のロボットである。
 UR型ロボットは上記のような性能が生産現場に受け入れられて、世界で年間5000台を超える勢いで売れている。これがco-robotが注目され始めた原因である。


UR型ロボットの仕様を見てみよう。

   UR3

重量11kg,可搬重量3kg、動作範囲:50cm半径            最高速度1m/sec、繰り返し精度:+/- 0.1mm

衝突時の停止外力 60 N6kg)~87N(8.7kg)                     (モータ電流の制御で外力を制御)

軽量のため運搬が容易
15
の調整可能な高度安全設定
2015
年に発売

   UR5

重量18kg,可搬荷重5kg,動作範囲:85cm半径              2008年に完成

2009年に発売 、他の仕様はUR3と同じ 

   UR10

重量28kg,可搬荷重10kg,動作範囲:130cm半径域
2012
年に発売 、他の仕様はUR3と同じ

UR3,UR5,UR10の価格、寿命は

価格20,000-30,000ユーロ(280-420万円)

製品寿命 (useful life) 35,000時間  


写真はUniversal Robots社のホームページから引用

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 2014年には中国が世界最大の産業用ロボットの需要国になると予想されるそうだ。中国製のロボットも次第に性能が向上しているようだ。今のところ、要素部品には日本製やドイツ製のものを使っているから即座に追い抜かれるとは思えないが、近い将来にはテレビなどと同様に追いつかれる可能性はある。低価格路線で来られたら日本の産業用ロボットメーカも苦境に陥る。
 対策として何が考えられるだろうか?

 ロボットメーカはロボットだけでなくシステム化の技術を磨く。
 商品の競争力で人件費がキーになれないような製造システムを開発しブラックボックス化する。
 徹底的に機械化した商品別、部品別の製造システムを開発し、商品、部品の価格、品質、性能で引き離す。

 これを実現させるためのツールとして、CADベースのロボットオフラインシミュレータの高度化が必要であろう。そのようなシミュレータの例として東京大学発のベンチャー、MUJINが開発した「MUJINコントローラ」も面白そうだ。  

 パラレルリンク機構を使った天吊型の小物組み立て用の6軸ロボットがパナソニックから発表された(2010年10月)。部品組み付け時の接触力を従来型ロボットより高速で制御できそうだ。ロボットによる小物組みつけの分野で新たなブレークスルーを作った製品と言えるのではないか?


 6個のモータは天井に固定してあるので、手先にかかる重量はリンク構造と手先に固定したツールだけになる。ダイレクトドライブモータ(パナソニックの場合、ダイレクトドライブかどうかは不明)を採用すれば、駆動系の摩擦抵抗が少ないのでバックドライバビリティーも良く、モータ電流を制御するだけで、特別の力・トルクセンサーを手先に用意しなくても手先が部品などと接触するときの接触力を安定かつ高速に制御できると思われる。

201010panasonic3[1].jpg

パナソニックは実際に電子基盤をコネクタに嵌め込む作業やカメラの鏡胴を組み付ける精密作業などができることを確かめた。パラレルリンク型ロボットはアームの慣性負荷が各モータに分散されるので、高加減速度が可能であり、歯車機構を持たないので位置精度も優れており、手先の剛性も大きく、組み立て作業に向いている。


 動作範囲が狭い、姿勢変化の範囲が狭いなどの問題点もあり、すべての小物組みつけ対象に有用とは限らないが、電子機器部品などの組み立てには今後広く使われてゆくのではないか?生産準備時間を大幅に短縮できれば、組立作業へのロボットの適用を妨げていたことが解消されたことになる。将来の展開が楽しみである。


パナソニックはこのロボットの最大の特徴を、軽量な操作感で手づたえ教示ができる点だと主張している。サーボとブレーキを解除して、アームをフリー状態にすると、軽量な操作感でロボットの手先を人手で掴んで誘導でき、動作を手づたえ教示できる。従来型のシリアルリンク型ロボットだとモータ重量が手先にかかってくるので、このような軽量な操作感は得られないとのこと。教示の際にはサーボが解除されているので暴走の危険が無いのも大きなメリットとなる。
 また、 ロボットの手首を持って実際に作業を教示するだけで自動的に作業プログラムができるようなソフトウェアを用意して、教示時間を従来より大幅に短縮できたようだ。操作には高度な知識などは不要で、現場の作業者でも教示ができるそうだ。


yudo.jpg

 残念ながら日本の話ではない。ドイツ、米国での開発の結果である。
 NASAとGMが5本指のハンドを持った関節トルク制御方式の7自由度アーム(Robonaut2)を開発し、双腕として構成し、上半身ヒューマノイドを作った。レンジファインダーによる視覚と組み合わせて、機械組み立て作業の研究を行っているようだ。ロボット単体の開発にとどめず、作業の研究を始めていることに敬意を表したい。これこそが求められていることだ。

 このアームは15年以上前からNASAがRobotics Research社に開発をさせていたものが原型になっている(下の写真参照、15年前に完成している)。アーム自体はほとんど15年前のもの(2008年8月21日のブログで紹介した)と変わっていないのではないか?

k1207i.jpg

 ただし、5本指ハンドに関しては今回始めて知った。数kgのものまで把持できるようだから、相当頑丈に作ってあるようだ。非常にコンパクトに作ってある。ハンドの研究は学会では古くから行われているが、5本指を実用化しようという試みは新しい。機械組み立てには5本指ハンドが必要という判断があったものと思われる。
 数年前から、GMが加わって開発を加速しているようだ。GMは自動車の組み立てに使いたいようだ。NASAは宇宙空間での作業に使いたいのだろう。

 関節トルク制御方式のロボット開発は、以前にこのブログでも紹介したように、ドイツの航空宇宙研究所でも開発(Light Weight Robotのビデオ参照)され、現在はKUKA社が用途研究中である。2011年までにユーザに200台くらい配って作業研究をしてもらう計画だそうだ。
 Robonaut2は価格的に現状ではとても生産ラインで使えるようなものではないが、長期的に研究して実用化に持ってゆこうという息の長さが感じられる。GMが加わっているから相当早くテスト使用が始まるかもしれない。

 日本はホームロボットとか2足歩行型ヒューマノイドの研究にシフトしたため、このような機械組み立てのような作業の実用化研究が遅れているのではないか?
 また、日本では関節トルク制御型のアームの研究はされていないようだ。価格が高くなりすぎて実用的ではないという理由である。関節角度制御方式でも手先に6軸力トルクセンサをつければ、同様の性能を得ることができるという判断があるらしい(実際には性能的には相当劣る)。日本では関節トルク制御方式は関節トルク検出機構がコストアップにつながるとの見解を引きずって、いつまでもロボット構造の変革ができていない(注1)。しかし、実際にはそれほど複雑な構造にはならないし、ロボットの新しい使い方を可能にする変革だから、いつまでも躊躇を続けていれば日本の産業用ロボット技術は世界から遅れをとるに違いない。

 注1:関節トルクセンサ方式でなくて、モータ電流から関節トルクを推定して関節トルクを制御する方式が東芝から発表され、東芝機械のロボットに実装した例(下の写真参照、TV800)がある。センサなどを搭載する必要がなく、ソフトウェアで推定するので、アームはコストアップなしに作れるのが特徴である。実作業のビデオが発表されており、それを見る限り嵌め合い作業などは作業速度が遅い(嵌め合い作業のビデオ参照)ように感じた。このレベルの速度で現場の要求にこたえることができるか?今後市場の評価を受けることになる。

 SME(Small and Medium-sized Enterprises)用ロボットの開発目標は中小量生産向けで、生産を短時間で立ち上げられるロボットシステムの開発である。LWRが何故そのシステムに有用なのか、開発者の主張点をまとめてみる。
 LWRでは、その関節にトルクセンサを組み込んであるのでアームのどの部分を触ってもアームを動かすことができる。オペレータはロボットに装着したツールを掴んで作業順序にそってツールを案内(=Lead-Through )できるので作業教示が短時間でできる。Lead-Through Programming では教示をするオペレータと教示されるロボットが同じ領域に存在することになるので、オペレータの安全保証が必要になる。そこで、アームのどの部分を触ってもアームを動かせる特性(Sensibility along the entire arm structure)がオペレータの安全確保に役立つ。

 以上がSME用ロボットにLWRを使う理由の大部分であると思われる。関節トルクセンサを組み込むことでロボットが高価になっても、生産を短時間で立ち上げられるというメリットの方が大きいと開発者が判断したものと思われる。

 LWRは最初は人とロボットが一緒に働くサービスロボットを目標として開発されたらしい。しかし、サービスロボットの利用市場がまだ未成熟なため、ニーズが多くない。そこで、SME用のロボットとして使うことを先行するニーズとして捉えて、利用方法を考えているように思われる。はたして、SMEにLWRのニーズはあるだろうか?今後、注目してゆきたい。

 関節トルク制御のサーボをどのような伝達系、減速機で行うのかという問題もある。力制御を古くから研究しているスタンフォード大学のProf.Khatibはいろいろな伝達系を試みをしている。最初はPUMAロボット(1から2段の歯車減速機)。次には1段で1:30程度の減速比が得られる特殊歯車(バックドライバビリティを重視)。最近ではワイヤー駆動方式(アームの軽量化を重視)を研究して十分な力制御特性を実現したようである。ワイヤー駆動方式ではモータをアーム側に設置せずに、台座に固定してワイヤーで関節まで動力を伝達するのでアームが軽量化できる。Barrett Technology社のBarrett armはワイヤー駆動方式の高速ロボットとして有名で研究用として市販されている。しかし、実用機で必要とされる耐久性が問題である。特にワイヤー式はエレベータの例でのわかるように頻繁なメンテナンスが必要で、産業用ロボット用としては向かないかもしれない。実用化にはワイヤーケーブルの耐久強度の一層の向上が必要になろう。小型軽量という面ではハーモニック減速機は有効ではあるが低剛性、大きな起動摩擦、バックドライバビリティの低さ、耐久強度の低さの面で問題も予想される。しかし、LWRでは十分高速な力制御特性を実現している。耐久性についても色々と改良が進められ、小型の産業用ロボットでは広く使われ始めているようであり、大きな問題は無いのかもしれない。LWRではハーモニック減速機の低剛性を補償するために減速機の後にも回転角度エンコーダを入れているようである。歯車式で高減速比の減速機で高剛性、低起動摩擦、バックドライバビリティの良さなどで評価されている遊星歯車型減速機がある。DLRではLWR1(試作1号機)で遊星歯車型減速機を採用したが、LWR2(試作2号機)、LWR3(試作3号機)ではハーモニックドライブに変更した。理由は不明である。市販の産業用ロボット(位置制御型)の多くはRV減速機のような特殊歯形減速機構を使っているが、この減速機を使った力制御性能に関しては筆者は良く知らない。RV減速機の伝達効率(90%)はハーモニック減速機のそれ(70%)より良いので、それなりの性能が得られると思われる。ファナックが商品化した知能ロボット(力制御可能)の減速機は何を使っているのだろうか?制御の応答性はLWRと比較してどうであろうか?興味は尽きない。

 LWRは従来型の産業用ロボットを導入してもペイできない分野で使うことを目標とした。つまり、生産の立ち上げがより短時間で行えるようにして、生産のタイミングを逃さず、少量生産でもペイできるロボットにする。周辺設備を極力少なくして、設備にお金をかけなくて済むようなロボットにする。そのためには、ロボットは従来型よりも多少は高価であっても良い。
 この分野で需要が出てくれば、LWRの生産量が増えて価格も下がり、次には量産ラインでも使えるようになるという開発戦略ではないか?
 一方、関節トルクセンサーではなく、手先に力-トルクセンサを装着した(ファナックが商品化したような)ロボットで同様な効果が得られるならば、こちらの方がロボットの価格は安いだろうから、LWRが勝てるとは限らない。
 LWRが勝てるとすれば、インピーダンス制御による接触作業が数倍の高速でできるとか、ロボットを関節単位で手で動かせるという能力が生産の立ち上げの短時間化に効果的であるとか、作業者とロボットが作業領域を共有・協調して作業できるとか、であろうか?


 LWRはドイツの航空宇宙研究所が開発した新世代産業用ロボット(関節トルク制御方式)であり、SME(中小量生産)向けに開発されたものである。基本的には米国Robotics Rsearch社のロボット(K-*i型)と同じ設計コンセプトであり、その改良版とも言える位置づけのものだ。しかし、その動きをWebビデオで見る限り、LWRのほうが実用的な性能(速さ、加減速度、騒音、大きさ、扱える質量など)は相当に高まっていると思われる。(参考:LWRのビデオ、およびRobotics ReserachのK1207i ロボットのビデオ
 日本では関節トルク制御方式のロボットで商品化されているものはまだ無い。

LWR.jpg

 写真:KUKA社製のLight-weight robot。SME robot のDownload ページのSafety in Human-Robot Interactionから引用。ロボットのどの部分を押しても動かすことができる。KUKA社はこのロボットをまだ社内で評価中で、市販はしていない。

k1207i.jpg

 写真:LWRとほぼ同サイズのRobotics Research社製のK-1207iロボット。同社のWebビデオから引用。LWRと比較すると(製造年が10年も前だけに)、加減速度は低いし、騒音も大きいように見える。NASAやFord Motorsで一部実用されたようだ。

 1.ねらい
  1)手で押して容易に操作できるロボット(教示が感覚的にできる)
  2)ロボットのどの部分が人に当たっても大きなダメージを与えないロボット
   (ロボットと人の作業領域のオーバラップがある程度可能)
  3)ツール端での高速なインピーダンス(またはコンプライアンス)制御特性
  4)軽量・大可搬量のロボット(可搬質量≒ロボット質量)
  5)7軸で器用なロボット(教示作業が簡単化)
  6)関節駆動構造のモジュラー化により低価格化が可能

 2.構造
   米国Robotics Rsearch社のロボット(K-*i型)との共通点は;
  1)7軸
  2)関節駆動系の構造
    ハーモニックドライブ、モータ、ブレーキ、回転角エンコーダ、関節トルクセンサ(歪みゲージ式)が一体化
  3)関節内に関節ごとのサーボコントローラ(DSP使用)とモータドライバを分散配置
  4)ハーモニック減速機とモータ回転軸の中空軸心にドライババスと情報通信用のLANケーブルを通す。
  5)関節トルク制御方式のインピーダンス制御

  LWRの進化したところは;
    ・アームは炭素繊維強化プラスティックスで軽量化
    ・モータの小型高出力化
    ・ハーモニックドライブの出力側にも回転角度エンコーダを配置(減速機の低剛性補償?)
    ・関節サーボコントローラと運動制御用コントローラとの情報通信用に光LANを採用(注1)
  注1:日本で発表されているヒューマノイドロボットは、まだLANを採用していないようだ。産業技術研究所で現在開発中の「ヒューマノイド・ロボットのための実時間分散情報処理」システムでは採用される予定

 3.特徴
   Robotics Rsearch社のロボットと共通の特徴は;
    ツール端に力ートルクセンサを配置したインピーダンス制御に比較してインピーダンス制御の応答速度が向上し、嵌め合いなどの作業速度が数倍に高速化。
    アームのどの部分を触ってもアームを動かすことができ(Sensibility along the entire arm structure)、低速での接触ならば人体を傷つけることは少ない。人と作業領域をオーバラップしても安全性が高い(ただし、高速移動状態での人との接触はやはり危険)。
   LWRの特に優れた点は、ロボット質量と同じ質量を扱える点。従来の小型ロボットはロボット質量の1/5から1/8程度の質量しか扱えなかった。アームに炭素繊維強化プラスティックスを使った以外にも、減速機に高減速比のハーモニックドライブを使ったことが自重の軽量化に貢献したと思われる。

 4.問題点
  1)Robotics Rsearch社のK-*i型ロボットは発表されてから既に15年程経過しているのに、いまだに産業用ロボットとして量産に入っている様子が無い。試験用アームとしての位置づけを出ていない。コストパフォーマンスが有利になるアプリケーションが産業用分野では見つかっていないのではないか?数が出ないので、価格が下がらないことが問題だと思われる。LWRはRoborics Rsearch社のK-*i型ロボットより進化していると思われるが、これも発表以来4年程度経っている。関節駆動系にセンサを多用していること、アーム材料に炭素繊維強化プラスティックスを使っていることなどでロボットが高価格になっている。実用的なロボットにするためには再設計が必要であろう。KUKA社の製品として製品化(市販はされていない)されているので、将来には改良されるのではないか?
  2)筆者の知識不足かもしれないが、ハーモニックドライブが産業用ロボットのような激しい使用環境で長期のMTBF(故障発生までの平均時間、スポット溶接用ロボットの場合10万時間)が要求される用途に適切な素性を持っているかどうかという点が心配である。今後の耐久性面での改良が鍵を握ると思われる。筆者としては別種の減速機として遊星歯車減速機なども検討する価値があると思う。

 EUが新世代産業用ロボットの研究プロジェクトを継続し成果をあげているようだ。先日ドイツのミュンヘンで開催されたAutomatica 2008に出展した内容とその関連技術がWebサイトに詳しく発表されているのを見つけた。以前筆者も研究したことがある関節トルク制御方式のロボットアームが要素技術の一つとして使われているのを知って興奮を覚えた。 翻って日本はどうか?サービスロボットに開発資源を集中投入して、産業用は企業に任されている感じがする。少し心配である。
 EUは新世代産業用ロボットに開発資源を注入しており、大量生産ライン用であったロボットを中小企業(SME:Small and Medium-sized Enterprises)が使うのに適したものにする研究を熱心に行なっている。 SMEロボットの開発のターゲット、シナリオが短いビデオにまとめられている。(しかし、これは目標(期待)であって、その技術がすべて完成したということでもないようであるが。) 

 SMEロボット技術は生産量の少ない仕事にも、産業用ロボットが効果的に使えるようにする技術である。それは上記のビデオを見れば理解しやすい。例えば、ロボット教示が簡単で直感的にできる。ロボットのプログラミング言語を学ぶ代わりに、オペレータはロボットに装着したツールを掴んで作業順序にそってツールを案内(Lead -through)し、ロボットがすべき作業を「Speech」または「グラフィックユーザインターフェース」で与える。このため、人と同じ作業領域で、協調して働ける(教示作業など)安全ロボットを開発する。
 これにより、素人でも簡単に教示でき、すばやく仕事が開始できる。設備構築から生産開始までの準備時間が3日以内に終わるようなシステムの開発を目指す。
 従来の産業用ロボットが不得意とするこのような特性がもし可能になれば、産業用ロボットが新しい発展を始めるだろう。

 教示時間を短縮する技術の例としては、
 1) ロボットの関節にトルクセンサを組み込んだ安全ロボットを開発することによって、ロボットの手またはツールを人間が持って案内(Lead-through)できるようにする。
 2) 3次元視覚センサを使った物体認識により、ビンピッキングなどができ、部品供給装置が簡単(または不要)にできる。また、関節に組み込んだトルクセンサを使った接触探り動作プログラムにより、組み付け(嵌め合いなど)の教示などが簡単にできる。
 3) 部品のCADデータを用意することで、例えばバリ取り作業のために作業点上の数点を代表点として教示すると、軌跡が自動生成され、直ちにバリ取り作業を開始できる。

 などがある。特に、ドイツ航空宇宙研究所(DLR)で開発された関節にトルクセンサを組み込んだ軽量小型7軸ロボット(LWR: Light-weight robot)は、その価格を別にすれば上記のSMEロボットの目標仕様に沿ったものであり、将来その低価格化が期待される。

  写真:"DLR light-weight robot" by German Aeropspace Center、IEEE Robotics and Automation Magazine ,June 2004,pp.12-21から引用

 その外にも、Worker's third hand(作業者の第三の手)、Five minute robot programming、Plug-and-produceなどの概念に沿った色々な技術が発表されている。このうちPlug-and-produceとは、個別のツールやセンサをロボットに取り付ける(Plug)と、ロボットコントローラがその仕様を判断して、ロボットが直ぐに作業に取り掛かれるようにコントローラを自動的にビルド(再構築、produce)する仕組みである。これは日本の企業でも既に実施している例がある(Plug and play)。
 現状の産業用ロボットの利用がなかなか広がらないのは、プログラミングなどの生産準備に時間がかかり過ぎ、生産を短期間で立ち上げるのが難しい、生産の切り替えに時間がかかるなどが主な原因だけに、EUの取り組みは的を獲ている。特に、素人でも作業の教示が簡単にできる(究極的にはプログラミングレスできる)ようにするアプローチは筆者には新鮮であった(筆者はCGデータをベースにしたオフラインプログラミングで問題が解決できるのではないかと考えていた)。 しかし、SMEロボットがこの大問題を既に解決したとは言えず、未解決な問題が多く残っており、今後の長期の取り組みが必要とされるはずである。

 トヨタの現況2008の資料(インターネット)でパートナーロボット開発について解説があった。色々な活用のシーンについて開発コンセプトが書いてある。その中で、製造モノづくりでの活用シーンとして人とロボットが協力して作業をする場面のイラストがあった。車両組み付けの場面で作業者を重筋作業から開放するやさしさをパートナーロボットが実現してくれるということが読み取れる。ロボットがツールや部品の重量を支え、作業者がツールや部品を操って所定の場所に運んで組み付けるというような役割分担のようである。
 車両組み付けラインは現状では自動化率が最も低いラインの一つである。ここにロボットを導入して重たい部品(ウインドウガラス、ダッシュボード、シート、ドア、ホイールなど)を自動で組み付ける試みが既に色々とされてきた。ところがそのようなロボットラインでは、ある車種の生産量が減ったので他の車種を混流させたいと思ったときに、変更に時間と費用が多く掛かり、柔軟性に欠けることが判ってきた。(以上、1995年のNHKテレビより)。
 そこで、従来型の大型ロボットではなく、重たい部品を作業者が容易に扱うことができる操縦型の倍力装置(アシスト型ロボット)にすれば、人の柔軟性を生かして車種変更などに柔軟に対応できると考えたのではないか。これがパートナーロボットの生産ライにおける一つの姿というわけである。
 しかし、これはあくまでも人間の作業が中心の組み付けラインであり、自動化ラインではない。ロボットの作業を単なる倍力作業以外にも増やして、生産性を高めることを狙うならば、ロボットにどのような作業を期待するのか?この研究はなかなか面白そうである。これが更に進化して2025年くらいまでは自動化ラインが実現するのだろう。

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 米マイクロソフト社は、ロボット開発に本腰を入れるらしい。同社は2006年5月に、簡単な作業を行えるようロボットを制御するプログラム技術「マイクロソフト・ロボティクス・スタジオ」のプレビュー版を発表している。開発に取り組んでいるのは、総勢9人のチーム(2006年5月)である。WindowsでパソコンのOSの世界制覇を果たしたので、次はロボットのOSで同じく世界制覇を狙おうという意図か?マイクロソフトはロボット市場が、数十億ドル規模になるにはあと10年はかかるだろうと見ているので、このプロジェクトは新しい市場に対する先行投資だという。
 また、ITpro(2007.09.07)にマイクロソフトがロボットに本腰という記事があった。日本のロボット開発会社テムザックがマイクロソフトのロボット開発プラットフォーム「Robotics Studio」でロボット制御用ソフトウェアを開発し、大学などにRobotics Studioの採用を呼びかけるとのことである。

 ロボット先進国たる日本はロボットプラットフォーム構築の面でどのような準備をやっているのだろうか?多分、日本の色々な研究機関(官、学、企業)では、過去から現在まで米国と同等以上のロボットソフトウェア開発の実績があり、多くのソフトウェアをもっているに違いないが、世界標準に育ってゆくような進め方をしているのだろうか?それとも再び米国勢に先行を許してしまいそうな状況なのか?マイクロソフトがWindowsを世界標準にしたような進め方を、日本の何処かのメーカがやって欲しいものだと感じる。ソフトウエアシステムの開発は時間がかかる。だから、早く開始した組織が有利になる。
 産業用ロボットなどから成る生産設備に組み込む通信インターフェースソフトORiN)をロボット工業会が中心になって開発した成功例もある。この場合は大学と複数の企業が協力して作り上げた。
 しかし、ロボットオペレーティングシステム(ロボットOS)の場合は、さらに大掛かりなソフトウェアになる。大規模なソフトウェアを一貫した設計思想の元に作り上げてゆくにはどうしたらよいか?
 ソフトウェア開発ではアメリカが圧倒的に強いが、ロボットはパソコンの場合よりもソフトウェアがハードウエアに依存するところが多い。ロボットの利用経験では日本はアメリカをリードしてる。この経験を組み込んでゆけば世界標準も不可能ではない。
 
 よくロボットの開発には人工知能(具体内容が不明確)の研究が必要といわれるが、それはそれとして、それとは別に、パソコンにおけるWindowsのように、ユーザがロボットとその環境(周辺機器、パーツなど)を自由自在に使える環境がまだ出来ていない。マイクロソフトはそこに目をつけたのだろう。過去数十年の間に先行研究例は多くある。目標はよかったが途中で放置されてしまった開発例が多い。Stanford大学のAL言語、米国サンディア国立研究所のArchimedesなどすばらしいものも多い。マイクロソフトの研究開発が刺激になって、この分野のロボットソフトウェアの研究が活性化されることは大変に喜ばしい。

 追記:
 本ブログの06年06月21日の項で書いた「機械組立て手順の自動生成」や生産システム設計に関する自動プログラミングの研究(3DCGの活用など)と密接に関連してくるので、国家プロジェクトとしてやるべきとも思われる。これが完成すれば現在の産業用ロボットがもっている生産準備や変更に最大一年もの時間がかかるという欠点が解決でき、例えば最大一ヶ月くらいに短縮できればロボットによる自動化が一層広く展開するであろう。モノづくり先進国家を標榜する日本としては、このような面にもっと国家予算を当てて、世界に先駆けた技術を獲得し、将来の国の富の元を確保すべきではないのか?

 関節トルクフィードバック方式のアームの制御方式は、先回述べた3本指汎用ハンドの制御方式と同じである。3本指汎用ハンドでは一つの作業対象物体に3本の指が協調して接触し、安定に把持をする。接触時の接触力やバネ特性(コンプライアンス)を制御しているのに、実験では把持動作の動的な安定性はすばらしいものであった。つまり、接触から把持までの作業時間が数10msecというように非常に短いにも関らず、十分に安定に動作してくれるのである。このことから、物体との接触作業を目的とする場合には、関節トルクフィードバック方式は大変有効であるという認識を持った。
 現在、いわゆる力を制御するロボットアームはアームの手先に取り付けた力センサで反力を検地してフィードバックし、力やコンプライアンスを制御するのが主流であるが、接触作業の高速化や複数アームの協調作業に対しては、関節トルクフィードバック方式も大きな可能性を持っていると考えられる。剛体接触を伴う作業の制御安定性は関節トルクフィードバック方式がはるかに優れている(参照:"Development of a Fast Assembly Robot Arm with Joint Torque Sensory Feedback Control"、Proc. of the IEEE International Conference on Robotics and Automation 1995 ,pp.2230-2235)。もっと、開発研究を進めるべきではないのか? 
 また、関節トルクフィードバック方式は安全性の面からも有効である。関節トルクフィードバック方式では、アームのどの部分が人間に接触しても感知して停止するまたは回避することが可能である。手先センサ方式ではそうは行かない。また、最近、トヨタや日産がラインに導入しているダッシュボードユニット・ローディング用のバランシングアームのような仕事をさせることも可能はずである。
 アーム関節トルクフィードバック方式は現在の産業用ロボットの構造には直ぐに応用することができず、構造の大幅な変更を余儀なくされる欠点はあるが、日本でも、もっと研究されてしかるべきだと思う。

三本指汎用ハンド

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 物体とアームとの接触力を制御して作業をするロボット要素部品に汎用ハンドがある。汎用ハンドの研究の歴史は古いが、実用になってはいない技術の一つである。汎用ハンドの生みの親は当時MITのAI(人工知能)研究所の研究員であったJ. Kenneth Salisburyであろう。

 汎用ハンドは一定形状の部品だけではなくて、多種類の(極端にはどんな形状の)部品でも把持でき、かつ操れることを目標としている。人のように5本指あればベストであろうが、3本指(計9自由度)あれば把持物体の位置決めと操り(姿勢変化)が可能になる(図1)。

 図1:(株)豊田中央研究所が開発した3本指汎用ハンド。指の関節(9箇所)のトルクを制御することで間接的に指先の把持力を制御できる。駆動モータとハンドを一体化した設計に特徴がある。(引用文献1:三村宣治、多関節型ロボットハンドの制御技術、センサ技術、1991年12月号(Vol.11.No.12))

 しかし、生産ラインで実用になっていないのは何故であろうか?
 いろいろな理由が考えられる。
 第一の理由は、現状の汎用ハンドでは把持の教示が煩雑なことである。物体を掴むときの教示に時間がかかってしまう。これが欠点である。任意姿勢の物体を自動で掴むためには、把持動作の自動化などの研究が望まれる。
 現実の工場では多種類の部品を組み付ける必要があるロボット化組み立てセルなどでは汎用ハンドは使われていない。多種類の専用ハンドを切り替えて使っている。

 第二の理由は汎用ハンドの価格であろう。3本指で9自由度を操るために1本指当たり3軸、3本指で計9軸(=9自由度)のサーボ系が必要になる。当然、価格は高くなる。

 9自由度ではなく1自由度の平行4本指(計4自由度)で実用化した例(写真1)があるが専用ハンドであり、汎用性は低くなる。


 写真1:カーエヤコンの上蓋を把持する4自由度の専用ハンド(デンソー西尾工場カーエヤコン組み立てラインを紹介した中部日本放送のTV画面から引用)


 汎用ハンドの実用性を追求した研究例がある。多種類の自動車部品をそれぞれのパレットの中から一個ずつ取り出して、別パレットに一セット分整列する研究である(図2、写真2)。この場合にはパレットの中の部品の姿勢は一定であり、部品の中心座標に対して部品を把持する指の位置姿勢を教示しておく。この方法により、多種類形状の自動車部品を、姿勢変化なく正確にかつ高速に把持、搬送、パレタイズすることができた。現状の技術レベルでも、今後さらにハードウエアの信頼性を高め、教示の簡単化に成功すれば、例えばセット部品の箱詰め作業とか、組み立てラインへ供給する部品の配膳作業などをロボット化できる可能性は十分にあると思う。

 図2:自動車部品(最大重量5Kg)をパレット1から2へ
    移動する作業(引用文献1、上記参照 )


 写真2:実部品を把持する様子、指の先端だけでなく、第1、第2関節や手の平(3本指の付け根にある黒いダボ)も物体に接触して把持している点に注意。(引用文献:久野敏孝、産業用 ロボットのセンシング技術、平成4年電機学会産業応用部門全国大会で発表)

 この実験では数キログラムの部品を掴むために、ハンドの設計を見直して、ギヤ駆動方式の新しいハンドを設計した(写真3)。減速機にはハーモニック減速機を使い、軸ごとに設置されたトルクセンサから関節トルクフィードバックを行っている。

 写真3:ワイヤケーブルを使わないギヤ減速型の3本指汎用ハンド(1本ごとにモジュール化)。指の関節(9箇所)のトルクを制御して間接的に把持力を制御する。システム性能は,ハンド重量5.5kg,最大可搬重量約10kg,指先力分解能約±200gである。(引用文献2:三村宣治、3本指ロボットハンド、豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.28 No1(1993.3

 機械組み立てには力サーボは必ずしも必要ではなく、位置制御ロボットに力センサを持たせて、接触時の反力をモニタしながら、閾値に達したら移動を止めるというやり方でよい場合もある。力センサを使わなくてもモータの駆動電流をモニタしながらやる場合もある。組み立て自動化の現場では、現実にはこのやり方が多く使われている。しかし、探り動作が必要なので、作業速度が遅くなる可能性はある。

 ロボットのツール端を環境に剛体接触させる場合、インピーダンス制御とコンプライアンス制御という二つの代表的な方式がある。これについてはRobotics Research社のWebサイトにわかりやすい説明が載っているので、それを以下で紹介する。

 Robotics Research社のR2ロボット制御はツールが力を発生するやり方としてインピーダンス制御とコンプライアンス制御の二つの方式を提供する。
 これらの二つの制御方式ともロボットツール端の動きが、ツール端の6自由度それぞれの方向にspring-mass-damper(ばね-質量-ダンパ)系になるようにまねる。(こうすれば接触時に環境またはロボット自身を破壊する恐れはなくなる。) このときツールや持っている部品(ペイロード)に働く重力の補正が当然必要になる。
 機械組み立てやグラインディング作業、磨き作業、ばりとり作業などは比較的高速で行われるので、過渡的に大きな接触力を伴うが、このような場合にはインピーダンス制御を採用する必要がある。インピーダンス制御はロボットのツール端が剛体である環境に対して安定な接触を維持するに必要な高い周波数応答性を実現できる(注1)。インピーダンス制御は各関節にトルクの発生を指令できるサーボコントローラを必要とする。したがって、ダイレクトドライブ(減速機なしのモータ駆動)かまたは関節トルクの検出センサを備えたマニピュレータのみがインピーダンス制御の対象になる(注2)。
 コンプライアンス制御は低ゲインかつ低応答特性でもよい用途向きである。この場合、接触安定性よりもアームのツール端に装着したセンサの6軸方向でより高精度な力計測が重要となる。質量および慣性主軸の計算はツールとペイロードの位置関係とロボットアームの質量と慣性によって決まる。

注1:ロボットの手先にセンサを持って接触力を制御する方式では安定な接触状態を維持することが難しい。ハンチング現象を起こしやすい。安定化するためには低ゲインにせざるを得ず、低応答性でも良い用途向けとなる。

注2:一般的にはインピーダンス制御というとロボットのツール端にセンサを装着した構造を含める。この場合には、理論的には環境側から見たロボットツールのインピーダンスを、ツールのバネ特性(コンプライアンス)や粘性特性(ダンピング)だけでなく、慣性特性まで含めて制御できる。理論的にはそうであるが、実際には手先にセンサをつけると、剛体接触時の安定性が低下する。したがって、Robotic Research社では、インピーダンス制御の場合には手先センサを使わない。このために、環境側から見たロボットツール端の慣性特性は制御できない(ロボットアームの慣性そのものとなる)。制御できるのは接触力の他にはコンプライアンスとダンピング特性だけとなるが、接触時の安定性は高くできるので、コンプライアンス制御とはいわずに、インピーダンス制御といっていると思われる。


 機械部品の組み立て作業の殆どは部品同士の接触状態を作ってゆく作業である。したがって高速かつ安定に接触状態を作れるアームがあれば組立作業に有用のはずである。専用の治具やツールに頼らずに組立てができる可能性がある。
 それがなかなか実現しないのは高速かつ安定に接触状態を作るのが難しいことが一つの原因になっている。高速安定接触を目指して開発されているのが関節トルクフィードバック型のアームである(アームの手先に力センサを装着する方式では高速安定接触は期待できない)。ここ10数年の研究例には米国Robotics Research社の7軸ロボット、German Aerospace Centerの6軸ロボット、豊田中央研究所の高速組み立て用6軸ロボット、米国スタンフォード大学の
Macro-Mini Actuationアームなどがある。それぞれ高速接触時の安定性の実現に成功している。

  写真:"Dexterous Manipulators" by Robotics Research社、1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用

 米国RoboticsResearch社はNASAとの関連がある開発会社であり、いまでも研究開発を続けているようだ。このロボットの用途の一つは宇宙空間での機械装置の組み立てであろう。

  写真:"DLR light-weight robot" by German Aeropspace Center、IEEE Robotics and Automation Magazine ,June 2004,pp.12-21から引用


  写真:(株)豊田中央研究所の"Fast Assembly Robot Arm"(6軸)、Proc. of the IEEE International Conference on Robotics and Automation 1995 ,pp.2230-2235 から引用

 参考:コンプライアンス制御型高速組立ロボットの開発、第12回ロボット学術講演会(平成6年11月20日、21日、22日)、前刷り p.1099-10100

 関節トルクフィードバック型のアームは構造的には現状の産業用ロボットより複雑・高価になることもあって、日本のロボットメーカは開発をしていない。しかし、いつまでも現状の位置制御型ロボットのままでは将来は切り開かれない。関節トルクフィードバック方式でしっかりした商品造りをして機械部品組立てなどで広い適用分野を切り開く必要がある。そのためにはきめ細かい構造設計と改良を引き続き積み重ねる必要がある。

 

 機械組み立て用のロボットがなかなか現れてこないのは、制御技術が出来ていないためばかりではない。仮に技術的に出来たとしても、ロボットを使わない設備と比較して優位差は何かが明確でなければならない。製造コストなのか?製品品質なのか?他の製造方法では実現できない製品構造なのか?非人間的労働から労働者を救えるのか?などなど。

 現在のロボット方式の生産ラインで成功しているケースで見られる優位さには、例えば
  製品品質が作業者のラインよりはるかに高い(品質検査のオンライン化)
  人間ならばストレスで耐えられない多品番流動が可能になる
  生産コストが作業者よりも安い
 などがある。

 また、このような設備を安全に稼動させる環境(インフラ)が工場に無ければならない。それらは、
設備が現場レベルで見て使いやすいか、設備の維持・管理が現場レベルで出来るか?など多くの観点で合格しなければならない。
 ある程度の大量生産品で、比較的長期間生産が継続するというような好条件があって始めて可能になる生産システムでもある。
 大部分の家電製品などはこのような好条件は無いので、国内の数分の1で生産が出来る中国などに生産ラインを引くことになる。この生産をコスト面で下回るレベルでロボット化できる技術は現在のところ無いようだ。

 物体との接触力を制御する制御方式に関しては、だいぶ古くなるが、1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsに性能比較映像が載っている。Case Western Reserve Universityが「Recent Research in Impedance Control」と題して具体的に色々な方式のメカニズムとセンサをつかって実験によって力制御の性能比較をしている。このうち下記の1)、3)はアームのどこを押してもアームが動くのに対して、2)は手首に装着してある力センサより先を押せばアームは動くが、それ以外のアームを押しても動かない。アームが人を押しつぶすというような危険性が無いだけ安全性は1)、3)が高いといえる。

1)Simple stiffness control without force sencing
(米)Adept Inc.のダイレクトモータ駆動の水平多関節型ロボットを使用)
 ダイレクトモータ駆動のため力センサは不要である。減速機を使わないので、関節に摩擦トルクの外乱が少なく(関節軸受けの摩擦トルクはある)、関節の機械剛性も高く、関節のStiffness(剛性)制御(注1)が安定している。制御の動特性が高いので外部の物体(剛体)に比較的高速で接触(衝突)しても安定して接触が続けられる。ただし、衝突時にアームの慣性力がショックとして発生する。また、モータが大型、かつ重いので垂直多関節型のロボットに適用するのは実用的ではない。

注1:Compliance(やわらかさ)制御とも言う。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。アームを手で押し引きするとバネのような反力が得られる(写真左)。カーブ状に切った板(木製?)に接触(衝突)後、カーブに沿って滑らかに移動できる(写真右)。


2)Feedback from wrist force sensor
  GEP50ロボット(日立製のプロセスロボット(垂直多関節型)のOEM?)を使用している。ダイレクトモータ駆動ではなく、減速機を使っているので、摩擦トルクが存在し、電流制御だけでは関節のトルク制御が出来ない。そこで、手先に6軸力センサを装着し、接触反力をフィードバックして接触力制御(正確にはインピーダンス制御)をしている。センサとモータの間に複数の関節、減速機が存在するので、それらの摩擦特性や低機械剛性のためにモータとセンサ間の固有振動数は低くなり、制御の動特性は低くなりがちである。制御の応答性を高めようとしてフィードバックゲインを高めると、剛体との接触時に自励振動が発生してしまう。実験では遠隔操作(エミュレーション)で機械部品の組み立てを成功させているが、安定した動作ができる手首負荷慣性の範囲が狭いと報告している。長所は手先センサを用意するだけでよいので、構造が簡単で製造コストが安いことであろう。力制御やインピーダンス制御の殆どの研究例がこの方式を採用している。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。手先に持った部品を指で押すとバネのような反力が得られる(写真左)。断面が△形の部品のオスガイドをY形部品のメスガイドに滑らせながら挿入しているが、動きが少し振動的になっている(写真右)。

3)Senced torque feedback
  (米)Robotic Research 社の7軸垂直多関節型ロボットを使用
  2)の例の様に手先から力トルクをフィードバックするのではなくて、各関節のトルクをフィードバックして減速機に存在する摩擦トルクを減らす方式を採用している。これにより、間接的にダイレクトドライブ方式が実現できる。Robotic Research 社のロボットは関節の減速機にハーモニックドライブを採用してコンパクトなスタイルを実現している。ビデオによれば安定した剛体接触(衝突)動作が可能であり、外部環境へスムースに倣い動作している(注2)。ハーモニックドライブは100対1前後の高減速比が1段で得られる軽量でユニークな減速機であるが、摩擦トルクが比較的大きくかつ機械剛性が低いので、どの程度の実用性能が得られたのか詳細は不明である。
 この方式は各関節にトルクセンサを組み込む必要があるのでアームコストが高くなる。しかし、モータとセンサを近くに配置できるので、トルクフィードバック系の機械剛性は上記2)の方式よりも大きくでき固有振動数も上げやすくなり、トルク制御の動特性は高くできる。したがって、アーム先端が環境物体に接触するときの制御の安定性は高くできる。一方、力センサがツール端にないので関節の軸受けに発生する始動摩擦トルクなどが原因となり、接触力の制御精度は若干低くなる。

注2:アームの評価を行ったCase Western Reserve Universityの研究者によれば、接触時の安定性は「驚くべきもの」であったとのことである。

写真: 1991IEEE International Conference on Robotics and Automationで配布されたVideo Proceedingsから引用させていただいた。アームを手で押し引きするとバネのような反力が得られる(写真左)。アーム先端に持たせた電球を平面に倣わせてスライドさせている(写真右)。アーム先端でなく、どの軸を押し引きしてもアームを動かすことができる(写真では7軸のうちの第5軸を掴んで操作している)。

 アームが環境物体に接触する時の反力を制御できる力制御ロボットの研究はロボット研究の歴史の中で大きな分野を占めてきた。しかし、そのような研究にもかかわらず力制御ロボットが工場で実用化された例は殆ど無かったといってよい。最近ファナックから発売された「NC機械にワークをロードアンロードするシステム」は6軸力センサをツール端に装着しているので、日本で商品化された初めての力制御型アームの可能性はある。しかし、力サーボではなく、単なる力モニタを可能にした位置制御ロボットであるかもしれない。
 何故、力制御型ロボットが実用できていないのであろうか?
 原因を考察してみる。

 力制御ロボットアームに期待したい仕事には、今まではばり取り作業や磨き作業などがあった。しかし、力制御アームを使うと現状では力制御の動特性が低いので、多くの場合望みの品質が得られなかったり、できても作業速度が遅くて実用にならなかったりする。応答性が低くても作業を成功させるためには、個別の仕事にあわせてアームの動きを調整する必要が出てくる。例えば磨き量を一定にするために磨き工具の接触・離脱にあわせて接触力を調整するとか・・・。つまり、単に力制御すれば良いというのではなくて、少し知的な動作を組み込む必要が出てくる。この個別のプログラミングが難しくて、力制御が敬遠されていることがあると思う。

 ばり取り作業は力制御のロボットアームなどを使わなくても、多くの場合位置制御だけで実用化されている。磨き作業などでは対象への押し付け力の制御をロボットアーム制御ではなく、アーム先端につけた専用ツールでやる方法もある。この方が力精度、応答性が高く実現できる。

 力制御ロボットアームに期待したい他の仕事としては機械部品の組み立て作業がある。組み立てる部品同士の接触状態を制御して組み立てることが出来れば、人のように組立てることが出来るはずである。しかし、実際にはこの方法では前記の磨き作業の場合と同様の理由で機敏に組み立てることが出来なくなる。したがって現状では、産業用ロボットで機械を組み立てる場合には人間とは異なったやり方で力制御を使わずに実現されている。産業用ロボットは部品などを人よりもはるかに高精度に位置決めできるので、視覚や触覚、力覚が無くても、治具やツールを工夫すれば部品を正確に掴んだり、精度良く組み合わせたりできる。商品寿命が数年から10年ほどもある部品(例えば自動車のエヤコン)の組み立ての場合には、設備にお金がかけられるのでこのような方式で実現されている。

 まとめると、現状では力制御アームの出番が少ないということになる。
 個別の仕事ごとにアームの動き(場合によっては制御特性)を調整する必要があり、汎用性に欠ける。このプログラミングが難しくかつ面倒なために力制御が敬遠されていることがあると思う。将来力制御を有効に使うためには制御の一層の高速化と同時に、プログラミングが簡単に出来るような研究が必要であろう。

 11月8日の日経産業新聞にファナックの稲葉社長へのインタビュー記事があった。新しいロボットのアプリケーションとして「ワーク(加工物)の自動供給などで工作機械を24時間稼動するシステム」をアッピールしていた。「(知能化した機能によって)ロボットを使ったことにない顧客に、搬送装置などの周辺機械がなくても導入可能。日本で稼働中のNC工作機械は50万ー60万台あり、各機械に一台ずつロボットを組み込めば膨大な市場になる。もっとも力を入れるべき分野だ」というわけだ。
 ここでの「知能化した機能」とは「通い箱中に適当に並べられたワークを、3次元視覚装置でその位置と姿勢を認識して正しく掴む」機能とか、「ワークを工作機械へ装着する際に必要なロボットアームの力制御またはコンプライアンス制御などができる」とか言うものであろう。
 筆者の興味は、特に力制御またはコンプライアンス制御がどの程度の性能に仕上がっているのかということである。自動車部品組み立てラインでの組立作業のようなのような速い作速度を要求される用途で使えるレベルに仕上がっているのだろうか?

 トヨタ自動車がロボット開発部をつくり、色々な用途のロボットの試作を始めていることが新聞などで報道されている。2006年1月4日の日経産業新聞によれば、その開発戦略は「人のそばにいて助けてくれる知能機械、パートナーロボット」の開発であり、また「道具を使えるロボット」の開発といわれる。
 ここで「道具を使えるロボット」というのはなかなか重要なことを言っていると思う。人間は道具を使う動物であり、それによって今日の繁栄を獲得してきた。ロボットが道具を使えれば、例えば重くて大きな物体を扱う場合、今までのように人間が接近するのが危険な大型のロボットを使う必要は無くなる。今まで人間が扱ってきたクレーンやバランサーなどの道具をロボットが使えれば、ロボット自身は人間のように小型で非力なもので十分ということになる。小型で非力なロボットならば、人間のそばにいても怖くは無いわけである。怖くなくて安全ならばもっとロボットを使おうという場面が増えてくるだろう。しかし、普通に考えるとこれは中々難しそうだ。どのようなアイディアを見せてくれるだろうか楽しみである。

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 日本機械工業連合会と日本ロボット工業会が作成した「平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書(要約版)」では、ロボット技術に対する産業界の閉塞感について触れている。サービスロボットなどが社会的にブームになっている反面、市場展開が進まない点を指摘している。しかし、それは産業界だけではなく、研究者の間にもあるのではないか。現在のサービスロボット研究だけでなく産業用ロボット研究についてもいえる。
 かって産業用ロボットが工場に入っていったとき、アカデミックの研究成果がどれほど取り入れられたであろうか?莫大な量の研究論文が日本に限らず、世界的に作られたにもかかわらず、現実の工場でそれらの成果が使われているのは下表にも示されているようにまだわずかである。
 日本の産業用ロボットが世界的に見ても高度な性能を維持できた大きな要因は、ロボット研究の知能化を目指した研究よりも、現代制御理論をアームの運動制御やモータのベクトル制御に適用したアカデミックの研究であったと思う。
 一方、その他の多くの研究成果は利用されずに棚に眠っている状況である。何故、こんなことが起こっているのであろうか?私は、サービスロボットはもちろんのこと、産業用ロボットでも過去の研究成果をもっと利用して発展させる余地が大きいと思っている。これについては今後個別に分析検討してみたい。

表:平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書(要約版)から引用

 現在の産業用ロボットでは難しい組立て作業の例としてしばしば挙げられるのは、変形しやすく正確に掴みにくい対象物の扱いである。たとえば、ワイヤーハーネスとかゴムパイプなどがある。このために、ロボットにはやわらかいものを掴めるハンドだとか、それらの部品の変形を認識・計測できる視覚機能をの開発が必要だという結論になりがちである。このような前提に立つと、それらの機能ができるまでは機械組み立ての自動化は困難になってしまう(注1)。
 実際の現場では現在の産業用ロボットで自動化できる作業と困難な作業を切り分けて、自動化できない作業はまとめて人間の作業者が組み立てるライン構成にする。つまり、ロボット化組立てラインと作業者用組立てラインとを適切に分離することでロボット化を進めている。 ロボットが組み立てる部分、人が組み立てる部分などをそれぞれが組み立て易いように考慮して製品設計することが成功のキーになる。

 注1:力覚や3次元視覚を持ち、色々な形状を持つ部品を正確に把持できるロボットは現状では高価格で、作業速度が遅く、かつ信頼性に欠けることが問題である。組立て作業のような作業付加価値が低く、数秒単位のすばやい作業を要求される現場ではなかなかペイできない設備となってしまう。しかし、作業速度が比較的遅くてもよい作業などには、ファナックなどで導入が始まっている。

ORiN

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 しかし、当面は現在の利用可能な技術を使ってコンピュータ化できるところを徹底的にコンピュータ化してゆくことになる。ロボット工業会が中心になって開発したORiN(Open Robot/Resource interface for the Network)システムもその一つであろう。ORiNは一種のインターフェースと思われる。複数メーカ製のロボット、センサ、加工機、PLCなどが混在した大規模、複雑な生産ラインのプログラミング、デバッギング、モニタリングを、統一したプログラミング環境下で行おうとするものであろう。ラインのライフサイクルにわたって、既有の設備やプログラムを再利用して、ラインの短期立ち上げ(=生産準備期間の短縮)も可能になる。 ORiNと3次元CGを利用したロボット/生産ライン・シミュレータなどと組み合わせれば、新設設備の準備期間の時間短縮にも効果がありそうだ。
 ORiNはあくまでも設備指向プログラミングのシステムであり、プログラミングの全自動化を目指したものではないことはもちろんである。

図:ORiNの考え方(デンソーテクニカルレビューV0l.10 No.1 2005から引用させていただきました) ORiNとは「FA機器を対象にしたソフトウェアインターフェース技術」であり、ロボットやPLCなどの機器を抽象化し統一的・透過的なアクセス手段を与える。ネットワークに接続されたWindows PC上で動作する。

 ロボットによる組み立て作業手順が、Archimedesのようなソフトで自動生成されたとしても、そのままで組立て作業が成功することは難しいだろう。実際の部品、ツール、冶工具などの寸法とCAD図面寸法との間に誤差があるからである。そこで、実際には組み付けを成功させるために、たとえば

 1)組みつけ方を工夫する:
 たとえば嵌め合い動作が成功しやすい姿勢や移動軌跡に変更する。人間が穴に棒を挿入する場合には、棒を斜めに穴に差し込んでから押し込みながらまっすぐに戻すような手順をとる。これをロボット動作にも応用する。
 2)ツールまたはアームの制御を工夫する:
 ツールを使う良く知られた例としては
RCC(Remote Center Compliance)デバイスを使って、精密嵌め合いを可能にする。ただし、RCCは実際の現場であまり使われていないのではないか。それよりも、作業ごとに個別のコンプライアンス機構を用意する場合が多いのではないか。その他には、コンプライアンスツールを使わないで、ロボットアーム自体をフローティング(=接触外力によってアームが逃げる)させる方法がある。アーム駆動モータ電流の上限値を(静止時の)現在の電流値に制限することで、精度はあまり高くは無いが、比較的簡単に実現できる。これはスカラ型ロボットなどで水平回転方向の軸の位置サーボに適用されることが多い。
 3)力覚センサや視覚センサを利用する:
 センサを使って寸法誤差を補正する動作をさせる。

 これらは組立てをする際のスキル動作というべきものであり、組立ての手順計画(Archimedesなど)にスキルソフトウエアを適切に組み合わせるソフトウエアが完成しないと、組立て計画手順発生ソフトウェアだけでは、生産準備の短縮化は完成しない。ここまでやった実例はまだないと思われる。

 Archimedesと同様な成果を目指した研究内容の論文例が他にも見つかった。

 1.A System for Automatic Planning,Evaluation and Execution of Assembly Sequences for Industrial Robots(U. Thomas ,他、University of Braunschweig,200X年)

 2.3次元CADデータ駆動型自律組立ロボットセルシステム(小島 他、リコー生産技術研究所、1998年)

 これらがその後、画期的な成果を挙げているという様子も見られないので、まだまだ実験室段階の成果と思われる。実際のラインで成果を出すには、まだまだ未解決な問題が多いと思われるが、企業は実用化に向けて熱心に取り組むべきと思う。現状では日本は欧米のレベルから相当に遅れているのではないか?このようなソフトウエアシステムの開発に関しては日本はまったく弱い。また欧米製のソフトウエアを使う羽目になるのかもしれない。小生の心配は杞憂で、日本の企業が既にしっかり取り組んでいることを願うのみ。

 組み立てたい製品のCADデータから組み立て用ロボットの動作を発生させるシステムがあれば、ロボット組立てセルを短期間で立ち上げられる可能性が出てくる。
 製品のCADデータから組立て順序を自動生成する研究開発について米国の事情を調べてみた。米国では「Archimedes
(アルキメデス)」というAutomated Assembly Abalysis ソフトウェアの開発が進んでいるようだ。1995年頃に米国のサンディア国立研究所(場所:アルバカーキ)が機械部品の組立て手順を自動生成するソフトウェアArchimedes 2 の論文を発表しているのは知っていた。それから10年以上の継続的研究の結果、相当使えるレベルにまで来ているようだ。現在はArchimedes 4 か? 電子制御箱などの組立て手順の解析結果がアニメーションで紹介されている。
 Archimedesは無数に存在する組立て順序の中から、ユーザが与える制約条件を満足する組立て順序を提案する。フレキシブル治具を使ってワークを固定する方法も提案できる。さらにハンド、ツール、治具の形状、組立てステーションの形状などを考慮に入れてロボットの動作を計算させることができる。
 ただし、Archimedesのようなシステムが実際に効果を発揮できるためには、前提条件として、部品や生産設備、ツールなどがCADのサーフェスモデル(またはソリッドモデル)で用意されること、およびCADデータから作られた実要素部品の寸法が所定の精度内に管理されていること、が必要である。
 そのような生産準備基盤を確立するのは容易なことではない。しかし、得られる効果を考えれば、優先して開発に取り組むべきテーマであると思う。

 参考:サンディア国立研究所にはISRC(Intelligent Systems & Robotics Center)があり、そこで研究が行われている。米国では国立研究所が中心になって研究開発を実施し、途中から民間企業と共同開発を進め、民間企業から商品として発売されるという例は多いようだ。

 これまで述べたように、組立て作業記述による生産ライン(またはセル)の制御の自動プログラミングは研究が進展しておらず、できるようになっていない。相変わらず人がプログラムを作成するしかない。この作業を生産ラインシミュレータやロボットシミュレータなどを使って支援するというのが現在のレベルであり、このレベルでは生産準備時間を家電製品や一部の自動車部品などに要求されているレベルにまで短くすることは絶望的である。
 
 生産準備の仕事を簡単化して列挙すると(実務の経験がないので筆者の想像である)、
 1)生産条件の決定(製品の種類、生産量、生産コスト、生産準備時間など)
 2)生産ラインの工程設計
 3)設備設計と設備製作
 4)設備の設置
 5)設備の制御準備(ロボット、PLCなどのプログラミングなど)
 6)試運転とデバッギング
 7)生産の立ち上げ

 これらのうちでロボットなどの作業プログラミングに関連するものは、2)、3)、5)であろう。これらをコンピュータ支援のもとで手作業で行うことになる。
 コンピュータ支援は
生産ラインシミュレータロボットオフラインシミュレータを利用して行う。ロボットオフラインシミュレータを利用するには、製品(部品)や設備の3D-CADモデル(ソリッドモデル)が準備されていることが前提条件となる。部品間の接触や衝突を検出するために部品のソリッドモデルが必要なためである。現実にはこれらが準備されていない場合の方が普通で、そのような設計インフラをまず作ってゆく必要がある。このようなインフラがあって初めてコンピュータによる生産準備支援システムが有用になる。
 

 生産設備準備のリードタイムを短縮するための研究には長い歴史がある。現在の産業用ロボットの原型であるVicArm(後にPumaロボットとしてUnimation社から発売)も、もとはといえば米国Stanford大学Computer Science Departmentの研究者たちが1970年当初に機械組立て作業の生産準備時間の短縮を目指して始めた"AL,A Programming Sysytem for Automation"の研究過程で生まれたものである。
 ALの成果は現在の市販ロボットの言語の原型となったVAL(Pumaロボットの言語)で結実した。しかし、ロボットの動作を明示的に記述するレベルの機能(ロボット指向プログラミング)しかないVAL、または対象物の動きを明示的に記述するレベルの機能にとどまっているALレベルの言語では生産準備のリードタイムを低減するのにわずかな効果しかない。

 理想的には生産準備のための人間の頭脳作業を全部コンピュータ化すれば、準備時間は限りなくゼロに近づけられる理屈であるが(実際には設備の製造・設置に時間がかかるのでゼロにはなりえない。ストックされている設備を再利用すれば、設備の設置時間だけにすることはできる)、現実には技術はそこまではとても到達できていない。キーテクノロジはロボットの動きをプログラムするロボット指向プログラミングではなく、作業の最終目標を与えるとそれを実現するロボットの動作を自動的に発生してくれる作業レベル(または作業指向)プログラミングである。 研究例は古く、1977年にIBMからAUTOPASSシステム(Lieberman および Wesley)が発表されたが、その後は研究が中断されている。

 今まで紹介してきたロボット化組立てライン、ロボット化組立てセルはそれぞれの製品に対して利潤を生んでいるが、いかなる製品に対しても適用できるわけではない。現状では新しい製品の組立てラインを立ち上げるまでに、高度な能力を持った技術者が取り組んでも、生産準備に数ヶ月から1年程度の期間を必要とする。したがって、3から4ヶ月程度の短期で生産が終了するような製品や、いち早く生産を立ち上げる必要がある場合にはロボット化組立てライン(セル)は対応できない。情報家電のように、近年急激に生産完了期間が短縮(3から4ヶ月)されてきた製品には、組立て自動化ラインは廃止され人が組み立てるセル型生産システムに切り替わってしまった。しかし、人手を使った組立てでは、製品品質は下がらざるを得ない。このような生産形態に対応できる新しい技術開発が待たれる。
 米国でAgile Manufacturing(すばやい生産準備)という言葉が提唱され、それに対して色々な
プロトタイプが提案されてきたが、どの程度成功しているのだろうか?

 これは月産5万台以下の機械部品組立て用にデンソーが開発した全自動化組立てセルである。IDEC社の例のように多数のハンド(またはチャック)を持つ回転タレットをロボットに持たせて、一気に複数部品を組み付けるのではなく、製品循環システム(Work Circulation System)を使うことで、同じ部品の組み付けを製品1ロット分連続で行い、ハンド交換などのロスタイムをロット数分の1に短縮している。製品パレット群が複数回循環することで全部品の組みつけが完了する。このようにして従来、一人の作業者が組みつけていたものを全自動化した。1996年に小型船舶・農建機に用いられる小型ディーゼル用の噴射ポンプ(D型ポンプ、月産2.5万台)に適用し、生産性を3倍高めることができた。

 このセルの他の重要な特徴は、複数の部品を組立てロボットアームへ供給する自動保管棚(Warehouse)を備えていることである。保管棚に付属している自動取り出しアームが指定された部品を保管棚から取り出して、ロボットアームに供給する。狭い組立てステーションに多部品を供給するという問題が解決されている。

図、写真:Circular Asembly Cell(参照:"ミニ組立て工場-Circular Asembly Cell-" デンソーテクニカルレビュー Vol.9 No.1 2004)

 デンソーのカーエヤコン組み立てロボットラインのような多種大量生産ラインではなく、1から3台の小型ロボットを中心として構成される全自動「多種少量生産組み立てセル」で成功している例が、2006年4月14日の日経産業新聞に紹介されていた。IDEC社の「非常停止スイッチや制御用リレーなどの部品の組み立てセル」がそれである。2000年に稼動開始し、現在16セルが組み立てを行っている。5年間で累計1900万個の制御機器を製造した。今後2年以内にさらに100セルを導入する計画だそうだ。単純計算をすると1セル当たりの月産量は平均約2万台((注1)となり、全自動化設備としては生産量は少なく多種少量生産だが、製品生産寿命は長いと思われる。このような生産形態に対してはロボット化セル生産システムは有効であることが証明された。
 特徴は一度に多くの(最大20個?)部品をつかむことのできるハンドまたは"つめ"を持った回転型ハンドを搭載していることである。一度に多くの部品を把持し、一気に組み付ける。ハンド交換をなるべく少なくして交換のために発生するロスタイムを減らした。また、部品搬送用の部品供給モジュール、組み立て途中の製品を保持する治具モジュールなどを標準化している。各モジュールは順次最新のものに入れ替えて、1時間当たりの生産台数は当初に比べ、約2倍することができた。モジュールを交換すれば、生産切り替えにも短時間(10~30分)で対応できる。

写真:IDEC社の組み立てセル(日経Tech-On(Webページ、2005年11月17日)から引用させていただいた) 


注1:手組みか自動化かを決める限界月産量は、製品の構造によっても変わると思うが、デンソーの場合月産5万台が目安になっている。IDEC社のロボット化セル生産システム場合はこの半分以下でも成功していることになる。デンソーでもロボット化セル生産システム("ミニ組立工場CAC-Circular Asembly Cell" デンソーテクニカルレビューVol.9 No.1 2004)は開発・運用されているが、月産量については不明である。


 ある程度の生産量が保証されるならば、汎用ロボットを使った組み立てラインは人間による組み立てラインよりも多くの利潤を生むことができる。このような分野では汎用ロボットの競争相手は人間ではない。むしろ、汎用ロボットを使わない専用組み立て機械が競争相手であろう。たとえば、電子部品のインサータ(チップマウンター)などは、汎用ロボットを使わずに、専用の組み立てモジュールとして設計されている(注1)。このような専用設備が自動車部品組み立てに対しても低価格、高速組み立てを実現できれば、手ごわい競争相手になるかもしれない。
 汎用ロボットを使った設備の強みは何であろうか?やはり、生産変動へ対応するフレキシビリティであろうか。今後、汎用ロボットを使った組み立てラインがどのように進化してゆくか、大変に興味深い。

注1:ロボット工業会はインサータをロボットとして分類している。

写真:日立ハイテク製の高速チップマウンター
(日立ハイテク社のホームページから引用)

 ロボットによる組み立ては、ロボットアームが周辺設備と協調することで初めて可能になる。組み立ての能力を高めるにはロボットアームと周辺設備から成るセル(組立てロボットモジュール)の能力を高める必要がある。ロボット能力が十分に高ければ周辺設備は簡単で済むが、ロボット能力が低い現状では周辺設備で補うしかない。現状では、この周辺設備の価格がロボットの価格の数倍もかかるから、ロボットを高機能化して周辺設備を簡単化したいところだが、これがなかなか難しい。だから組み立てやすい製品形状に設計したり、周辺設備をモジュール化、標準化し、再利用を可能にするなどして設備コストを下げているのが現状であろう。

図:デンソーウェーブ(株)が説明するセル(組み立てモジュール)
  セルを複数台結合すると組み立てラインができる。

 自動車部品製造では過去20年以上ロボットによる組み立ての自動化を研究、実施してきている。製品寿命が比較的長いので、家電製品の最終組み立てラインのように撤去されてしまうことは無かった。
 カーエヤコンのロボット化組み立てラインに関してはデンソー(西尾工場)の例がある。このようなロボット化ラインが運用を継続できたのは、今までの経営環境の中でそれなりの存在価値を創造してきたためであろう。作業者では対応できないような多種、高頻度品番切換生産(生産の平準化対応)のもとで製品の品質保証を実現する。生産しながら新しい品番製品の投入や旧製品の削減の準備ができ、製品のライフサイクルに応じて、設備の生産能力を変更ができる。などの工夫がなされている。

写真:デンソー西尾工場のエヤコン組み立てロボットライン
(日経ビジネス2006.2.27から引用させていただきました)

  デンソーの場合、ラインはセルと呼ばれる組立てモジュールを複数台連結した構成になっており、一つのセルで複数部品が組みつけられる。セルはロボットや搬送装置、部品供給装置、PLCなどから構成されるモジュールで、ラインの生産量に応じてセルを追加、削除して生産量を調整できる。セルの追加または削除に応じて各セルで組立てられる部品数は減増される。

 スポット溶接、アーク溶接、塗装、ロードアンロード分野などへのロボット応用は自動車製造業を中心として進んだが、最も多く作業者が働いている組み立て分野への応用は、大きな期待(注1)に関らず進展は遅い。1980年代には家電製品の最終組付けラインへ多くの水平多関節型(スカラ型)ロボットが導入されたことがあったが、最近ではそれらの大部分が撤去されたと言われている。理由は家電製品の短命化が進んだために、製品の切り替えにロボットラインが対応できなくなったことである。短期にかつ低コストで新製品の組み立てに対応できた作業者を中心とした「セル型生産システム」に取って代わられてしまった。
 自動車製造工場でも1980年代後半に、最終組付けラインへロボットを導入しようといろいろ実験されたが、ロボットによる機械組み立て技術が未熟で、変種変量生産に対応できず、多くは撤去を余儀なくされている。

写真:ソニーでのロボットによる家電組み立てライン


写真:手作業が中心のセル型生産方式

注1:
 (米)スタンフォード大学コンピュータサイエンス学部では、1970年代に人工知能の研究の一環としてロボットによる機械組み立てが研究された。これら研究の中からPUMAなどのロボットの原型が作られた。それ以降、世界の研究機関でロボットによる組み立て研究がなされたが、実際の組立工場がロボット化されたという例は少い。

 スポット溶接、アーク溶接などの用途には6軸多関節型のロボットが受け入れられたが、それ以外のロードアンロード用や組み立て用になると、6軸型が必要か?オーバクオリティではないか?という疑問が多く出された。そのために、2軸、3軸などいろいろな軸数や色々な関節形状(スライド関節、回転関節)を持った特殊ロボットが用途別にたくさん設計された。しかし、仕事に最適な形状とは言え、特殊な自動機をその都度、設計、製作することは、設備準備期間、設備価格、信頼性、使い勝手の面で不利なことが明らかになってきた。結果的に、3軸または4軸の水平多関節型(スカラ型)と5軸または6軸の垂直多関節型が残った。電機産業での組立作業や食品産業などでのロードアンロード(またはピックアンドプレース)用途には水平多関節型の4軸機が多く使われている。

写真は水平多関節型4軸ロボット

 それでは垂直多関節型6軸機は組み立て用途には使われなくなったかというそうでもなく、特に自動車部品組み立ての分野では意外に多く使われている。治具などの周辺装置の垂直精度が多少低くても、6軸機ならばロボット側で調整できるので、設備製造コスト、準備時間が短縮できるという利点が評価されたためと思われる。

 PUMAの原型であるVicArmの設計者であるVicter Sheinmanが協同出資者となって1980年に設立したAutomation機器の製造販売会社がAutomatix社である。主要な製品はAutovisionというMachine Vision Systemとそれを組み込んだロボットシステム(例:視覚補正機能を持ったアーク溶接ロボット)などであった。Railというスクリプト言語を持っており、画像認識プログラムをユーザが書くことができた(注1)。Autovisionは当時の価格で1500万円もする高価な製品であった。

写真:Autovisionを使った部品組み付けロボット

 部品認識用のビジョンシステムはロボットを凌駕する大きな市場を創出するかと思われたが、極言すればリミットスイッチなどのセンサと同程度の役目しか果たせていないので、ロボットに比べても小さな市場規模しか形成できていない。Autovision程度の性能の製品ならば、現在では20万円以下で売られているのではないか。

 1982年頃までには、PUMAも改良されてだいぶスマートな外観になった。日本でも実際の製造ラインに導入され使われた。モータがブラッシ整流方式の直流モータであったので、定期的なメンテナンスが必要であった。また、角度センサはインクリメンタル方式のエンコーダであったので、起動時にゼロイングという原点復帰動作が不可欠であり使い難かった。(現在のロボットではエンコーダはアブソリュートエンコーダ、モータはブラッシレスDCサーボモータとなっている。)
 現在ではUnimation社は売却されPUMAの製造はWestinghouse社を経て1989年に
Staubli Robotics社(本社はスイス)に移っている。数多くのバリエーションを持つロボットに育っているようだ。

 United Technorogies社はフォーチュン500社にはいる大企業。軍用機器(航空機、宇宙機器)や建築用機器など広い商品分野を持つ。


 Bendix社はかっては自動車用ブレーキ、燃料噴射機器、レーダー機器、ミニコンピュータなどを作っていた会社。現在は?


 Westinghouse Electric Corp. 電気製品製造会社。原子炉の製造会社でもある。


 General Electric社は巨大な電機製造、サービス会社。Forbes Global 2000 によれば世界で2番目に大きな会社。


 Cincinnati Milacron社は工作機械メーカである。企業では初めて座標変換機能を持ったロボット(油圧駆動方式)を開発して、GMと共同でConsightという視覚によるコンベアトラッキングシステムを実現した会社であった。その後、電動型ロボットを開発し現在でも製造販売しているようだ


 IBMはコンピュータで生産システムを制御するビジネスをやっていた。ロボットも内製(直交型)、外部調達(スカラ型)して販売していた。6軸直交型ロボットは超音波センサフィードバックを利用して電気部品の組み立てに適用していた。


 1977年にPUMAが発表された後、米国の大企業を中心に、いろいろな企業が産業用ロボットの開発を進めた。1982年3月1~4日に米国のロボットシンポジウムROBOTS ⅥがデトロイトのCOBO HALLで開催され、同時に開催されたオートメーション機器展で米国製の産業用ロボットが数多く展示された。この展示会を見学したときに撮った主な写真をここに掲載する。これらのロボットを造った大企業は数年後にはほとんどがロボット製造・販売から撤退してしまった(注1)。撤退した原因は売れなかったことだろう。米国企業の機器開発に関する底力と変わり身の早さ感じる。
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 注1:2006年現在、米国の唯一の産業用ロボットメーカは Adept Tecnology Inc.と思われる。経営陣には1970年代にStanford大学で計算機制御アームによる機械組み立ての研究(PUMAロボットもこの研究をベースにしている)をしていたCarlisleやShimanoがいる。新技術の開発に意欲的で、技術力はトップクラス。近年では長期間の研究の後で、AnyFeederと呼ぶ「視覚支援型のパーツフィーダ」を製品化した。
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写真はCOBO HALL (Wikipedia,the free encyclopediaから借用)

 当時、デトロイト市はGMやFordなどの米国自動車が日本車におされて、不景気のどん底にあり、商店街なども荒れ果てていたことを覚えている(朝日新聞によれば2006年現在もデトロイト市は再びそのような状況になっているらしい)。
 デトロイト市は自動車産業に加えてロボット産業を振興させて、経済を立て直したいと思ったらしい。ROBOTS Ⅵなどを積極的に誘致していた。しかし、デトロイト市の思うようにはならなかった。PUMAのような高能力のロボットが出現しても、それをうまく使って利益を出すのは中々難しかった。つまり産業用ロボットビジネスはなかなか難しいビジネスだった。

 世界で最初に電動式のロボットを発売したのはスエーデンのASEA社(現在のABB社)であり、1973年のことだった。日本では1974年に安川電機が電動型のアーク溶接ロボットを開発した。ASEAロボットをお手本に、写真のアーク溶接用電動ロボット(5軸)Motoman L-10 を発売したのは1977年であった。

 当時は国産では数100ワットクラスの直流サーボモータやサーボドライバーは入手しがたく、NC工作機械も電気油圧パルスモータが主流であった。ファナックは一時期、高出力の電気パルスモータを電気油圧パルスモータに代わって商品化しようとしたが、騒音が大きく断念し、米国の直流サーボモータ技術を導入するなど、あわただしい変化が起こっていた。最初のMotomanは8ビットマイクロコンピュータで制御されており、座標変換機能などはまだ持っていなかった。

PUMAの特徴

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 PUMAは組立作業のロボット化を可能にするために、開発の狙いを「小型化、使いやすさ」に定めたロボットであった。

 1)小型化(軽量化)
  それまでのロボット(例、Unimate 2000)は人の大きさに比べれば大型で、質量も1トン近くあり、GMが要望するような人と隣りあわせで作業ができる設備ではなかった。そこでPUMAでは大きさをほぼ人の腕並にし、質量も一挙に55kgまで軽量化した。駆動モータは電動(出力50~100wの直流モータ、アナログアンプで駆動)とし、最大可搬質量は2.5kg、移動速度は高速(1m/sec)なので、まだまだ人が隣りあわせで作業ができるほど安全にはなっていない。しかし、Unimate 2000のように人を押しつぶして圧死させるというような危険はなくなり、安全性は向上した。また、小型化により軽量化し、必要電力も低く(1.5KVA)なり、低価格で製造できるようになった。

 2)使い易さ
 初めて16ビットマイクロコンピュータ(LSI-11/2・・・注1)が使われたロボットである。関節角度座標と実世界座標との間の順逆座標変換機能(注2)、プログラミング言語VAL(Variable Automation Language)などをはじめとして多くの機能がソフトウェアで実現された。これにより制御装置が低価格にできたと同時に使いやすくなった。PUMAはその後各社から発売された産業用ロボットの基本形を完成させたといってよい。

 注1:LSI-11/2はDigital Equipment Corporation(Dec)製のマイクロコンピュータで1975年ごろに商品化された。PDP-11ミニコンピュータをLSI化したLSI-11マイクロプロセッサを実装している。浮動小数点演算命令も用意されていたので、複雑な座標変換計算が実時間で可能になり、多関節ロボットを直交座標系で動かすことを可能にした。RT-11というリアルタイム・オペレーティングシステムも用意されていたので、ソフトウエア設計がきれいにできた。PUMAもRT-11を使っていたと思われる。

 注2:順変換とは関節角度座標値(θ1、・・・θ6)→ 実世界座標値(OT)
    逆変換とは実世界座標値(OT)→ 関節角度座標値(θ1、・・・θ6)
    実世界座標系にはワールド座標系、ツール座標系、部品座標系、カメラ座標系などがある。

 

 3)発展性
 種々の直交座標系で、位置姿勢決めや移動命令を出すことができるようになったので、CCDカメラを使って作業対象の位置姿勢を計測して把持するような適応動作が可能になった。また、作業対象部品のCAD(Computer Aided Design)データが利用できれば、ロボットの教示作業を省力できる可能性が出てきた。

 1977年にGMの生産技術研究所(GMMD:General Motors Manufacturing Development)は自動車部品の組み立ての自動化に使うロボットの開発を公募した。その仕様はPUMA(Programmable Universal Machine for Assembly)としてまとめられていた。Unimation社はStanford大学計算機科学部研究員のVictor Sheinman(VicArm Incを作ってVicArmを研究用として販売していた)を雇って、Unimation West社で開発に当たらせ、Unimationの本社でGM向けに製造した。 
 PUMAの仕様とは、
 1)関節型のロボットである。
 2)人間の腕と等価(同じサイズ)である。
 3)人間との混在が可能である。
  (人間と触れても危険性が少ない低出力機を目指していたが、実際には最大可搬加重2.5Kgを持って最高速度1m/secで作業者に衝突すれば、作業者を殺傷するパワーを持っていた。この仕様は、達成されなかった。作業の高速化と衝突安全性は両立していない。ロボットは安全柵内部で運転されている。)
 4)段階的合理化が可能である。
 5)ロボット故障時は人間でバックアップできる。

注1:IRON AGE,Nov.28,1977. ONE BIG STEP FOR "ASSEMBLY IN THE SKY"

写真:Unimationから発売当初のPUMA(5軸型)(参照:ROBOTS IN INDUSTRY Vol.5,No.3 Fall 1978)、VicArmがその原型となっている。コントローラの上にアームが設置され、両者が一体化されている。ロボット故障時にコントローラも含めて交換される。交換された機械にプログラムとデータを入れ替えれば直ちに利用可能な状態になる「ロボットの互換性」が追及された。

図:PUMAの使われ方の概念図(GMの仕様)(参照:IronAge November 28,1977,One Big Step for "Assembly in the Sky")。ロボットアームとコントローラが一体化されている。


写真:Stanford大学コンピュータサイエンス学科のVictor Sheiman氏が人工知能研究用に設計した電動型ロボットアームVicArm。PUMAのベースになった。

 GMやFordなどの自動車メーカはスポット溶接や塗装作業の次のロボットの応用分野として、機械組み立て分野を考えていた。この分野のロボット化の困難さは後ほど思い知らされるわけだが、自動車製造工場の中での組み立て作業に従事する作業員の数は最も多く、ロボットによる自動化の効果は大きいように予想できた。また、多くの大学(例:Stanford大学)や研究機関(MIT,Chaies Stark Labs )でロボットによる機械部品組み立ての研究がなされていた。
 Unimation社(Unimateの製造会社)は、1979年代後半にFord Motorと共同でトルコンのサブアッセンブリーであるC-6ガバナー(部品数は12~15)の組み立て研究に取り組んだ。この研究で彼らは組み立てロボットに要求される最重要の性能は組み立て速度だという結論に達した。そこで、Unimation社はミニコンピュータで制御される6軸油圧サーボ型組み立て用ロボットを開発し、サーボのバンド幅は50Hzでツール端の加減速度は±2G,位置再現性は±0.1mmの高性能を実現した。私もこのロボットの実物をUnimation社で見たことがあるが、ロボットの後部がカバーされていて、動物の「アルマジロ」のような格好をしていたのが印象に残っている。

写真:機械組み立て用に開発されたUnimation 6000の2台が協調してC-5ガバナーを組み立てている。実際に商品化・販売されることは無かった。(参照:Machine and production engineering. 22.March 1978,Much to leran about robot)

 2台でC-5ガバナーを組み付けた結果は、組み立て所要時間が作業者の場合(一人)が46秒であるのに対し、31秒であった。このロボットは結局、実用化されなかったが、その理由はUnimation6000の価格が高すぎたためと思われる。作業者がガバナーを組み立てる場合の費用に対して、2台のUnimate6000がガバナーを組み立てる費用が高すぎ、また将来的に価格が下がらないとの判断があったのだろう。これ以降Unimation社は、ロボットの低価格化を目指して小型軽量の電動型ロボットの開発に方向転換する。

写真:Unimate6000の構造

GM製NC Painter

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 GMが1980年ごろに内製した7軸の油圧駆動型塗装専用ロボット。Digital Equipment PDP 11/34コンピュータ(16ビット演算)で数値制御されていた。手先にある塗装ガンに塗料を供給する配管がアームの中に組み込まれており、外部に露出しないすっきりとした構造が特徴的であった。
 塗装ガンが曲線軌跡上を滑らかに移動できる軌跡制御や教示をオフラインでする、いわゆるオフラインティーチングなどが採用されており、自動車メーカの理想を追求した先進的なロボットであった。GMが自ら生産用のロボットを製造したことは、NC Painterが最初で最後であったが、GMの産業用ロボット利用への熱心さは世界の生産技術者たちを刺激し、その後、産業用ロボット利用研究が世界的に大いに進展した。しかし、ロボットのような高度な機械を信頼性高く製造し、性能を維持することは困難を極めた。工場の生産設備としてのロボットに要求される信頼性のレベルは短期の開発期間で達成できるレベルのものではない。NC Painter以降、GMはロボット開発と製造を専門ロボットメーカに任せることになる。

写真:2台のNC Painterが塗装ブースの中で、コンベアラインの両側に配置されている。ロボットは車のボデーの移動に追従して移動しながら塗装作業をする。(参照:The Industrial Robot Dec. 1981,Assembly and machine loading will dominate General Motors robotics programme) 

写真:NC painterは6個の回転軸と1個の直線移動軸(コンベアへ追従)を持つ。

 ユニメートロボットの成功に刺激されたのか、当時、工作機械の世界トップメーカであったシンシナチミラクロン社(米国)は1973年にT3(T3はThe Tomorrow Toolのアクロニム、開発者はRichard Hohn)というロボットを開発、発表した。コンピュータ(16ビットのミニコンピュータ)で制御された最初の市販ロボットではないかと思う(注1)。油圧駆動ということを除けば、現在のロボットと同程度の機能を持つものであった。ユニメートとは異なり、実世界の直交座標系で移動命令(直線移動制御、姿勢制御、移動物体追尾制御)を出すことができた。 GMMD(GMの生産技術研究所)はこのロボットとレンジファインダーという物体形状計測システムとを組み合わせて、Consightというコンベアトラッキングシステムを開発した(研究用)。コンベア上をランダムな姿勢で流れてくる複数種類部品の形状、位置、姿勢をレンジファインダーが計測、識別し、ロボットがその結果に基づいて部品を掴み、種類別にパレットに整列することができた。同様なシステムは現在では一般的に使われるようになったが、当時ではコンピュータ制御された産業用ロボットの大きな可能性を生産技術者に印象付けた。

 写真:GMのConsightロボットシステム(参照:Proceedings og 9th ISIR,1979,195)


  写真:Consightのレンジファインダーの原理


 注1:16ビットミニコンピュータ(浮動小数点演算ハートウェア付き)が使えるようになったため、サーボ系に滑らかな速度指令を出すことができた。初期のユニメートのような特殊なサーボシステムは不要になり、滑らかで高位置精度な動きが実現できるようになった。

 参考:ユニメートはコンピュータを持たなかったため、直交座標系での移動命令はできなかった。関節座標系(関節回転角度など)でロボットの位置姿勢が記憶され、移動命令は目標関節角度で与えられる。始点から終点(目標位置)までの各軸ごとの角度偏差に比例した目標速度が各関節サーボに与えられるので、各軸サーボの移動は同時にスタートし、ほぼ同時に目標値に到達する。したがって移動中の軌跡はほぼ直線的となる。

 産業用ロボットには、数mの動作領域内で、数10kgのペイロード持って、高加減速度(1G)で発進、停止する動作を長時間(数万時間)繰り返しても高い停止位置精度(1mm以内)を維持することが要求される。最高速度は毎秒1から2mに達する。
 こような要求性能は40年前の普通の技術レベルでは達成は不可能であった。ユニメートの技術者はそれをデジタル技術などの新技術で克服し、産業用ロボットを実用化した。
 現在のように、高出力電気サーボ用の高電流スイッチングトランジスタも低価格なコンピュータも無かった状況下で、彼らが当時採用したシステムの構造は、

 1)デジタル電子制御回路を採用(最初は真空管が使われた)
 2)位置センサには、アブソリュートデジタルエンコーダを採用(Engelbergerらが自ら開発した)
 3)位置データ、制御データの記憶にはドラムメモリを使用
 4)電気油圧サーボ系を採用し、サーボ弁には非線形な流量特性を持たせた。

 産業用ロボットの生命線である停止位置の再現精度の高さは、上記1)、2)、3)のデジタル技術と4)の技術を組み合わせて初めて可能になった。つまりデジタル制御技術が産業ロボット実現のキーであったといえる。デジタル技術は当時出現しつつあった数値制御工作機械(NC工作機械)の技術を参考にしたと思われる。
 またロボット必須機能である、「2点間を最短時間で移動する」性能を実現するために油圧サーボ弁に検討が加えられた。すなわち、通常のように入力信号に対して比例した流量を流すのではなく、その二乗に比例する流量を流すよう工夫した(注1)。これにより一定の減速度で減速でき、急減速でも振動を発生しないようにできた。さらに弁には入力信号がゼロの近傍で出力流量が無い部分(=不感帯)が設け、位置決め完了後に位置のドリフトが起きないように工夫した。つまり加速、定速移動、減速後、目標位置の数ビット前でクリーピング(低速移動)に移行し、一致したら不感帯部分で流量をシャットダウン(ON-OFF制御)して停止する。これらがデジタル電子回路で制御され、高い位置精度を実現できた。

 注1:入力信号の二乗に比例する流量特性を持つサーボ弁とは
   流量を制御するサーボ弁のスリーブのオリフィス形状が比例型サーボ弁のように矩形(サーボ偏差に比例してオリフィスの面積が増加する)ではなく、末広がりの三角形状(サーボ偏差の二乗に比例してオリフィスの面積=流量=速度が変化する)になっている。また、スリーブのオリフィスには不感帯が作られており、サーボ偏差(注2)が一定値以下になるとオリフィスを完全ブロックするので位置がドリフト(時間とともにずれてゆく)することは無くなる。

 注2:サーボ偏差とは
   サーボ偏差≒位置偏差=目標位置-現在位置

  
 

 私が産業用ロボットの川崎ユニメート2000に初めて触ったのは1972年(34年前)であった。この時点で、GMなどの米国の自動車メーカは既にユニメートをボデー組み立て用のスポット溶接機として使っていた。トヨタ自動車もボデー組み立て用として使い始めていた。ユニメートは大量に使われた最初の産業用ロボットであった。当時の最先端の電子機械であり、今から見ても大変に興味深い構造を持っていた。コンピュータこそ使われてはいなかったがデジタル電子回路が高度な多軸油圧制御回路を制御していた。現在の産業用ロボットが持つ基本的な機能は既に備わっていた。しかしこの時点で既に、George DevolがPlayback devise for controlling machines using magnetic recordingの特許をとってから28年、George DevolとJoseph Engelberger(Father of Roboticsと呼ばれている)とが最初のProgrammable robot "arm"を設計してから20年経っている。(参考:Timeline of Robotics part2)。新しい概念の機械が世に出るまでいかに長い時間がかかることか、それをやり遂げたユニメートの発明者Engerlbergerに脱帽である。


写真はユニメート2000(5軸)

 「産業用ロボットがやる仕事は人間に近づくが、姿形は逆に遠ざかる」というファナック社長の見解について考察してみよう。よく考えると、この見解は矛盾があるような気がする。「やる仕事が人間に近づくならば、姿形も人間に似てくる」と考えるほうが無理がないと思う。仕事のやり方が人と違うならば、姿形も人とは異なるものになるというのが正しいのではないか?この例としては、電子部品挿入機(マウンター)がある。当初は人手でプリント版の穴にICの足をはめ込んでいたが、それを機械化したものであるが、人より何百倍も早くはめ込むことができるようになった電子部品挿入機の形は人の手とはまったく異なるものだ。仕事の仕方を人のやり方とまったく違うものにしたから、姿形も人とはまったく違うものになっている。取り付ける部品の形状も機械が仕事をしやすいように設計変更されたから高能率な機械化が可能になった。
 自動車や自動車部品は人が組み立てることを前提にして設計されている。それを自動化しようとすると人と同じような姿形をもったロボットがほしくなる。自動車部品の組み立てや自動車の最終組み立ては自動化が遅れており、人がほとんどを組み立てているのが現状である。
 自動車の革新的な設計変更が近い将来に実現できるとは思えないので、しばらくは人間と同じような組み付け方法(たとえば、双腕ロボット)で少しずつ自動化が進むのではないか?しかし、このような方法では、組み立てコストがどうしても高くなって、人間の作業者との競争では勝ち目がないのかもしれない。自動車の設計を革新して、効率のよい組み立て機械が開発されるのが最終的な形ではないか?そのときの受動組み立て機械は人間の姿形と相当異なるものになっていると思われる。
 自動車が電子部品挿入機のような組み立て機械で、低価格、高速で組みつけられるのはいつのことだろうかと考えると、その時期は見当もつかない。一方、そのように組み立てられるようになると、自動車の価格は暴落し、自動車産業はうまみのない産業になるのかもしれない。

 安川電機が発表した双腕ロボットの形態は、トヨタ自動車と安川電機が共同して開発し、自動車製造ラインに数十台導入したといわれる双腕ロボットの形態と異なる。前者は垂直多関節型の単碗アームを回転する胴体に二本装着した形(下図)であるのに対し、

安川電機が発表した双腕ロボット(2005年12月)
安川電機のサイト(http://www.yaskawa.co.jp/newsrelease/2005/15.htm)から引用


後者は回転または水平移動する胴体に上下軸がスライドする水平多関接型単碗アームを二本装着した形(下図)となっている。

トヨタ自動車と安川電機が共同開発した双腕ロボット(2005年1月)
トヨタ自動車の組立工場などで導入が始まっているとのこと
(参照:http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20050106AT1D0508H05012005.html、
 現在は削除されている)


トヨタ自動車工場で数十台が作業する双腕ロボット
(参照:http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1205/kyokai41.htm)

 これからトヨタ自動車が製造ラインに多数導入してゆくとされる双腕アームはどちらの形態になるのだろうか?後者の双腕ロボットの導入経験に基づいて前者の形態に変更されたのか?このあたりの事情は不明である。
 ファナックの稲葉善治社長が日本産業経済新聞(2005年12月9日)で、「産業用ロボットがやる仕事は人間に近づくが、姿形は逆に遠ざかる」と述べているが、上記の双腕ロボットの形態の変化は、これと逆である。製造コストを下げるためにこのような形になったのか?まだまだ、今後変化してゆくのかもしれない。

 産業用ロボットの開発でブレークスルーを作るために、いろいろなアプローチがなされてきた。それがはからずも安川電機とファナックという2大ロボットメーカのフラッグシップとして対立的に発表された。現時点ではどちらの進め方がよいかは判らない。それぞれ長所短所がある。
 双腕ロボットについていえば、長所は「一本のアームでは困難な難組み付け作業がやり易い」ということだろう。2本だけでなく3本以上のアームの協調動作ができれば可能となる組立作業も多いと思われる。一台のロボットが治具を使って組み立てる場合に比べて、治具を簡単化でき生産準備の時間を短縮できる可能性がある。一方、短所は単腕でできる作業も多いので効率が悪いという点がある。双腕型を作らなくても単碗のアームを2台使えば良いという批判もある。
 知能ロボットについては、その定義からはじめなくてはならない。ファナックの定義では「視覚または触覚センサを使って、作業対象の位置形状のばらつきに適応して作業を完遂できるロボット」のようだ。長所は作業の停止が起きにくいことだ。短所は作業速度が遅くなること。
 多腕知能ロボットがあれば、一番よいことになるが、コストが高すぎる。
 当面は作業の特徴にあわせて、これらのロボットを使い分けることになるのではないか。安川電機は双腕ロボットを作業の高速性が要求される自動車の組み付け作業に使おうとしているし、ファナックは知能ロボットを作業が比較的低速でよい部分(バリトリ作業、ワークの取り付け取り外しなど)で使っている。 
 技術的に難しいのは知能ロボットであろう。物体認識、接触の制御など20年以上にわたる長い研究の歴史があるにもかかわらず、いまだに実用例は少ない。ファナックが実用のラインで導入に成功したことは画期的というべきであろう。敬意を表したい。

 産業用ロボットの開発の方向についても、ファナックと安川電機は考えが異なるようだ(朝日新聞2005年12月9日)。安川電機はトヨタ自動車との共同研究で、双腕ロボットの開発を進めている。

双腕ロボット(安川電機2005年)
安川電機のサイト(http://www.yaskawa.co.jp/newsrelease/2005/15.htm)から引用

 両腕(各6軸)を装着する胴体に回転1軸を追加する(計13軸)ことで、両手協調による組立作業をやりやすくする。そのために、アームの関節の形態と配分を従来型の産業用ロボットの形態から変えた。手先の水平移動がやり易い構造になった。一方、ファナックは数年前までは双腕ロボットを従来型ロボットアーム2本で構成して機械組み立てをやらせていたが、「システムに柔軟性がなく、制約が多いことがわかって開発を卒業した」とのこと。

双腕ロボット(ファナック2000年)
力センサ、視覚センサなどで、対象物の状態を観察しながら、目的の仕事を完遂する。

http://www.fanuc.co.jp/ja/product/robot/pdf/intelligentrobot.pdfから引用)

視覚センサ(目)や力覚センサ(手)を駆使して、自律的に作業を完遂できる知能化ロボットの開発に重点をおいている。

知能ロボットの仕様(ファナック、産業用)
http://www.fanuc.co.jp/ja/product/robot/pdf/intelligentrobot.pdf から引用)
 

 日本の産業用ロボットメーカでロボット生産額の1位、2位は安川電機とファナックである。この2社のロボット開発でのスタンスは相当異なることが、2005年12月9日の朝日新聞に掲載されていた。大変興味深かった。安川電機はホームロボット(車輪型)の開発、販売をしているが、ファナックは参入の意図はないとのこと。「生産性向上を目的に贅肉をそぎ落とした産業用ロボットは、人間を相手にする際に重要なゆとりや情緒性と相容れない」というのがファナックの見解。

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